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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
四巻 天と地を繋ぐは、薫雨
59/135






 何故と。








 幾ら問いかけたところで。




 




 納得のいく答えなんて。




 




 与えてはくれない。








































『嘘、だろ』






 修磨が希羅に自分を追い払え発言をぶちまかして数週間の時間が流れて、月日は六月中旬。梅雨の季節に入っていた。



「希羅。今日も仕事が終わったら修行するからな」

「はい」



 希羅と修磨、洸縁が朝食を共に取っていた時分。向かい側に座る希羅にそう告げた修磨の胸の内は、二度とあんな無様な姿を見せまいと闘志の炎がメラメラと燃えていた。数日前に起こった有り得ない出来事が原因であった。



(くっそ~。あんな変則術ありかよ)




 希羅に『術』全般を教えていて分かったのは、才能がないと言うことだった。

 どれだけ誦葉し続けても、どれ一つも成功しなかったのだ。


 それなのに。



(まぁ、『術』ってのは自分で編み出せるものだから、有り得ないことじゃないんだけどよ)




 修磨は戸を叩く音が聞こえて、つと、ため息を漏らし、すっと立ち上がって戸を開いた。



「またおまえか」

「おはようございます。修磨さん」



 呆れ顔の修磨に、遊里の友人でもある、細身の体形で肩にかかるくらいの黒髪を二つに結び前に垂らす女性、なずなは、にっこりと上品に微笑みかけた。修磨は意識して強いため息を出した。



「あのよ。幾ら来られたって、俺はおまえと付き合う気なんかさらさらない。つーか、興味すらない。迷惑なんだよ」



 修磨のあからさまな邪険な態度にも、なずなはへこたれなかった。



「あら。迷惑だって言うなら、修磨さんも似たようなことをしているでしょう?ねぇ、希羅ちゃん」



 なずなは修磨の前から身体を動かして、家の中を覗き見た。なずなに視線を合わされた希羅は委縮し、口ごもりながらも否定した。




 なずなが希羅たちの前に現れたのは、ほぼ一か月前。仕事帰りの道中であった。彼女はその時に修磨に好きだから付き合って欲しいと告白し、修磨に速攻で断られたのだが、諦めずにほぼ毎日、こうして家や仕事場まで押しかけて来るようになったのである。




「俺は迷惑なんか、じゃ、ない」


 修磨は気弱気にそう告げた。


「じゃあ、私も迷惑じゃありませんね」


 なずなは身体を元の位置に戻して、修磨を仰ぎ見た。


「おまえな。目茶苦茶なこと言ってんじゃねえ」


 修磨は目を細めて告げた。なずなはそれでも、上品な微笑を浮かべたままだ。


「好きになってしまったんですもの。そうそう諦めるわけにはいかないんです」

「しつこいやつは嫌いだ」

「なら修磨さんはご自分が嫌いなのですね」


 眉根を寄せた修磨が口を閉ざして数秒後、ハッと、息を吐き出した。


「口の減らないやつだな」


 なずなはそうかもしれませんねと告げて、口元を手で覆い隠して笑った。




(…修磨。憎からずもって感じやな)



 食事を進めながら二人を見ていた洸縁は、右隣に居る希羅を見た。洸縁の視線に気づいた希羅はお茶を飲みますかと勧めた。洸縁はいただきますと告げて、湯呑に淹れてもらったお茶をほんの少し口に含んだ。



「修磨さん。なずなさんのこと、口で言うほど嫌ってませんよね」



 希羅は遠慮がちに小声で洸縁に告げた。洸縁はそうやねぇ~とのんびりと告げて、またお茶を口に含んだ。



(ま。発言が全部自分に返って来るから、あまり邪険にできないとも言えるかもしれんけどなぁ。希羅ちゃんの手前もあるし)



 だがそれらを差し引いても、何かしらの感情を抱いているのではと思った。






「あ~ら。お邪魔だったかしら?」



 妙に甲高い声音が耳に入った洸縁は、希羅を自分の背に隠した。修磨は玄関から出てなずなを素通りし、新たに現れた人物二人に眼を付けた。



「とうもろこしと虎河豚骨。また来たのか?」

「やっだ~。修磨ちゃん。これはコーンロウじゃなくて、ブレイズだって言ってんじゃない!」



 とうもろこしと呼ばれた人物の名は、遊山。多く作った細い三つ編みを一つに結んで後ろに垂れ流す異国の髪形に大きな唇を持ち、着物を緩く着こなす、誰よりも印象に残る長身の男性である。



「私が何故虎河豚骨と呼ばれなければならない」



 虎河豚骨と呼ばれた人物の名は、ひいらぎ。白が濃い茶色の長髪を一つに結んで後ろに垂れ流す髪型と、キリッとした面立ちに細身の体形の男性で、櫁の兄であった。



「洸縁さん。今、遊山さんと柊さんの声がしたんですけど」



 希羅は身体を動かして前を見ようとしたのだが、洸縁の背中が邪魔をして叶わなかった。



「洸縁さん。どうしたんですか?」

「一目でも見たら身体を石にする妖怪が来てるんや。そいつは知り合いの声音も真似できるから、騙されたらあかんよ」

「え?でも、だったら修磨さん。なずなさんも危ないじゃないですか?」



 立ち上がろうとした希羅だったが、振り返った洸縁に肩を押さえられてしまい、中腰の状態で彼を見上げようとしたら。



「あの。洸縁さん。柊さんが居るんですけど」



 風呂敷包みを頭上に抱える柊の姿が見えたのだ。


 洸縁は希羅に聞こえないほどの音量で舌打ちをした。



「おい。勝手に家の中に入るなって、とうもろこしに教わらなかったか?」



 修磨に後ろから肩に掴まれた柊は、すまないと希羅に向かって頭を下げた。希羅は慌てて立ち上がった。



「いいえ。私の方こそ、すみませんでした」

「それで、何の用や」



 洸縁もまた立ち上がって振り返り、柊と相対した。希羅はまた洸縁の後ろ姿を見るしかなかった。



「この一か月間。ほぼ毎日毎日現れて。こっちの都合も考え」

「妹の大切な友人に生活の支障があっては困るからな」

「君らのおかげで十分困ってるんやけどね~」



 希羅は洸縁の全身から黒い炎がほとばしっているように見えた。



(?洸縁さん。何で怒ってるんだろう)



「洸縁ちゃん。怒りは美容に悪いわよ~」



 洸縁より頭一つ分身長が抜き出ていた為、希羅は微笑を浮かべる遊山の顔が見えた。



「てめーも。勝手に入ってくんなよな」

「ちゃんとなずなちゃんの了承は得たわよ」

「あいつの了承得てどうすんだよ?ああ?」

「修磨さん。怒りは寿命を縮めますよ」



 右隣に居る遊山を見上げていた修磨は、左隣にいるなずなを見下ろした。



「おまえも。なに当たり前のように入って来てんだよ?」

「だってこの家は誰でも自由に入っていいんでしょう?」




 希羅の父母、柳と梓音が生きていた頃、町の皆にそう告げてはいたのだが、妖怪の根城である山の近くにある為、今まで人が来たことはそうそうなかったのだ。




 その代わり――。






「希羅ちゃん。美味しいびわ酒ができたから来たんだけど」



 吸血羇でもあり、希羅に好意を寄せている隼哉は、開いている玄関から家の中を遠慮がちに覗くと。



「「びわ酒だけ置いて早く帰れ」」



 目が真っ赤に光る修磨と洸縁に睨まれて、石化してしまった。






「父さん。何してんの、って。お客さんがいっぱいね」

「姫叶さん。いらっしゃい」



 父親である隼哉の横を通り家の中に入った姫叶は、声の主を捜すも見つけられず、草履を脱いでさらに部屋の奥へと入ると、漸く洸縁の後ろにいる希羅を見つけた。



「おはよう。朝早くにごめんね。渡すだけだから大丈夫だと思ったんだけど」



 姫叶は辺りを見渡した。



「取り込み中?」

「ああっと」



 困惑顔の希羅に、姫叶は首を傾げた。



「仕事、今日休みなの?」

「ううん。違う…って」



 希羅は針が伍と陸のちょうど半分を差している時計を見て、慌てて風呂敷包みを手に取り、頭を下げた。



「すみませんもう行かないと間に合わないので今日はこれで失礼します」



 口早矢にそう告げるや、弓矢の如く駆け走り、修磨と洸縁もまた、彼女を追って走り出した。



「なずなちゃん。私たちと一緒にのんびり行く?」

「よろしくお願いします」



 遺された三人、遊山と柊、なずなはゆったりとした足取りで町へと向かった。











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