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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
七巻 泡沫の咆哮
92/135

――『海原国』中国地域。移動式城郭『乃亜のあの方舟』。



 海底に根を下ろしていた巻貝、もとい城郭の中に入った希羅たちが長い列の後に続いて王への謁見を待つこと、三十分。門番が首が攣りそうなほど高い扉を両手で開けて、彼女たちを部屋の中へと招き入れた。


 途端。


「譲り葉~!」


 名を呼ばれた譲り葉は元より、修磨と洸縁、ゆず、道具屋、羅韋、宗義は平然と立っていたが、希羅と零は空気の衝撃波に襲われ、閉められた扉へ激突するところを、修磨と洸縁に繋がれた手に助けられ事なきを得た。



「奥さんに逃げられたの?夕嵐」



 譲り葉は呆れ顔で名を呼んだ、鼻下から上半身まで伸ばす長いもじゃもじゃの白い髭と肺活量が多そうな逆三角形体に、その部族特有の魚の鱗と鰭を腕と足に身に付けた男性忍禦にんぎょ、夕嵐を見つめた。夕嵐は下唇を上唇に乗せて、項垂れる頭を左右に振った後、勢いよく首を反らせ絶叫した。



「娘が嫁ぎ先から姿を消したんじゃー!」



 小波が伝わる中、カッと目を見開いた夕嵐は瞬時に譲り葉との距離を縮め、彼女の両肩を掴み、へにゃりと、眉尻も口の端も下げた。


「頼む。捜してくれ。秘密裏に」

「…秘密裏に、ねぇ」


 譲り葉は夕嵐に付き添う門番に視線を向けると、彼は苦笑を溢すような表情を浮かべた後、頭を一つ下げた。


「秘密裏にして欲しいならかなり音量を落とさないと駄目じゃない」

「心配で叫ばずにはいられんのだ。第一にこの部屋は防音加工されているから大丈夫だ」


 譲り葉はああそうと気のない返事をした。


「嫁ぎ先から居なくなったって。どうせ姑嫁問題でしょ。ほっときなさい」

「ちがーう」


 夕嵐は大きく首を左右に振った。


「聞いた話では婿殿に問題があるそうなんだ」

「なら尚更ほっとけば?当人同士で解決するでしょ」

「無断で姿を消すほどのことがあったのだ。当人同士でどうこうできるわけがなかろう!」

「分かったから。落ち着きなさい」

「…すまん。取り乱してしまった」


 夕嵐は再度項垂れてしまった。


「捜そうよ」


 零は譲り葉の裾を引っ張った。


「捜そう」


 譲り葉は零を見下げたまま、短い溜息を出した。


「彼女が行きそうな場所を教えて。其処以外を捜すから」

「ゆ、譲り葉~」

「涙も鼻水も引っ込めて」


 譲り葉は掌で夕嵐の額を軽く押した後、後ろを振り返り、道具屋に視線を向けた。道具屋は肩を揺らし、夕嵐王に視線を合わせた。


「夕嵐王。人魚の在り処を知っとるかいの?」


 夕嵐王は軽く目を見開いた後、いいやと声音を固くして答えた。道具屋は軽い口調のまま言葉を紡いだ。


「別に不老不死目当てで捜しているわけじゃない。地球のことでちょいとな」

「…そうか。力になれんですまんの」


 道具屋はいいやと手を振った。


「なら人魚捜しがてら娘さんも捜すかいの~。な?」

「ま、ついでなら」


 道具屋は羅韋を見下ろした。羅韋は後頭部に両手を当てそう告げた。


「どうせ最初から引き受けるつもりだったくせに。無駄な時間を食ったじゃねえか」


 譲り葉の隣に立った修磨は詰るように告げた。譲り葉は肩を揺らした。


「素直にいいわよって言いたくない相手なのよね」


「…これからどう動くつもりだ?」



 緊張感を帯びた固い声音だった。譲り葉は希羅を見つめながら口を開いた。



「今日は七月十五日。二十三日後には必ずどちらかが死ななければいけない」



 修磨は眉根を寄せた。



「おふくろでもどーにかできねえのかよ」



 譲り葉は修磨を見上げた。今にも泣きそうだと、思った。



(儀式が終わったら、多分)




 死を迎える可能性があるのは二人。否、四人と言うべきか。



 生まれることのなかった命か、もしくは生を全うするはずだった命か。



 どちらかが、それとも、どちらともが果てるのか。


 

 逢いたい。でも。別れたくない。






 叶うのなら。








(何も知らないままが好かった)




「修磨」



 譲り葉はおもむろに名を呼ぶや、修磨の両頬を掴んで上に引っ張った。修磨はその手を跳ね除けようとせず、黙って譲り葉を見下ろした。泣きそうだと、思った。



「修磨。私。息子離れを頑張るから」



 譲り葉は掴んだ手を離して、片方は下ろし、片方はそのまま頬に添えた。



「俺にも子離れしろってか」



 譲り葉は小さく首を振った。



「どうこうしろって言う意味で言ったんじゃないの。ただ。そう。勝手に出て来たの」



 譲り葉はニッと元気な笑みを浮かべて、両腕を頭上へと上げた。



「さぁってと。さっさと見つけて報奨金をたんまりもらって、楽しい夏を過ごすわよ」

「だな」



 笑みを浮かべた修磨は譲り葉の頭に軽く手を添えた後、希羅の元へと向かった。






「親になるもんじゃないわね。寂しくて仕方がないわ」

「私がお傍に居ます」



 零を肩車する修磨を見つめながら独り言のように小さく口にした譲り葉。横に立って確然として告げられた言葉に、結んだ口の端を上げた。
















「希羅。わしたちは別行動をとることにした」

「一緒に行かないんですか?」


 別れて捜した方が効率がいいと言うのは分かるが。


「出来れば。私は道具屋さんたちと行きたいんですけど」


 零と彼を肩車する修磨、最後に洸縁を見た希羅は道具屋を見上げそう告げた。



 弟は修磨と洸縁に任せて、自分は道具屋と羅韋について行くつもりだった。

 恐らく譲り葉とゆずも修磨たちと共に行動するだろうと予想を付けた上での考え。




 早めに固めておきたかったのだ。




「自分が居なくなった時のことばっか考えとるな」

「……時間が経つほど。一緒に居る時間が多くなるほど。強くなるんです」


 希羅は柔らかい微笑を浮かべた。


「やっぱり。生きて欲しいって。だから、私の傍に居るより、修磨さんたちと居た方が善いんじゃないかって」



 道具屋は頭を盛大に掻き回したい気持ちになった。だが髪の毛がないから寸での処で止めて、置くだけに留まった。



(死にたいよりも生かしたい気持ちの方が強いか。こりゃあ、ほんとに厄介だの)



「でもそれはお主の気持ちだろ?あいつはこの世界に戻る気はない」


 羅韋は道具屋の肩から身体を乗り出した。


「最期の最後。あいつの気持ちをちゃんと尊重するっつー覚悟も持っといた方が善いんじゃないかいの」






 心臓に直接冷たいものが触れたような心持になった。






「そんで、生きるっつー覚悟もな」



 羅韋は仮面を掴んでゆっくりと横に動かし、素顔を露わにさせた。



 希羅は目を丸くしたが、もしや、との考えもあった為、それほど動揺はしなかった。



「羅韋」

「久しいの。希羅。十、二年ぶりかいの?」


 幼い頃、共に遊んだ友人で、海燕の捜し人の顔が其処にあった。


「羅韋も鬼だったんだ」

「おかげで若いままじゃいの」


 羅韋はにししと歯を見せて笑った。


「だから姿を消したの?」 


 羅韋は道具屋の肩に腰を落ち着かせた。道具屋は邪魔じゃいのと愚痴を溢したが、追い払おうとはしなかった。


「まぁ。それもなかったとは言い難いがの」


 羅韋は足をぶらぶらと動かした。


「子どもと遊ぶ時間がなかったとも言える」

「私が地球の声が聞こえるから近づいた?」

「うんにゃ」


 羅韋はひらひらと手を振った。


「お主らの前に現れたのは本当に暇潰しだの」


(大体その時はまだお主はそうではなかったからの)



 何故彼女が地球の声を聞こえているのが分かったのか。



 ひとえに、地球と同じ気配、つまりは色を濃く漂わせていたから。






 地球と同じ、血のような紅の色を。






(初めて会った時は俺たち純粋な鬼よりも薄い青色じゃったの)



 色づいているのかどうなのか本当に分からないほどに。



(本当なら焦って話す必要もなかった)




「海燕。ずっと羅韋を捜してるよ」


 羅韋は目を丸くした。


「まじかいの」

「うん」


 羅韋は頬を掻いた。


「一途なやつだとは思っとったが。まさにじゃな……そうじゃ。想い人とは通じ合ったんかいの?」


 瞳を輝かせた羅韋。希羅もまた同様の輝きを放った。


「羅韋。海燕の好きな人知ってるの?教えて」

「…気付いとらんのかいの?」


 羅韋は呆れ顔を向けた。希羅はうんと気まずそうに告げた。


「そんなに分かり易かった?」

「あやつほど分かり易いやつはおらんだろうに。希羅はにぶちんだの~」

「…教えてくれない?」


 希羅は両手を重ねて懇願するも、自分で考えることだのと素っ気ない答えが返ってきて、眉根を寄せて羅韋を見上げた。


「けち」


 羅韋は意地の悪い笑みを浮かべた。


「言うようになったの……だが、全員にとはいかないみたいだの」


 羅韋は手を振ってどうにか鬱陶しい視線を跳ね除けられないものかと思った。



(修磨、とか言ったかいの……空色。俺らと同じ、か)



 今にも歯軋りしそうな、と思っていたら、本当にし始めた修磨の暑苦しい視線を受け止めながら冷静に観察した羅韋。道具屋と共に聞いた譲り葉の話を思い返した。



(力を渡して普通に戻ったか)



 羅韋は修磨から洸縁へと視線を移した。


 鬱陶しい視線は同じ。だが、乾いた修磨のそれとは違い、粘っこく、それでいて冷たいもので、思わず土耳古氷菓子(海原国土耳古地域名産)かと心の中でツッコんでしまった。



(外と中があべこべなやつらだの)



「まぁ、俺も昔話にでも花を咲かせたいとこだがの」


 羅韋は視線を希羅に戻した。希羅は羅韋の言わんとすることを悟った。


「駄目?」

「お主の覚悟も分かったからの。だから、まぁ、親孝行もしといてやれ」

「……うん」


 もどかしいと思いながらも、希羅は小さく頷いた。












「三日交替でいいかいの?」


 道具屋は扉の外へ向かう、一行の先頭に居る希羅の背中に視線を向けたまま、最後尾に居た洸縁に話しかけた。洸縁は足を止めて道具屋を見た。


「仲よしこよしで行くわけにはいかんみたいだからの」

「君らとだけ一緒に居させるわけないやろ」

「それは一緒に行ってもいいってことかいの?」

「…そうや」

「…なら、そうさせてもらおうかいの」

「そうだの」



 交わる視線で今にも火花が散りそうだった。











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