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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
五巻 七夕今昔物語
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「希~羅~ちゃん。僕もう、満足です!」

「希~羅~。そんな酔っ払い、ほっとけ~」

「洸縁さんも修磨さんもちゃんと前を向いてください」




 七夕祭りの帰り道、千鳥足の洸縁と修磨は後ろ向きで右往左往しながら歩いており、彼らの少し前を歩いていた希羅は彼らの傍へ向かった。



「希羅の流し素麺台、すごかったな~」



 まず希羅は修磨の手を握って彼の手を引いたまま、洸縁の元へと向かった。



「あれは草馬さんが作ったんですよ」



 希羅が幼い頃から変わらずに、町の皆が全員参加できるようにと、町の端から端まで行き渡る竹の流し素麺台を作っていた。



 そのおかげで子どもたちは食べることや赤や緑の麺を取ることに没頭し、酒を飲んでいた大人たちのほとんどは、その光景を肴にしてさらに盛り上がったり、時折子どもたちのように麺を追っかけたり、と言った具合で各々流し素麺を堪能できたのだ。



 そして、役目を終えた流し素麺台は、祭りの終盤に飾りのついた竹と共に燃やされて竹炭となって各家庭に配られた。




「希羅ちゃんと手を繋ぐの、久しぶりやね」

「そうですね」



 希羅は洸縁の手も握って、そのまま二人の手を引いて歩き出した。



「希羅。俺の、願い、何だと思う?」

「食べ物がなくならないように、ですか」

「正解!よくできました!」

「希羅ちゃん。僕はね、僕は」



 洸縁は微笑を浮かべた。



「もっと別嬪さんになれますようにってお願いしたんよ」

「ば~か。男が別嬪になってどうすんだよ」

「男も美しくないとだめやわ~。ああ、君には無縁の単語やったね」

「うっせ。一生無縁でいいっつーの」



 二人のやり取りを真ん中で聞いていた希羅は微笑を浮かべた。



(何時の間にか、何時もの、になったなぁ)



 希羅は二人の手を握る力を少しだけ強くした。らしくない、と二人は思ったが、何も言わなかった。



「綺麗やね、天の川」

「さすがは牛乳の道だな」

「はい」




 晴れた夜空に満天に輝く星々。


 


 その中でも最も輝きを放っていたのは、白星の群集。




 天の川。




 織姫と彦星を別つ忌み川。




 なのに。






「綺麗ですね」



 星々を見上げて、ふわふわとおぼつかない足取りで二人の手を引いたまま歩を進める中、心も身体も軽くなったと、希羅は思った。




 自然と、大丈夫だとも。




 今なら。




 今まで背いて来た彼らの想いを受け止められると思ったのだ。






 希羅に名を呼ばれた修磨と洸縁が視線を下げて彼女を見つめると、何故か、胸がぎゅっと鷲掴みされたかのように苦しくなった。




 予感した。




 切望していた言葉をもらえるのだと。




 自分たちの想いを受け止めてもらえるのだと。




 それなのに、近づくはずの距離はどんどん遠ざかって行くように感じた。


 




 希羅は二人の手に籠める力も少し強くなったと感じながら、その場に立ち止まって。



「大好きです」



 満面の笑みでそう告げた。




 希羅は自分の中の暗い靄が浄化されていくのを感じながら、また二人のほんの少し前に立って手を引いて歩き出した。






 好きだと言ってしまえば、裏切ることになると、ずっと思っていた。




 だが、違うと気付いたのだ。




 好きなら好きと、言ってよかったのだと、分かったのだ。






「大好きです」






 希羅は二人に背を向けたまま、もう一度、零れ落ちるようにその想いが口に出ていた。












「なぁ、今年。希羅が選ばれたんだろうな」

「…やろうね」



 希羅が自室で眠る中、修磨と洸縁は屋根の上に座って夜空を見上げていた。



「希羅を―――」



 修磨はその後に続く言葉を胸の内に留め、口の端を上げて違う言葉を紡いだ。



「親ってのは、勝手な生き物だよな」

「…そうやね」



 洸縁は修磨を見ずにそう答えた。



「子どもに、疎まれるのも、親だよな」

「そうやね」

「俺は」






 誰よりも護りたいのに、きっと、誰よりも傷つける存在になるのだと、決めた。






「俺は、あいつを殺す」




 修磨は立ち上がってそう告げた。洸縁は視線を落として目を固く瞑った後、立ち上がって修磨の後頭部を叩いた。修磨は軽く叩かれた箇所を擦った。後ろは振り返らなかった。




「何すんだよ」

「護りたいのは僕も同じや。例え、希羅ちゃんに恨まれようが、憎まれようが。護る」

「……希羅は、大丈夫だろうか?」

「阿呆」



 洸縁は修磨の背中に拳を強く当てた。



「親が子を信じんで、どうすんや」



 修磨はふっと苦笑を溢した。



「無茶苦茶だな」






 信じるのならば黙って事を見守るべきなのに。そうしない。






「けど、そうだな」






 無事に護り切れても、それは命のみ。






「護ろう」






 その結果、大事な君を壊すことになっても。






「ああ」






 もう一度、地上に縛り付けよう。


























「さて。もう少しで君も地上に帰れるよ」



 露草が生い茂る川辺の傍で、波立つ髪を持つ男は気だるげに宙に舞う或る一匹の蛍に話しかけた。



「そうしたら、さよならだね」












 一年に一度だけ行われる蛍火の儀式は、約一か月後に迫っていた。














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