一
「おとん。おかん。何で僕は狸に生まれたんや?」
団栗のような赤の色が濃い茶色の硬い体毛に、丸い体躯、団栗眼の垂れ目。まさに団栗。洸縁は鈍くさいと言わんばかりの見た目に辟易していたのだ。否、見た目だけでない。
「何でって」
「俺ら(両親)が狸やから、仕方ないやないか」
両親はお互いに顔を見合わせて呑気にそう告げた。
「僕は狐に生まれたかったんや」
月光のような白濃い黄色の柔らかい体毛に、細い体躯、涼しげな目元。孤高の存在。洸縁は一目見た狐に強く憧れを抱いた。
「何で狸から狐は生まれんのや?」
「狸から狐が生まれたら驚き桃の木山椒魚やろ」
「そないに狐になりたかったら、はよ「化粧の術」を覚えたらええやないか」
「そーゆー問題やないんや」
洸縁はこれ以上訴えても無駄だと思い、穴倉から出て薄暗闇の森の中をとぼとぼと力なく人里へと歩き出した。
(そうか、今日は七夕、か)
空に近づけようとしているのだろう。天狗の団扇に似ている梶の葉や紙衣、巾着、投綱、屑籠、吹き流し、千羽鶴などで飾られる竹は屋根の上にあった。
洸縁は或る家の屋根の上に寝転んで、天の川を見つめた。晴天の夜空。星々が光り輝く。思い起こすは、あの刻の狐。
「僕もかっこよくなりたいわ」
起き上がった洸縁は木の棒で梶の葉に文字を書き綴った。
「おまえ。強いな」
光とは無縁の人間。憧れから遠く離れた存在。なのに。強く惹かれる存在。
「私のものになれ」
こいつについて行けばかっこよくなれる。単純にそう考えて、その手を取った。
その短絡な思いが、地獄への扉を開いたとも知らずに。




