六
「遊山。あいつが閉じ込められていた少年か?」
「怒って飛び出したんですかね?」
―――騫嗎神社にて。
天乃立岩神社から駆け走って二十分ほどで目的地に辿り着いた柊と遊山の眼前には。
「あーあ。どいつもこいつも弱っちいね」
地面と平行にさせた木刀を両肩に乗せて、修行僧を見下ろす十五歳ほどのおかっぱ頭の少年の姿があった。
「お」
少年は二人を目に止めるや、目にも止まらぬ速さで距離を詰めた。瞬間移動。柊の脳裏にこの言葉が浮かんだ。
「あんた。強そうだね。どう?」
遊山に照準を合わせた少年は木刀を前に片手で構えた。
「俺と闘わない?」
「いや」
遊山は口早矢に告げた後、どうします?と柊に視線だけで問いかけた。彼の視線を受けた柊はざっと周りを見渡し、少年に視線を合わせた。
「そなたはこの神社の者か?」
「いや。単に武者修行で寄っただけ」
遊山に即勝負を断られた少年はつまらないと、口を尖らせながらも、素直に答えた。
柊は地面に伏している修行僧を一瞥した後、再度少年に視線を合わせた。
「あれは勝負を受けた者だけが辿る末路か?」
「うんにゃ。手当たり次第。でも、やっぱ駄目だよな~。よわっちいやつ相手にしても、鬱憤が溜まるだけ」
手を振りながら不満を告げる少年に、柊はそうかと告げると、なら、と鞘を抜いていない刀を前に構えた。
「聞いてなかった?俺。弱いやつとは闘いたくないって言ったんだけど?」
「その性根。叩き直してやる」
挑発されても全くやる気の出ない少年はちらと遊山を見つめた。
「悪いけど、坊ちゃんに勝てば闘ってやるとか熱血満載の科白を吐くつもりはないから」
少年は肩を落とした。
「ちぇ。期待してたんだけどねぇ」
さらに顔を俯かせた少年だったが、片手で木刀を前に構えて、顔を上げた。
「しゃーねぇ。退屈させんなよ。坊主」
「来い」
(あ~あ。坊ちゃん。堅物だから)
木刀と鞘付刀を交える二人の闘いに傍観を決め込んだ遊山は、神社の入り口の木の板に背を預けて見つめていた。
変則と型通り。遊山は二人の闘いを見てそんな感想を抱いた。
前者が少年。天狗に教わっただけはある自由自在で予測不可能、俊敏で野性的動き。
後者の柊の動きは、正反対と言ってもいい。その身に似合わないほどに安定感と重厚感ある動き。厭きもせずに幾萬と同じ動きを繰り返した修練の賜物である。
手数は圧倒的に少年が上。だが柊が冷静に対処しているので、一度も手傷を負っていない。
(長引くかも)
少年が攻撃しても軽く流され、柊が攻撃しようとしたら躱される状態が続いていた。
(希羅ちゃんは今頃向かっているでしょうね)
蝉の声が鳴り響き、夏の暑苦しさを伝える中、遊山は涼しげな笑みを浮かべた。




