十三
「久しぶりだねぇ。修君」
白装束を身にまとう男はのんびりとした口調で、目の前に居る修磨に、にこやかに挨拶をした。
なずなと共に希羅の家に居た修磨は、玄関の前に立つその男を睨んだ。
「てめーの仕業か?」
「やろうとはしてたらしいけど、先越されちゃったみたい」
男は身体の位置をずらして、家の中に居るなずなに視線を合わせた。
「ねぇねぇ。声、聞こえた?頭の中に響くの」
男に視線を合わされたなずなの身体は硬直して、首を振ることも、口を開けることもできずにその問いに答えられずにいた。
修磨もまた、男からなずなが見えないように身体の位置をずらして、先程よりも男に近づいた。男は修磨の威圧に構わず、軽やかな口調で姿が見えないなずなに話しかけた。
「怖くないから。ね。答えてくれる?」
その口調とは裏腹に一層重圧が押し掛かる中、なずなはやっとの思いで、いいえと答えた。男はさして気落ちするでもなく、そっかと答えた。
「ん~じゃあ。希羅ちゃんとこに行こうかな。でも、僕の姿を見ると怖い目をするからなぁ。洸縁がいけないんだよね。ただこの家と土地が欲しいって頼んだだけなのに。でも」
男は欲しい玩具を見つけた子どものように、喜色満面な笑みを浮かべた。
「此処に来たおかげで遊び相手に会えたから好かったけど」
怒髪天を衝いた修磨は男の胸元を掴もうとしたが、その手はまるで水の中に入れるように男をすり抜けるだけだった。
修磨は舌打ちした。
「式神が式神使ってどうすん……」
修磨はさっと顔色を変えた。
「あ~あ。残念だねぇ。気付くのがおそ「黙れ」
修磨は『渦焱の術』を使い、発生させた炎の渦によって目の前の式神を蒸発させた。
「行くぞ」
修磨はなずなに駆け寄り、座る彼女に視線を合わせて告げたが、なずなは瞬きを繰り返すだけで、言葉を発することも、動くこともしなかった。
(あいつの気に中てられたか)
修磨はなずなを抱きかかえて、彼女の家へと力走した。
修磨があの男と出会ったのは、五年前。希羅が父母と弟を立て続けに亡くした四年後のことであった。
当時、梓音に希羅を護るように死に際に頼まれた修磨だったが、その言をまともには受け取らず、単なる暇潰しと称して、時々希羅の様子を観に行く程度であった。
そんな時。何時ものように気紛れに希羅の様子を観ていた修磨の前に、あの男が現れたのだ。
『ねぇ。遊ばない?』
修磨は木の上から飛び降りて、男と相対した。
『僕さ。あの土地と家の力を調べるように言われて来たんだけど。洸縁に邪魔されてさ。まぁ、大体の目星は付いてて。力の源もね、持って帰るように言われてるんだけど。このままじゃ、すんなり行って面白くないんだよね。だからさ。役者不足だけど。君と洸縁が護る役で、僕が奪う役で。遊ばない?』
『俺に何の利益があるんだ?』
『単なる暇潰し。じゃあ、不満?』
『…いいだろう』
『じゃあ。早速』
男が腕を高々と上げるや、数匹の妖怪が修磨を襲った。
数秒後。地面に横たわる妖怪を見下ろした男は、何の手負いもない修磨を見つめた。
『うん。まぁ。合格?』
『もっと歯応えのあるやつを連れて来るか。それか』
『ん~。無謀なことは止めた方がいいよ。分かってるでしょ?僕の方が何倍も強いって』
無邪気な笑みに、修磨は舌打ちした。
『強くなってよ。じゃないと、面白くないから』
男は踵を返し、或る事実を告げた。
『単なる暇潰しだ』
男の姿が消えた後、修磨は希羅の家を見つめて、一人ごちた。
それから、洸縁を加えた修磨と男の遊びが続いて四年と半年が経ち、修磨が希羅の元に訪れる回数も少しずつ増えて行った。
その遊びに変化が生じたのは、梢が希羅の家と土地を狙わんと、刺客を送り込んだことに始める。
興ざめしたのか、様子を見る為か、氷燕はちょっかいをかけなくなった。
その半年後。修磨が希羅の前に初めて姿を現し、今に至る。
『そうそう。洸縁に教えられると思うから、別に話さなくてもいいんだけど。うっかりさんだから。とりあえず、話しとくね』
男はじゃじゃーんと明るい口調で効果音を口にした。
『僕の本当の名前は鄒桧なんだけど今は氷燕ってことにしてる。僕と洸縁は主、鄒桧に使役されていた。謂わば、兄弟分?まぁ、僕たち、主には捨てられちゃって、袂を分かったってわけ。以上。またね。修君』




