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悪役令嬢?いいえ彼女は--  作者: 歪牙龍尾
第一学年 ・ 春 ・ 出会い
8/30

反省会

さて、この反省会では、互いの健闘を褒め合い、弱点を指摘し、お互いに成長していくための情報交換をする。だからこそ、最初の対戦相手は後々(のちのち)相棒の様な者にさえなる。


「それではまず、私から言わせてもらいますわ」


「あはは、お手柔らかにお願い」


リナリアは神妙な面持ちで扇を閉じると、僕の前に座った。それに合わせて僕も地べたに座る。


「ココノエは昔から想像力に欠けてますわ。それに自分の魔法に関しての意識が足りませんの」


確かに今回の戦いでも劣勢におちいった最大の原因は、魔法を掌握されてしまったことだろう。想像力があれば掌握された後でさえ動きようはあったかもしれないし、水の剣に入った氷塊を取り除いていれば掌握自体を避け得たかもしれない。


「助言としては、自らの魔法に核を埋め込むのがお勧めですわ」


「核かぁ。確かリナリアも核を使ってるんだよね? 何を使ってるの?」


【核】とは俗に使われる言葉で、魔法発動のために想像力を固める様な何かを魔法の中心とすることを【核を埋め込む】と表現する。


例えば、森人が自らの故郷である森の木枝を魔法の中心にしたりといったところか。


【核】となるのは大抵が大切な物であるため、魔法の中心とは言え、攻撃系魔法の直接的な対象などにはしない。有名なものならば、冒険者になって初めて使った回復薬の瓶を【核】として無詠唱で《癒しの水》を生み出すというのがあるくらいか。


「私は……。いえ、秘密ですわ。使い方を言うのなら、精神と想像力安定のため、ですわね」


どうやらリナリアは何が核なのかを教えてくれる気は無いらしい。普段持ち歩くものだろうから扇だとは思うのだけど、言い渋るということはもっと違う物なのだろうか。


「うーん、確かにすぐさま発動できる魔法があると便利だもんねぇ。言われるまで考えもしなかったな。だとしたら核を用意しておくべきかも」


「そうですわね。何か候補は有りますの?」


核となる候補。それは僕にとって大切な物で、同時に想像力の助けになる物が望ましい。だとするのならば、これしかないだろう。


「これなんてどうかな?」


「っ……! これは何ですの?」


「あー、えっとね、秘密」


僕が隠しから取り出したのは、草を編んだ腕輪だ。時を経た腕輪は、もはや枯れて茶色く染まってしまっている。


どうやらリナリアは忘れてしまっているようだけれど、この腕輪は僕とリナリアが初めて会った時に彼女が作ってくれた物なのだ。


枯れない様に水を調節したり、劣化が進まない様に魔法をかけたり、どうにか頑張って未だに形を保たせている。これが僕の魔法技術を向上させる大きな要因でもあった。


「ココノエ、それは大切な物なの?」


「うん、凄く大切な物だよ」


「……そう」


彼女は腕輪をじっと見つめると、不意に微笑んだ。


「なんだか、素敵ね」


「あはは、そうだね」


彼女が憶えてくれていたらもっと素敵だったのに、なんて思ってしまうけれど。思い出の品を褒められて悪い気はしない。


「さて、それでは核として使ってみましょう?」


「うん」


腕輪を見つめる。思い出すのは彼女との出会い。そこに詰まっているのは、殺意と狂気。そして初めて得た優しさと人の温もり。僕は、彼女に出会ったその日に生まれたのだと言っても間違い無いとさえ思う。


ふと目の前に立つ彼女を見つめた時、二つの魔法が思い出を中心に繋がった(・・・・)。あれだけ纏めるのに苦労した装飾語が連鎖し、短縮していく。それは僕の得意な魔法である、両極端な魔法。


「『舞え』《水刃の演舞》」


一つは、鋭利な水の剣を操る魔法。その本質は鋭い殺意と血に飢えた狂気。空中に突如引き抜かれた水の剣は荒れ狂う様に舞う。


「『包み癒せ』《水の抱擁》」


もう一つは、癒しの力を持った水で対象を癒し保護する魔法。その本質は、優しさと温もり。現れた水はまるで手の様な形となり、荒れ狂う水の剣をも飲みこみ、優しく包みこむ。


「やればできるじゃない。発動も早いし、支配力も上々ですわ」


「うん、できた。不思議な気分だよ。心持ちが違うだけで、こんなに魔法を扱いやすいなんて」


まるで流れ出る様に、あっさりと魔法が発動できた。本来なら、やたらと長い装飾語を詠唱しなければいけないのに。これが愛の力か。


「……なにか今変なこと考えましたわね?」


「い、いや、別にっ!?」


愛の力は変なことに入るのだろうか。いや、大丈夫だ。思いは純粋だから問題無いはず。


「まぁ、別にいいですわ。ひとまず、私が言えるのはこのくらいですわね」


「そっか。じゃあ次は僕からだね」


リナリアの問題点。負けた僕からすれば、なかなかに問題点を探すのは難しい。魔法戦に関しては僕に言えることは無いだろう。あるとするならば接近戦において、だろうか。


「リナリアはもっと動き回るべきかな、とは思うよ。せっかく獣人の血が流れてるんだし、その俊敏性を生かして攻めの動きを重視するべきだと思うな」


「攻め、ですの?」


そうなのだ。今回の戦いにおいて、リナリアは何処か守りに入っている感じがする。短剣の特性上、本来他の刃物と真っ向から切り結ぶのは得策とは言えないのに。


「うん、攻め。首みたいな弱点を、素早く反応される前に切りつける。少なくとも、真っ向から挑むべき武器では無いかな」


「……なるほど」


リナリアの守り思考はおそらくハイドによるものだ。ハイドの基本戦法は強固な守りに一発逆転の一撃。けれど、リナリアにそれは向いていない。


「獣人であることは、誇らしいことでしょ? どんどん使っていかないと」


「えぇ、そうですわね」


返事と同時に獣人形態へと移行し、リナリアは素早く跳躍を繰り返した。そして目にも留まらぬーー僕は見えるけどーー短剣の連続攻撃。この方が、さまになっている。


「確かに、私の戦い方が間違っていたかもしれにゃいですわ!」


跳躍しながらにリナリアは一閃。短剣の動きは素早くそして鋭利。空気を割く音が響き、残響に余韻を残す。その瞳は刃物の様にぎらりと輝き、闘争本能に燃えるリナリアの心境を表していた。


あまりの興奮のためか、口調までもが獣人の血に引かれている。


「うん、良い感じ」


「……ですわね」


短剣を消すと少し嬉しそうにリナリアが微笑んだ。照れている様にも見えるその笑顔が可愛らしい。


さて、これでだいたいの反省は終わっただろうか。残りの時間はすることもあまりない。なら、リナリアの顔でも見て時間を潰してるとしよう。


そうして見つめた愛らしいその顔は、やや緊張をはらんでいて、凛々しくもある。されど、野性味さえもにじませながら、優しさに満ちた雰囲気まで纏っている。まるでそう、これは天使の姿に違いない。


翼族の始祖とも呼ばれた、輝くような白羽を備え、美を体現したとも言われる天翼族の使い、もとい天使ホワイト。リナリアはきっとその天使と同じくらい美しい。


「……あのー、ココノエ? まじまじと見られると恥ずかしいですわ」


「あっ、あはは、ごめんね?」


扇で少し顔を隠して、リナリアが頬を紅く染める。もしかすると、また紳士らしからぬ振る舞いをしてしまっただろうか。そう思い目を反らす。


「嫌とは言ってませんわ。何か言いたいことがあるなら言って欲しいと思っただけですの」


真剣な眼差しでリナリアも僕を見つめてきた。確かに、誰かに見つめられるというのはなんだか落ち着かないものだ。


「言いたいことが無いわけじゃないんだけど、また後でね」


「……そう。待ってますわ」


それだけを言い合ったきり、静寂が満ちる。けれどそれが不快ではなく、どことなく心地よい。


「んー? そろそろふぃにっしゅー? そしたら今日はもう終わりだよ! しーゆーあげいん!」


僕らが話し合いを終えてしばらくしたころ、バンダ講師が生徒を集めることもなく解散を告げた。つまり、既に放課後である。


「あら? もう終わりなのね」


リナリアが何故か少し残念そうに呟いた。小さく零した吐息が妙にあでやかに感じる。


「そうだね。それじゃあ僕は貴族らしく友達作りでもしてくるよ」


「そう? 良い心がけね」


リナリアと短く別れの挨拶を交わして、どちらともなく立ち上がった。本当ならリナリアともっと沢山の時間を過ごしたいのだけれど、僕にはやらなければならない事がある。


さて、そろそろ本格的に動き始めるとしようか。

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