3.出会い(ユキの視点から)
「俺はクリ。じゃあこれからよろしくな」
そう言われたとき、とても嬉しかった。
お母さんから、ずっと話を聞いていた。
ユキが迷子になったとき、男の人が助けてくれたのだ、と。
ずっとどんな人なのか気になっていた。
今日初めて出会って、カッコいい人だ、と胸が高まった。
とにかく、家から離れたかった。
誰かに助けを求めたい気持ちがあった。
でも、誰に助けを求めたら良いかも分らなかった。こういうときに助けてくれる友達はいなかったし、親にも頼れない。
最後に思いついたのは、お母さんが昔言っていた「男の人」だった。
この人に頼るしかないと思った。
だから、「住み込みの家政婦としてならいい」と言われたとき、二つ返事でうなずいていた。
本当に神様かと思った。
私の思ったことを見透かしているんじゃないかと思ったくらい。
今更になって、「恩返しをしたい」と言って訪れたのには理由があった。
「どうして?」
私は目を見開いて固まる。
まさか。
まさか。
逃げたはずだったのに。
また同じなの?
「どうしてなの!?」
私は既視感のある光景にめまいがしそうになる。
この光景は・・・
最初は慣れない家事にあたふたしながらも、クリに教えてもらいながら、何とか生活していた。
「一人で出来るようになったじゃん。家政婦としてはまあまあだな」
一ヶ月たつころには、クリにそう言われるほど家事が上手くなった。
生活にもある程度慣れてきたころ、私はあることに気づいた。
クリは休日の夜、必ず出かけるということだ。
そして次の日の朝になるまで帰ってこない。
最初は、私は飲みに行っているのかと思っていた。
でもどうやら違うようだと気づいた。
帰ってくるとき、酔ってはいないからだ。
それについて聞いてみたことがあるが、「別に、お前には関係ないだろう」と、クリにそうそっけなく返された。
こうなったらひそやかに尾行して行こうと思った。
土曜日の夜、クリが出かける。
扉が閉まった後、ゆっくりと扉を開け、クリが気づかないか確認してから私も外に出る。私はクリを見失わないようにある程度の距離を保ったまま、尾行する。
駅のほうに向かっているようだった。
駅に着くと改札付近で立ち止まった。それからクリは時計を確認して、誰かを待っているようなそぶりを見せた。
10分ほど待っただろうか。一人の女性がクリに近づく。なにやら挨拶をしているようだった。
恋人なのかな、私はそう思った。その女性とクリは親しげに談笑し、改札の向こうに行く。
私も改札を通り、後を追った。