あしたのジョーのススメ!!
私の名前は西木 良子。145cmの低身長がコンプレックスの前髪一つ結びのヤワラちゃんヘヤーの女の子です。
さて、私の紹介はそこそこに、今日は私のクラスに転校生がやって来ました。
転校生は女の子で、長い髪にキリッとした目が特徴的で・・・頭にオレンジ色のハンチング帽を乗っけています。
「アタシの名前は山吹 嬢。ちなみに"嬢ちゃん"とか"お嬢様"とかアダ名付けたら、コイツをねじ込むから。シュッ、シュッ。」
こ、怖い。自己紹介の途中に急に切れの良いシャドウボクシングをやり出した。絶対関わりたくないけど、私の隣の席だけが空いているのです。
「そ、それじゃあ、山吹さんはそこの空いてる席に座って。」
ほら来た。この問題児は私の隣に着席。はい、座って早々にドカッ!!と机の上に足を上げる。御行儀悪し。
「おっ、お隣さんかい。まっ、宜しく頼むわ。」
くそっ、話し掛けられた。一応は話を返した方が良いのか?
「に、西木 良子って言います。よ、宜しくお願いします。」
自分でも分かる、今私は最高にぎこちない作り笑いをしている。
「何っ!!」
"ズダーン!!"
急に椅子から転がり落ちる山吹さん。何なのこの人?勘弁して。
「西木 良子って!!ちょっと、この紙に名前書いてみ!!」
突然に山吹さんから紙と鉛筆を手渡され、名前を書くことを強要された私。
仕方無いから書きますよ!!私は気が弱いので!!
そうして私が紙に名前を書き終えると、バッと山吹さんは紙を取り上げて、ワナワナと擬音が聞こえそうなぐらい震え出した。
「おっ、西木 良子・・・やっぱり葉子とマンモスを足して二で割った名前じゃんよ!!このうどん野郎♪」
葉子?マンモス?なんのこと?しかも謎のうどん野郎呼ばわりとか、今日はもう最悪ですよ。
こうして私は山吹 嬢と出会ってしまった。
昼休みに銀色の昔ながらの弁当箱に白飯だけが入った物と、カップ豚汁を物凄い勢いで食べ終えた山吹さんは、まだ私が食べ終えてないのに手を掴んで無理矢理に私を屋上まで連れ出した。えーん!!もう涙目だよ!!
そうして屋上に来て早々に山吹さんから謎の宣言をされた。
「私は『あしたのジョー』が大好きな女子高生なの!!」
あ、あしたのジョー?なんか聞いたことがあるような??確か昔のアニメだったような??
「あっ、前に実写の映画が・・・。」
「その話はするんじゃねぇ!!」
ど、怒鳴られた。私は全く悪くないと思うけど怒鳴られた。
「コホン、まぁよ、そのぐらいの知識があれば良いよ。今はな。」
今は?スゲー引っ掛かる言い方だ。嫌な予感しかしない。
「明日アタシが無印の『あしたのジョー』のテレビシリーズのDVDを全巻持ってくる。お前にはそれを見てもらうぜ、西。」
それ見たことか!!そんな昔のアニメを花も恥じらう女子高生に見ることを強いるなんて・・・鬼の所業!!
「い、いやだ・・・私見たくない。」
「見なさい。ほんの瞬間にせよ、眩しいくらい真っ白に燃え上がって、あとには真っ白な灰だけが残るから。今の無気力な若者にこそ私は見て欲しい。」
「急な丁寧口調が怖すぎる!!」
もう怖いよ、この人。それにこんなとこに居たらウチの不良グループがそろそろ・・・。
「誰だお前ら!!ここはアタシらの縄張りだよ!!」
うわ!!ほら来た!!時代錯誤な絶滅危惧種のスケバングループ!!
「へんっ、オメーらが誰か知らねーがな、屋上はテメーらだけのもんじゃねぇだろうが!!すっこんでろ!!」
わぉ!!まさかの逆らっていくスタイル!!私を巻き込まないで!!
「このアマ・・・舐めやがって!!」
スケバングループの一人が山吹さんに殴り掛かろうとしたけど、グループのリーダーの大神さんがそれを制した。
「待て待て、久々に粋の良い奴だ。私に任せな。」
大神さんは銀髪のセミロングの髪に、鋭い目付きの見た目からして怖い人。おまけに手下は5人も居て、逆らったら100%駄目な人です。だから御願いだから山吹さん逆らわないで!!
「ぶっ殺したる!!」
この人すぐに逆らう!!もうやだ!!
「チッ、本当に粋の良い女だな。名前はなんて言うんだい?」
「嬢、山吹 嬢。テメーは?」
「大神 紀子だ。」
と、ここで何故か山吹さんの目がキラキラし出した。
「紀ちゃんキター!!しかも、大神・・・狼・・・ウルフ!!」
・・・ここまで来たら狂人だよ。そんなに好きか?あしたのジョー。
「へっ、ちょっとずつだがよぉ・・・俺は燃えてきたぜ。」
山吹さんはそう言うと、両手をブラリとさせて不気味に笑い始めた。めっちや怖いよ!!
「へっへ、どうしたウルフ?掛かってこいや。」
「君の悪い女だな。こいつで、お寝んねしてな。」
"ブンッ!!"
風切り音がするぐらいの右ストレートを、憎い山吹さんの顔に向けて打つ大神さん。しかし、山吹さんはそれに臆することなく、大神さんの右ストレートに合わせて自身も右ストレートを放った。
大神さんの右腕を滑るように山吹さんの右ストレートが向かって行った。
そうしてクロスした両方の拳は、それぞれの顔にねじ込まれた。
"ズガァン!!"
えっ、これ顔を殴った音!?凄まじい音だけど!!
「ぐはぁ・・・。」
プシューと鼻血を吹き出しながら仰向けに倒れる大神さん。
対して山吹さんは頬を赤くしていたけど不適に笑っていた。
「へっへ、ウルフなんだから、せめてダブルクロスくらいはして欲しかったな。」
い、意味分かんないけど、なんか格好良い。作画が神ってる!!
「ね、姉さん!!」
ウルフ・・・いや倒れた大神さんを心配して手下達が駆け寄る。
それを気にも止めずに、山吹さんはハンチング帽が風に飛ばない様に右手で押さえながら屋上を後にしようとする。私も残っていたらスケバングループに逆恨みされてボコボコにされそうなので、山吹さんの後を着いて行く。
山吹さんはなんか無口になって口笛とか吹き始めたけど、歩いている途中で突然立ち止まり、キラキラした目で私にこう問うてきた。
「ねぇ、力石は居るの?居るんでしょ?居るって言え。」
ひぇー、胸ぐら掴まれたぁ・・・力石なんて苗字ウチの学校に居ないんだけど・・・でも似たような名前の人を紹介しないと絶対に殴られる。
「と、図書委員の先輩に立石 薫っていう人が居ます。だから殴らないで・・・。」
立石先輩は眉目秀麗で胸も大きい、物静かなミステリアスな美女です。
「立石 薫?・・・なんかシンパシーを感じる!!早速喧嘩吹っ掛けて来るぜぇ!!」
この後、図書室で騒いだので、山吹さんは立石先輩から強烈なアッパーを喰らって「ぐぁああああ!!」と倒されましたとさ。
さて嬢ちゃんの明日はどっちだ!?