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十一
―――京都。梢の隠居邸にて。
「叔母様。叔母様!」
闇に堕ちて行く梢に。
「叔母様!」
しがみつく櫁の耳に届いたのは――。
「連れて行かないで!」
「櫁様!」
傍らに居た岸哲は櫁の首に手刀を当てて気を失わせた。
「申し訳、ありません」
岸哲は同じく傍らに居た閣玄に、闇から引きずり出した櫁を預けた。
「頼んだぞ」
「梢様はこのまま堕ちて行くことを望んでおられる」
全身を黒い布で覆う閣玄は静かにそう告げた。
「分かっている!」
再度、任せたぞと告げると、岸哲は梢を飲み込んだ漆黒の闇の中に身を投じた。
その瞬間、闇は消え、梢の隠居部屋、元の長閑な風景に戻った。
「地黄煎火、か」
閣玄は一人ごちて、涙を流す櫁を床に下ろして後、布団を準備してそこに寝かせ、布で涙を拭った。
「希羅」
耳に届いたのは何故か、彼女の名と。
『柳』
梢自らが殺した希羅の父親の名。
叶わないなら、せめて。
隠してほしいと願う。
誰も見つけられない場所へと。
そうすれば、この心は。
救われる。




