2.出会い(クリの視点から)
あいつと暮らし始めたのはちょうど二年前だった。
家のチャイムが鳴って、扉を開けて見ると、あいつが立っていた。
色白の美少女。俺が最初に抱いた感想はそれだった。
「恩返しがしたいんです」と笑いかけた。
「恩返し?」
「ええ、前に私を助けてくれたことありましたよね。迷子だった私を、お母さんのもとに連れて行ってくれました。そのことで恩返ししたいんです。」
言われて思い出した。確か十年位前、遊園地で一人で泣いていたあいつを抱き上げ、道行く人に尋ねながら、歩いて回ったのだった。今の俺からしたら、そんな面倒くさいことは絶対にしないが、二年前の俺は暇人だったようだ。
そもそも一人で遊園地に行くこと自体、暇人だが。
そしてやっと両親が見つかり、あいつを渡し、お礼もそこそこに俺は踵を返した。
というか、なんで俺の家の場所を知っているんだと思ったが、よく思い出せば、両親が「後日御礼をしたい」とのことで、俺の家の住所を教えたのだった。
あのころのあいつは5歳くらいだったと思うが、今は立派に18歳くらいの少女になっている。あのころの面影は少し残っているかなと言う感じくらいだった。
そのことに目を細めながら、俺は言った。
「お礼だけで充分だよ」
「いえ、何か私ができることで恩返しがしたいんです」
「どうしてもというなら」
俺の中の意地悪な気持ちがこう言わせた。美少女のあいつを困らせてみたかった。
「住み込みの家政婦さんとしてなら、雇ってあげても良いけど?」
これは絶対に拒否するだろうと思った。ましてや一度しか面識のない男の家に住み込みで家政婦なんて、怖いし危ないものだ。これくらい言えば、あいつは絶対にあきらめるだろうと思った。
「え、いいですよ。あなたがそう望むなら」
あいつはにっこりと笑顔を浮かべた。
「・・・」
「すみません、名前を知らないので教えていただけますか?」
こんな美少女と一緒に生活できるという事は、考えたら天にも舞い上がる気持ちだったが、俺は驚きのほうが先だった。
この少女は何も知らないのか。
純粋で無垢な人間なのだろうと思った。
きっと親から大切にされて育てられて、誰かから傷つけられたこともない、恵まれた子どもなのだろうと思った。
俺とは真反対な人間だ。
「俺はクリ。じゃあこれからよろしくな」
これが始まりだった。