五
瞼を閉じれば、当時のことが鮮明に蘇る。
目が痛む緑の世界。ざわざわと、颶風で竹の葉が擦れ合う、煩い音。
『もう要らない』
興味のなくなった玩具を捨てる子どものように残酷な表情をしてあなたは居なくなった。
目を瞑る灰色の世界。凪の中、ざーざーと天から地へと降る、心地の良い雨の音。
『ねぇ。私たちと一緒に』
大人に内緒で悪巧みをする子どものように嬉々とした表情をしてあなたたちは現れた。
目が和らぐ暖の世界。さわさわと、涼風で竹の葉の擦れ合う音が、こそばゆかった。
『あー』
純粋無垢。天真爛漫。それだけでは例えようのないほど愛おしい笑みを浮かべてあなたは求めた。
『洸縁さん。お父さんが、』
血の気を失くして、小さな身体を震わせて、あなたは懸命に繋ぎ止めようとした。
『大丈夫だから』
微笑んで、小さな身体を動かして、あなたは懸命に繋ぎ止めようとした。
『生きろ』
『ごめんね』
あなたの想いは届かずあなたたちは消えた。
自分には何も遺さずに。
(違う)
『洸縁さん』
護らなければならない。
一緒に居たい。
あなたたちの代わりに。
愛おしいが故に。
(人魚に会えば)
まるで底なし沼に、それこそ気が遠くなるほどの時間を掛けて、身体が沈んでいくような感覚だった。
土の中に埋め込まれるような恐怖で。
水の中に抑え込まれるような苦痛で。
火の中で爛れゆくような涙を。
もう、流したくはないのに。




