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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
六巻 向暑の曙光
88/135

「あの、ね」



 希羅が目覚めた時、蝋燭で灯されているその部屋には、自分の他に男児だけしか居ないことに気付いた。



 窓を仰げば、紺色の空が見えた。



 希羅は疲労の溜まった身体を動かして正座になり、男児と向かい合った。



「名前。どうしよっか?」



 九年前。父である柳が拾ってきた赤子の男児に名を付けるように言われたのが、希羅であった。


 当時は結局選べ切れずに、また、亡くなってしまった為に、名を口にするどころか、名を付けることすらできなかったのだが。




 あれからずっと―――。




「自分で考える?」


 男児は左右に首を振った。


「姉上が付けて」


 希羅は生唾を飲み込んだ後、あのねと前置きして。


れい、で。どうかな?」


 自信なさげに告げた。


「無限大って意味でね。何でも無限大にできたらいいかなって」


 口を閉ざした希羅は男児の反応を窺がった。


ぜろれい?」


 きょとんとした顔に、希羅の心臓は最大限に存在を強調し始めた。


(やっぱり、健とか元気とか幸夛とかにすればよかったかな)








 生きていればそれだけでいいなんて思えなかった。






 元気でいてほしかった。






 毎日を楽しく過ごしてほしかった。






 幸せだと感じてほしかった。






 優しい子に育ってほしかった。






 苦しんではほしくなかったけれど。

 そんな時は泣いてほしかった。






 自分の行く道に躓いた時は。

 悔しがってほしかった。






 理不尽や愛憎に立ち向かえる勇気を一欠けらでもいい。持ってほしかった。






 それらを共に分かち合える人と出会ってほしいと。切に願った。






 思考錯誤して。ああでもない。こうでもないと悩み続けて。






 辿り着いたのが零。






 始まりを示す一文字。無限大を示す一文字。






 同時に何もない無を示す一文字でもあるけれど。


 






 希羅は固唾を飲んで見守っていたが、その杞憂は霧消と化した。


「姉上」


 男児、もとい零はじんわりと、嬉しさを噛み締めるような笑みを浮かべた。


「俺、すごく嬉しい」


 希羅はほっと胸を撫で下ろした。


「でも。無限大って。おおげさ」


 零は照れくさそうに笑った。


「だね」


 そして、希羅もまた照れ臭そうに笑った。


(私。今)


 希羅は涙が滲み出るのを抑える為に目元に力を籠めて、代わりに口元を緩めた。


「夏をいっぱい体験しよう」


 唇が。目元が。心が震える。


(ずっと…ずっと)


「零」

「うん」


 ごめんねと続けたかったが、名を呼ぶだけで精一杯だった。




















「神意を聴く雨、か」


「あの子に似合いの名前や」


「なぁ。夕飯どうすんだ?」


「場の空気を読め」


「そーよ」


「まぁ。もう少し二人にさせてやろうかいの」


「そうじゃいの」


「じゃあ、皆。抜き足差し足で行くわよ」


「譲り葉様。それは這いつくばると言うのですよ」






 部屋の前の廊下で襖越しに二人の様子を窺っていた修磨と洸縁、宗厳、柊、遊山、道具屋、羅韋、譲り葉、ゆずは、静かにその場を後にした。











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