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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
六巻 向暑の曙光
89/135

 翌日。


「海に行くわよ」


 面々が集まる中、譲り葉は満面の笑みを浮かべて昨晩の夕飯時に決定した事項を告げた。




『海行くわよ』

『行く行く』(零、遊山、宗厳、羅韋、道具屋が率先して手を上げた)



 とこんな具合に、簡単に決定した。



 希羅は気を引き締めた。



『山神と謳われる天狗も地球のことは分からんかった。それじゃあ、次は』






 海神と謳われる人魚にんぎょ―――。






『恐らく忍禦にんぎょのやつらに訊けば、人魚の居場所も教えてもらえるはずじゃ』


 昨晩。夕飯を食べ終えた希羅を呼び止めて、道具屋はそう告げた。






「希羅。行くぞ」

「は、い」


 希羅は修磨の姿を見て目を丸くした。


「修磨。遊山よりも背が低い」

「ははは。修磨さんだろ」


 修磨が零を肩車していたのだ。


「……勝負に負けたんだ。もう何も言わねえ。だから。楽しむぞ」


 修磨は気に食わなさそうにしながらも、そう告げた。


「修磨さん」

「けど今まで通り。つーか、これまで以上に特訓も厳しくするからな」


(…ごめんなさい)


 一度、目を伏せた希羅は頭を下げた。


「ありがとうございます」


(結局。修磨さんのことも。よく分からないまま)




 分からないから、そこに居心地の良さを感じたのかもしれない。






 お互いに。






『修磨はね。自分のことが分からないの。記憶を自分で封じ込めた所為で』



 ゆずに告げられたのは、花見の深夜。何時の間にか気を失っていた自分が目を覚ました時だった。



『余程辛いことがあったのでしょうね。だから、できれば思い出してほしくはないけれど、何時かきっと思い出すわ』




 何故か、自分にも告げられたような気がした。




(私はきっと修磨さんのことを知っていて、修磨さんも、自分が知らない私を知っていて。洸縁さんと譲り葉さんが、全部を知っているんだ)




 教えてくれと請うてもきっと口を割ってはくれない。



 それは自分を慮ってだ。




(弟のことだけを想って生きていればよかった)






 大好きだと告げたのが、本心ではなければよかったのに。








「どっちが長く泳いでいられるか。勝負しましょうね」



 顔を上げた希羅は白い歯を見せた。

 修磨は奇妙な表情を浮かべた後、希羅の額を軽く小突いた。



「卑怯な手で勝ったくせに、生意気言うな」

「何々?勝負?俺も!」



 何処からか降って湧いてきた宗厳の出現に、修磨は邪魔すんなと後頭部を思い切り叩こうとしたが、避けられ、怒りが募ってしまった。



「大体てめーは何なんだ?」

「何って。言ったろ?修行僧だって」



 宗厳は胸を張って答えた。修磨はそんなことを訊いているんじゃないと身体を震わせた。



 鬼でもない。関係者でもない。全くの無関係。なのに。



(おふくろも何でこいつを追い払わないんだ?)



「おまえらも何時まで一緒に居るんだよ?」


 修磨がビシッと柊と遊山を指差すと、柊は即座に修磨の人差し指を曲げた。


「人を人差し指で差すなど。礼儀知らずにも程がある」

「坊ちゃん、かっこいい」

「わはは。賑やかじゃいの」

「うむ」


 道具屋に同意する羅韋は何故か天狗の仮面を付けていた。




「のんきなもんや」

「洸縁さん」



 憎々しげに呟く洸縁を、ゆずは心配げな表情で見つめた。



「はいはい。このままじゃ何時まで経っても海に行けないでしょ」



 譲り葉は手を叩いて、喧騒が止んだ辺りを見渡した後、行くわよと先頭を歩き出した。


 その後に続くのは、柊と遊山、道具屋と羅韋、零を肩車する修磨と希羅、宗厳、そして洸縁とゆずだった。






(希羅ちゃんは、僕が護るんや)


 希羅の小さな背を見つめながら、洸縁は今一度、自分自身に誓った。


(もしかしたら。彼の方が危ういのでは)


 ゆずは洸縁を見ていると、薄氷を踏み思いがした。



























 いきたくはなかった。








































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