四
「姉上。姉上。あれ何?」
「あれは蛸」
「じゃああれは?」
「亀」
「べったりですね」
「そうね」
ゆずと譲り葉は手を繋ぐ仲睦まじい希羅と零を見つめた後、二人の傍らで悔しそうな表情を浮かべる修磨と真顔の洸縁を見た。
「彼は大丈夫でしょうか?」
ゆずの質問に、譲り葉は腕を組んで答えた。
「張り詰めていた糸が切れ始めているみたい」
「つまりは、今の彼が本当の姿だと?」
「私の見当違いだったかもね~」
譲り葉はまいったと言うように肩を揺らした。
「鄒桧についていったのが、確か。五歳の時で。それから十年一緒に居て。あいつにしては長いし。普通でも、まぁ。それなりの年数よね」
「今は三十六歳……安定していてもおかしくない年齢ですよね」
「ま。年数だけが積み重なっただけで成長していない。ってことでしょ。外面を取り繕うことは覚えたようだけど」
数秒ほど洸縁を見つめていた二人の間に沈黙が落ちたが、次の瞬間、譲り葉はゆずと名を呼ぶことでそれは破られた。
「彼から目を離さないようにしてくれない?」
「何をしでかすか分からないからですか?」
珍しく渋面なゆずに、譲り葉は微笑を溢した。
「ゆず。苛立ってる?」
珍しいと、譲り葉は再度思った。
何事も淡白に受け応えする彼女。
感情を表に出さないのではなく、感情自体が希薄だった。
式神だからではなく、元々彼女がそう言った体質を持っていたとしか言いようがない。
もしくは―――。
(私を見ていたから、かしら)
「分かりません」
ゆずは洸縁に視線を固定させたまま告げた。
「ただ、近頃の彼を見ていると、胸の中に煙が巻かれているみたいになって。煙が充満して見えにくいですし。追い払いたいのに、そうできなくて。兎に角、落ち着きません」
胸元に拳を当てるゆずに、譲り葉はもしかしてと、或る考えが浮かんでしまった。
(ゆず。洸縁君のこと)
「…私、彼のことを過大評価していたみたいです。だから」
「危なかしい姿を見せられて幻滅しちゃったわもう。みたいな?」
「…そう、かもしれません」
元々お莫迦な行動を取っていた修磨は兎も角、常に安定した行動を取っていた洸縁の、その彼らしからぬ姿に、不安を抱いてしまった。
別段、普段から離れた姿を見せられては、そのような感情を抱いてもおかしくはないのだろうが。
「私はどうしたのでしょうか?」
ゆずは一人ごちるように口にした。
違和感があるが、何に対してかが掴めない。その状況がひどく。
「巧く言葉にできませんが、今の私はおかしいと思います」
「嫌なら」
ゆずはいいえと次の言葉を遮って、漸く譲り葉に視線を合わせた。
「申し訳ありません。大丈夫です」
命を与えられることは至上の喜びと言っても過言ではないのに、何故すぐさま是と応えられなかったのか。
一先ずその疑念は心の片隅にでも追いやることにして、命遂行に集中することにしたゆずであった。




