5. 出会い~現在(クリの視点から)
美しい、綺麗な美少女と一緒に暮らせる。
俺の心は舞い上がった。
家事はしたことないようで、たどたどしかったが、出来ないところも可愛かった。
あいつのことが好きだ。
まるで自分の娘のように俺は可愛がった。
買い物に出かけるときは、二人で手を繋いで、まるで本物の親子になったかのような気になった。
俺が結婚し、子どもを生んだらこんな感じだったのだろうか。
しばらく、俺は浮かれていた。
一ヶ月くらいたったころ、俺は気づいた。
一緒に寝ているとき、あいつのパジャマがめくりあがっていて、たまたま見えたのだ。
あいつの太ももの辺りに大きなあざがある。
最初はどこかぶつけたのだろうと思っていた。
そのとき「恩返しをしたい」と言っていたことを思い出し、まさかと思った。
まさか・・・
他にもあざがないか探してみたところ、背中にもあった。
あいつに聞こうと思ってやめた。
辛いことを思い出させたくなかったから。
俺と同じ境遇にあるあいつを助けたいと思うのは自然なことだった。
俺が守らなければ。
あいつを幸せにしてあげなくては。
俺は虐待されていた。
はっきりとは覚えていない。
気がついたら施設で俺は育っていた。
人から聞いた話によれば、父親のDV、母親のネグレクトが原因で引き取られたらしい。
俺にもそんな父親の血が混じっている。
そんな俺がまともな形で人を愛せるわけがない。
分かりきっていたことだった。
でも俺は例外だと思っていた。
あいつに関してはまともに愛することが出来ると信じていた。
初めて手を上げたときのことを覚えている。
怒りの感情がコントロールできなかった。
自分で自分をコントロールできない怖さがあった。
手を上げた後、脱力感が襲った。
俺は結局あの父親と同じなのだと思った。
俺は自分の娘のように大切にしている人間にも手を上げることができる、人間なのだと。
最低、最悪の人間なのだと。
あいつはうつむいて、しくしくと泣いていた。
俺は大切な人間を泣かせる人間なのだと、思い知った。
これ以上好きになってはいけない。
その日からあいつをよく殴るようになったのは、殴ることで自分を罰したかのような気になるからだ。
あいつを悲しませる俺はクズだという罰を自分に与える。
そうでもしなければ、耐えられなかった。
自分で自分に罰を与えなければ、自分自身が許せなくなるから。
殴ることは一種の自傷かもしれなかった。
全部、俺が悪い。
それでいい。
あいつは悪くない。
だからせめて、殴るとき以外は優しくしようと心に誓った。