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ある大統領の善意

 建国以来、我らの祖国・合衆国は偉大であった。

 数多の戦争に勝利し、世界を牽引する役割を手にした。経済でも他の追随を許さない。我が国は、常に時代の最先端を進んでいた。誰も我が国には勝てず、我々が世界の安定を保ってきたようなものだ。

 あの大国が現れるまでは。

 西暦二〇五八年。その数十年前から脅威だと言われていたかの国は、今では我が国に匹敵する力を手にしていた。匹敵とはつまり、経済力、軍事力で対等という事だ。人口に至っては、あちらの方が我が国よりも三倍以上多い。しかも我が国が高齢化により年々人口が減っているのに、あの国は緩やかだが増え続けている。

 世界は二分された。我々の側か、奴等の側か。そして奴等の側は日に日に力を増し、我々の側は日に日に衰えている。衰えているといっても暮らしが困窮しているのではなく、相対的なものであるが……向こうの歩みの方が速ければ、いずれ追い越される。不思議の国のアリスで赤の女王が語ったように。

 偉大だった我が国は、過去の話だ。今は自国の影響力を保つだけで精いっぱい。

 諦めて全てを手放せば、一時楽にはなるだろう。しかしそれをしたなら世界は奴等の……自由も平等もない勢力に飲まれ、いずれこの国は力により攻め滅ぼされる。我が国の国民が、自由と平等を愛する民が悲劇に遭うのだ。

 私はこの国の大統領だ。百年後、千年後にも我が国が残るよう決断を下すのが使命である。

 そう、例え今は恨まれようとも。

 奴等が我が国を追い越そうとするのであれば……我々は最低でも奴等と同じ速さで歩まねばならない。

 奴等が我々を超えるために禁断の術に手を付けたのならば、我々もまた禁断の術を手にしなければならないのだ。

 我が国が核兵器を保有しているがために、奴等もまた独自に核兵器を開発したように。


「大統領、本当によろしいのですか?」


 側近からの言葉に、私は深く頷いた。

 次いで手元にある一枚の紙に、直筆のサインを入れる。たかが紙一枚なれど、そこに書かれた言葉の意味は決して紙のように薄いものではない。この紙に書かれた大統領令は直ちに施行され、我が国の新たなルールとなるのだ。

 この決断には、私の支持者からも多くの反対が出ている。恐らく私は、二期目の大統領選挙には負けるだろう。だが、私はこの決断が我が国を助けると信じている。

 私のこの判断が正解か、それとも不正解か。それは千年後の人々が判断してくれるだろう。

 今はただ自分の決断を信じるのみ。


「合衆国内での、デザイナーベイビー施術を解禁します」


 人を超える人が、我々の正しさを証明してくれると――――

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