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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
四巻 天と地を繋ぐは、薫雨
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「私は、一人で大丈夫です」

「大丈夫じゃない」

「何で、そんなこと、言うんですか?」

「言ったろ?俺を追い払うまでは一人前じゃないってな。追い払えてないもんな」

「でも、閉じ込められました」

「真逆のことしてどうすんだよ?」

「修磨さんは、私じゃなくて、お母さんたちに恩を返したいんでしょう?なら私に拘る必要なんか一つもないです」

「もう梓音や柳は関係ないね。おまえは俺の娘になった。そして、娘を一人前にすんのは親の役目ってな」

「意味が分かりません」

「俺がそう決めただけだからな。分からなくていい。ただ、もう諦めろ」

「嫌です」

「なら早く追い払うことだな」



 何時もと違う修磨の冷静な態度に、希羅は戸惑い、このまま会話を続けていてもきっと平行線を辿るだけだと思うと、苛立ちが募った。




「不思議ですね」




 一時続いた無言を打ち破ったのは、真顔になっていたなずなであった。




「修磨さんはどうしてもうすぐ死ぬ人に拘るんですか?」




 なずなは腕を絡めたまま修磨を見上げた。修磨は目を細めて見返した。




「どう言う意味だ?」


「『蛍火の儀式』」



 そう告げたなずな以外、身体を硬直させた。



「噂になってますよ。影で、ですけど。立派な親御さんを持つと、お子さんも立派になるんですね。私には到底真似できませんよ。だって、あんなの。愛情に耄碌している親だけがすることでしょう?」


「黙れ」



 誰もが分かるほど怒りに満ちた、だが静かな声音だった。



「修磨さんこそ、もう諦めたらどうですか?彼女の瞳には、何時だって、彼のことしか見えていないんですから」


「黙れって言ってんのが、分からないか?」




 声を荒げたわけでもないのに、身体全体に響く声音だった。修磨に見下ろされるなずなは首を少し傾げて、修磨から腕を離し、店の出口の方へと背を向けた。




「今日はもう帰ります。また明日」



 なずなは皆の視線を背中に感じながら、ゆっくりとした歩調で店を後にした。










「希羅。帰るぞ」

「修磨君。今日は女子会の日だから、希羅ちゃんはうちに泊まるの。ね」



 なずなの姿が見えなくなるとそう告げた修磨に、遊里は希羅の手を握ってそう答えた。修磨は遊里を数秒見つめて後、隣に居る希羅に視線を戻した。



「…なら俺が泊まるから、希羅は帰ってろ。おまえらが希羅を送ってくれ」



 遊里がどう言うことだと問いかける前に、修磨は素早く柊と遊山を見て告げた。



「構わないが」



 柊は視線を合わせた遊山に小さく頷き、希羅にじゃあ帰ろうかと告げた。



「修磨さん。私は、」

「洸縁が腹空かせて待ってるぞ」



 希羅はそれ以上何も言えずに、修磨の笑顔に見送られながら柊と遊山と共に店を出た。












「ありがとな」

「別にいいけど。うちじゃ、希羅ちゃん。危ないの?」



 気付けば辺りは暗くなっており、閉店の時間になっていた。遊里は修磨と共に店の戸を閉めて隣の家へと歩を進めていた。



 希羅は負の妖怪を引き寄せる体質があるが、結界が施されている家とその一帯に居ることでその体質を抑えることができ、なるべく長く其処に居る必要がある。遊里たち家族は修磨と洸縁にそう説明されていたが。



(梓音さんと柳さんからは、聞いたこと、あったっけ?)



 もしかして両親だけは聞かされたのかもしれない。遊里は今日にでも訊こうと思った。




「隼哉。おまえは行くなよ」

「隼哉さん?」



 遊里が左見右見してもその人物の姿は見当たらなかったが。



「気付いていた?」



 突然目の前に現れた隼哉に目を丸くするも、そう言えば吸血羇だったかと納得した遊里であった。


 そわそわと落ち着かない隼哉の肩に腕を回した修磨は、そのまま強引に彼を家の中へと連れて行った。



「俺が帰れないのにおまえだけ行かせると思うか?」

「…修磨君。さっきの」



 不安げな顔を向ける隼哉の頭を小突いた修磨は、今日は徹底的に飲むぞと告げて草履を脱ぎ、我がもの顔で部屋の中へと入って行った。遊里もまた彼らの後に続いて家の中に入った。










「洸縁殿。色々とお世話になりました」



 あれから希羅と共に家に帰り、彼女の食事を頂いて、今日はもう泊まって行けとの洸縁の勧めの元、柊と遊山は今、洸縁と共に外に出ていた。希羅は自室で寝ていたが、洸縁は念の為、『黙音の術』を使った。



 梅雨の季節には珍しく夜空に雲がかかっておらず、久方ぶりに無数の星が見えた。洸縁は清々しい空気を身体全体に行き巡らせて、肩の力を抜いた。





「懺悔のつもりやろうか?」


「ああ」




 叔母である梢が希羅の父親である柳を殺したこと。梢が希羅の家と土地に不老不死の薬があると言う法螺話を信じて半年近く刺客を放ち続けたこと。梢が希羅を殺そうとしたこと。



 それらを知った柊は、梢と櫁、そして希羅の為に、ここ一か月間、贈り物を続けていたのだ。






「君、天皇やろ?大丈夫なんか?」

「櫁と岸哲に任せている。それに市井を見るのも必要だからな」

「もう近寄らんでくれんかな?」

「『蛍火の儀式』が終わるまでは、それは聴けないな」



 洸縁は肩を小さく揺らした。



「僕らは希羅ちゃんに何も知らせんつもりや」

「分かっている。が、隠しきれるものではない」

「…梢様は何で柳を殺したんやろうか?」



 弱かったからだと彼女は告げたそうだと、洸縁は櫁から聞いていた。裏切られたからではなく、弱かっただけだと。



「まぁ、病に罹っていたとは言え、それでも、殺される柳が悪いんやけどね」



 彼女と彼の力量の差は目に見えて分かるほどだった。それなのに。



(もし病に殺されるくらいなら、惚れた女に殺された方がましだ。とか言って殺されてたなら、絶対にあの世から呼び出してぶん殴るけどなぁ)






「ねぇ。希羅ちゃんって人間?」



 洸縁は苛立たしげに遊山を見た。彼をまだ赦せそうにはなかったのだ。梢の命に従っただけとは言え、彼は希羅を殺そうとした張本人で、さらに得体のしれない相手だったから。



「人間や。長年厄介な妖怪に憑かれて気配が異常なだけや」



 遊山はふ~んと呟いて、顎に丸めた手を添えた。



「この妙な土地は彼女の為?」

「そうや」


「そう。じゃあもう一つだけ」



 この話はもうお終いと手を重ね合わせた遊山はそのままの状態で疑問をぶつけた。




「彼はどうしてあそこまで希羅ちゃんに拘ると思う?」

「そんなの希羅ちゃんが可愛いからに決まっとるやろうが」



 即決した洸縁に、遊山はそうねと微笑を浮かべて答えた。











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