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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
四巻 天と地を繋ぐは、薫雨
68/135

「久しぶり。海燕」

「ああ」



―――『穏芽城』にて。



 氷を無事に城に運び終えた海燕は今、櫁の自室で、彼女と向かい合っていた。




「これ。土産」

「ありがとう」



 海燕に手渡された風呂敷包みの中身は、蜜柑入りの牛乳寒天だった。


 櫁は一言断って、手で掴み、口に運んだ。



「美味しい」

「痩せたな」



 それに以前と比べると格段に元気がなくなったと、海燕は思った。



「まぁ、忙しいから。これでも天皇代理補佐だし」

「だな。全然似合わないけど」

「どーせ飛脚の方が似合いだって言うんでしょ?」

「まーな」



 海燕はにししと笑い、櫁も彼につられるように笑みを浮かべたが、直ぐに消えた。



「希羅は、元気?」



 海燕はああと告げた。とは言っても、四月の花見以降、ろくに会いに行かず、現状はどうなっているのかは分かってはいなかったが、予想はできた。この後、修磨か洸縁に会いに行って、それが合っているかを訊きに行くつもりでいたのだ。



「どうやら櫁様の懸念は当たっていたようですね」

「遊山。兄様も」



 天皇代理である柊が現れて、海燕は姿勢を正して頭を下げたが、柊に頭を上げろと告げられたので、その通りにした。櫁もまた姿勢を正して、目の前に座った柊に視線を合わせた。彼の傍らに居た遊山は、入り口に静座している岸哲の隣りに腰を落ち着かせた。



「お久しぶり。相も変わらずお肌が綺麗だこと。化粧もしないで。嫉妬しちゃうわ」

「場をわきまえろ」

「その真面目さも相変わらずね」



 にこにこと嬉しげに笑う遊山であったが、岸哲に睨まれて大人しく口を閉ざした。



「櫁」



 何事かを告げようとしていた柊は櫁の姿を見て口を閉ざした。



「何時かはこんな日が来るって分かってたの。希羅は絶対、あの子に命を渡すって」



 櫁の瞳から幾筋もの涙が頬を伝った。



「絶対選ばれるって」

「名前が書いてありました」



 櫁を代弁するように、岸哲は告げた。








 『蛍火の儀式』に選ばれるのは、赤子を生き返らせたい人物から、毎年一人。



 その名は蛍のように瞬く淡い光を灯しながら、京都の守護樹とされる一本竹『簷跱えんじ』の根本の幹に記される。



 それ以降から儀式が行われる八月中旬までの間に、亡くなった赤子がその人物の前に姿を現し、儀式当日まで共に過ごす。



 そしてきたるその刻に、選ばれた人物の命が赤子に譲渡されて、儀式は終わる。








「私。希羅を止められない。だから。海燕。兄様。お願い」



 櫁は戦慄く唇を制御して、二人の瞳を真直ぐに見つめて、嘆願した。



「希羅を、死なせないで」



 二人は声を揃えて、ああと応えた。


















(彼女が死んだ方が櫁様のご負担が幾らか軽くなりますよね。なんて言ったら。殺されるかもね)


 遊山は外へと向かう柊の背を見つめながらそう思った。




 隠せるものではないのだ。



 櫁の叔母が彼女の父親を殺した事実は。



 綻びができた今なら尚更。



 その時、櫁は無論、彼女も苦しむことになるだろう。




 赦してと、赦さないでと。

 赦すと、赦さないの。

 その狭間に、最悪、一生を懸けて苛まれることになるのだ。




 ならばその苦しみに身を投じる前に、何も知らず、ただ弟の為に死んだ方が善いのでは。






「遊山。変な気は起こすなよ」

「あら。主に手を出そうなんて考えていませんよ」



 背を向けたままそう告げた柊は、ならいいと、歩く速度を上げた。



(全く。見透かすのは此方が専門だというのに)



 遊山は彼らを思い浮かべて、口の端を上げ、柊の後を追った。



(大丈夫ですよ。殺しはしませんから)











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