八
「とりあえず、その怖い顔を止めんかいの?わしたちの目的は同じじゃろ?」
同じく。羅韋と洸縁と共に外に出た道具屋はにこやかにそう告げたのだが。
「同じ?見当違いも甚だしいわ」
洸縁はますます険しい表情になるだけであった。
「希羅ちゃん使って何する気や?」
「道具じゃあるまいし。協力してもらうだけじゃ。わしたちの母親を捜す為にの」
「つーか。あいつをあんな身体にしたのはおたくらだろ?」
両の手を後頭部に当てて黙視していた羅韋は口を挟んだ。
「全部を混ぜちまったから声が聞こえるんだろうよ」
洸縁はほぞを噛んだ。道具屋は小さく息を吐き出して口を開いた。
「目覚めちまったら恐らく聞こえなくなる。あやつにはもう話したからの。どうせ自ら進んで協力する。心配せんでええ。必要事項だけじゃ」
「…これからどうするつもりや?」
洸縁は声を押し殺した。
「陽の光の元、あやつの傍に居ることにした」
「陽の光。やと?」
意味の分からないことをと、洸縁の不信感は募るばかりである。
「君たちの存在は目覚めを速めるだけや」
「なら何であやつ…そう。修磨は傍に居ることを許した?」
瞬間、洸縁の身体から血の気が引いて行った。
(冷極。身を焦がすは炎のみにあらず。氷もまた、身を焦がすものなり。か)
道具屋と羅韋は、場を包む冷気が棘となって鋭く皮膚に突き刺さり、その箇所が熱で侵されている感覚に陥った。
触れてはいけない何かに触れてしまい、怒りを買ったようだ。
「君らの知ることではないわ」
「あ~あ。前途多難だの。父ちゃん」
これ以上希羅に近づくなと忠告した後、背を向けて歩き出す洸縁。
小さくなっていく彼の背を見ながら、道具屋と羅韋は首を鳴らした。
「どうやら、修磨はただの鬼ではないらしいの」
「突然変異種じゃないんかの?あいつみたいに」
羅韋は両腕を天に向けて伸ばした。道具屋はふむと、顎に手を添えた。
「ややこしいの~」
真面目くさった表情とは裏腹のやる気のない声音に、羅韋は道具屋の太股を思いっ切り蹴り上げた。
「痛いわ!」
お返しと、道具屋は羅韋の頭を叩いた。
「面倒だからって放り出すんじゃねぇ!」
さらにお返しと、羅韋は蹴り上げ二発をお見舞いした。
「放り出すかいの!阿呆!」
羅韋の首根っこを掴んだ道具屋は腕を振り上げて、羅韋を夕日目掛けて投げ飛ばした。
「ハッハッハ。よく飛ぶわい!」「じゃねぇの!」
超速急で戻って来た羅韋は勢いをそのままに、道具屋の首元に腕十字を食らわし、その甲斐あって悶絶する道具屋を引っ張り、譲り葉の邸へと戻って行った。
「あの自由気侭なお局様は元気なのかしら?」
―――譲り葉邸の台所にて。
にこやかなれど、額に青筋を立てる譲り葉に、味噌汁を作っていた遊山と魚を焼いていた柊は「はい」「まぁ」と煮え切らない返事をした。
「照影様は今、ほとんど城にいらしてないのです」
柊は少し緊張していた。その要因は怒り心頭の相手と接しているから。だけではなかった。
(話には聞いていたが、初めてお会いするからな。粗相のないようにせねば)
柊は唾を嚥下した。
「あらあら。大事な任務をほっぽいて何を思って飛び火を振り撒いているのかしらね。あの年増は。年相応の振る舞いをしないあの若作りは。後先考えないあの遊び好きは」
米を混ぜていた譲り葉だったが、怒りをぶつけるようにしゃもじを櫃の底に幾度も突き刺した。
「まぁ、あの方の気侭な性格は今に始まったことではありませんから」
苦笑交じりに告げた遊山に、譲り葉は短く息を吐き出した。
「櫁様と梢様のご容体は?」
「あまり芳しくは」
柊は物憂げに告げた。
「そう」
「なぁなぁ。すげーな。この邸。強いやついっぱいじゃね?」
ゆずと共に庭に植えていたトマトを取りに行っていた宗厳の出現に、譲り葉は柳眉を下げた。
「空気の読めない子って。癒されるわね」
「でも時々ですよ」
「…そうね」
はしゃぎ回る宗厳の姿を見て、遊山の発言に同意を示した譲り葉。宗厳とゆずにも夕飯を作る手伝いをするように告げた。




