3.使い過ぎにご注意!
「魔法が使えるのは分かったが、どうやって使うんだ?」
「使える魔法は四属性の基本です。属性の玉を掌の上に発生させ、対象に当てればダメージが入ります。まずは水玉を使ってみますか。掌を掲げ水を思い浮かべてください」
俺は袖をまくり掌を上に向けると、全身から掌へ気が集中するイメージで力を込める。
体を震わせながら頑張った結果、俺は何もできずに地面に倒れ込んだ。
「気を集中するとか関係ないので、簡潔に水の玉をイメージしてください。声に出すとより良いかもしれません」
「それを先に言えよ!」
俺は肩で息をしながら片手をあげる。
「ウオーター」
掌の数センチ上に拳大の揺らめく水の玉が現れた。
「その状態で対象を意識すれば、それを攻撃します。ちょうど道の脇に大きな岩があるので狙ってみて下さい」
ナビに言われた通りに俺が岩に意識を向けた瞬間、飛沫をあげながら水玉が高速で岩に突き刺さった。
玉が破裂し濡れた岩が残る。
どれ程の威力なのかは分からないが、速度からいって相当痛いに違いない。
攻撃魔法というくらいだから痛いのは当たり前か。
そんなことを考えながらもう一度水玉を岩に投げる。
感触を確かめるようにそれを繰り返した。
「これが基本的な技の一つ水玉です」
「何となく掴めた気がする」
満足して歩き出そうとした時だった。
近くの草むらが盛り上がり、黒いふさふさの魔物が現れた。
まん丸の胴体から短い手足が生えている。
地面を這うように出てきた事から四足歩行なのだろう。
「俺達に少し水くれないか」
胴体の中央下辺りが口なのだろう。もさもさと動いていた。
見た目から獰猛には見えないけど、どう見ても魔物だよな。
もしかして魔物にも良い奴と悪い奴がいるのか。
「魔物とは魔族でいう弱い部類の生き物です。この世界には人間、エルフ、ドワーフ、樹人、獣人、魔族など多種族がいます。種族が違おうとも人間同様、性格の良し悪しや個体性もあります」
「魔族でも悪くない奴もいるって事だな」
「今にも倒れそうで、必死に水を求める極悪な魔物もいるかもしれません」
「なんでお前はそうやって話をややこしくするんだ!」
俺はナビに水玉を投げつけ、魔物に近寄った。
「何か入れ物とかあるんか?」
「口の中に落としてくれ」
もさもさしている胴体が裂け、大きな犬歯の並ぶ口が現れる。
俺はその中に水玉を落としてやった。
魔物は涙を流しながら森の中へと消えていった。
「これで良かったのか?」
「自分がどう思うかだと思います。それより、今の行ないでポイントが一つ貯まりました」
「魔物からの印象が良くなったのか。喜んで良いのかよく分からないな」
「これで悪の道に一歩進みましたね」
「だから、おまえは……」
力の込めた腕を振り上げた所で、目の前が急に真っ暗になった。
状況が分からず、そのまま尻餅をつく。
「魔力の枯渇による立ち眩みです」
魔力を使い切るというのを失念していた。
無限に使えるとは思っていなかったが、戦闘中じゃなくて良かった。
俺は目頭を押さえながらナビに聞く。
「そういえば、自分のステータスを見れないのか?」
「そういうスキルを望むのなら見れますが、お勧めはしません」
「数値ゲーになるから?」
「逆です。この世界は個体差があり、環境にも左右されます。どういった敵に、どのように剣を振り、どのような状況で魔法を使うか。パターンは無限です」
正確に数値化はできるが、表示させても細かすぎて混乱するだけだと、ピックアップしたとしても、その数値は当てにならないとナビは続ける。
この世界はゲームを元に作られたとしてもゲームではない。
これは一つずつ試して覚えていくしかないか。
こういう試行錯誤が醍醐味ってこともあるからな。
水玉を出した回数は試し打ちに四回、魔物に使った七回の合計十一回。
いや、途中でナビに使ったから十二回として、数値のばらつきがあるとしたら、余裕を持って十回で止めとくべきか。
「枯渇状態から全快するまでどれくらいかかるんだ?」
瞬きを繰り返しながら周りを見渡す。視界に異常はなくなった。
全快ではないが、枯渇状態からは回復したようだ。
「現状、枯渇してから自然回復で全快するのに三十分かかります。自然回復は魔力が減った時点から始まります。勿論、アイテムなどで回復を早めることも出来ます」
「時間の進みに違いはあるのか」
「ありません」
俺は腕時計に目を落とす。針は四時三十七分辺りを指していた。
全快するのは五時七分として、一回分の回復時間が大体三分と考えると早いとみていいのか。
この先魔法を取っていけばそれに見合った魔力が必要になるだろうし、同時に使う場面もあるかもしれない。
経験がなさ過ぎて何とも言えんな。
色々思考しながら歩くこと二十分、日が暮れる前に俺は村に着いた。
想像していた木造りの家がある村ではなく部族が住むような藁葺き家だった。
なかなか見えてこない訳だ。
村の囲いが切れた所から俺は顔を出して観察してみる。
ぼろい布の服を着た第一村人発見。
早速、村人に笑顔を作り話しかけた。
「こんばんは」
「ひっ! 変な生き物」
変な生き物ってなんだよと思いながらも、改めて自分の姿を見てみる。
背広姿だ。
俺は逃げていく村人を見送りながら、納得するのだった。
ここからは話の筋とはあまり関係ない話です。
「……じゃあ、魔物の口に水を落とすシーンいくよ」
「ヨーイ、アクション!」
「ぎゃー!」
「ストップ! おいおい、どうしたんだね」
「目に水が落ちてきたー!」
「ちゃんと口に落として貰わないと困るよ君」
「はい、すいません」
「よし、気を取り直していこう。ヨーイ、アクション!」
「ぐばっは!」
「ストップ!」
「鼻に水が!」
「違うだろ、鼻に水注いでどうするんだね」
「はい、すいません」
「次こそ決めるよ。ヨーイ……ちょっと、待て。なんであの魔物は耳を上に向けているんだ」
撮影は夜まで続いた。