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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
三巻 こどもの日~アイは無限大~
57/135

(くそ~。せっかくきまったと思ったのによ~)



 お手玉ではなく妖蚊が原因で幼児化した修磨は、刺された首の後ろを掻きながら希羅と共に森を抜けて今、自分の部屋の布団の上で仰向けになっていた。



「この姿じゃ、様になんねえだろうが」



 妖蚊への怒りが増して今すぐにでも捜しに駆け走りたいところだが、希羅を一人にするわけにはいかなかったので、やり切れない思いが混じってますます怒りが増長するばかりであった。

 


 修磨は布団の上をごろごろと転がっていたが不意に動きを止めて、小さくなった自分の手を凝視し、先程の光景を思い起こした。




「希羅。俺は……」




 あの時、妖蚊の邪魔がなくても、恐らくは伝えられなかっただろう。




「俺は、やっぱ、父親になりてえな」




 瞼を幾度か開閉させて後、修磨は眠りに就いた。


















((可愛いな))



 翌朝。幼児化した状態の希羅と修磨は互いが互いに薪を運ぶ姿を見て同じ感想を抱いた。また、薪を保管庫から家に運ぶ間に、玄武の薬が当てにならない以上、自然治癒に頼るしかなく、一週間の時間を待たなければいけなくなった二人がその間をどうするかを話し合った結果、元に戻るまでは仕事、如いては町に行かずに家で過ごす、と言うことになった。



 修磨にとっては望むべきことだったのだが、希羅は不安の割合の方が大きかった。



(修磨さんと二人きりって、最初に出会った頃の三日間くらい、だよね。それからは洸縁さんとか玄武さんとか、海燕とか。誰か必ず居たのに)



 家に戻った希羅は薪をかまどの中に入れてマッチで火を起こした。



(それに仕事も。でもこの姿で行ったら絶対気を遣わせてしまうだろうし)



「希羅。一週間もあるんだ。修行をみっちりやるぞ」

「…はい」



 希羅は修磨のこの発言に目を丸くした。



「?どうした」

「いいえ」



(絶対何処か遊びに行こうって言われると思ったのに)


(普通に遊びに行こうって言ったって絶対断るからな)



 希羅は立ち上がり、隣に居る一枚上手の修磨に身体を向けた。



「私、頑張ります」

「おう」



 早く一人前になるんだと、やる気を出した希羅に反し、何処に行こうかと歓楽の心地に至る修磨であった。
















「蓬。文目。菖蒲。白詰草。これらの植物はどれも邪気を祓う効能がある」

「はい」



 希羅は今、修磨と共に、町はずれの蓬と白詰草が生い茂る草原で野外修行を行っていた。主題は「邪気祓いの道具~野草編」。



 修磨はこの場所に辿り着く前に採集した紫色の花である文目と独特な芳香を持つ菖蒲の葉を重ね合わせて手に持った。



「この二つの葉は剣の形にも似てるだろ?だから」



 修磨が葉を持つ手に力を籠めると、周りの音が一切消し去られたかのように静まり返った。無音の世界。希羅はこの地が清められて行くように感じた。



「葉乃ち代。葉乃ち擁。目を飾り武を尊ぶおまえの名は文武ぶんぶ。妖しく彩り我を護れ」



 修磨が唱え終えると、同化した二つの葉は三尺二寸ほどの大きさの紫色の刃と白色の柄を持つ剣へと姿を変え、音が戻って来た。



「文武は主に穢された空気を清浄する効果を持つ剣だ。見ての通り、剣だから実態に攻撃もできる。ただし、相手に水をかけないと打撃を与えられないけどな」

「そうなんですか」



 希羅は修磨に文武を手渡された。軽やかな印象を持つが、いざ手に取ってみると、両の手で持たないと持ち上げられないほどの重さだった。



「俺の念で創られたからな」



 修磨に文武を返した希羅は文目と菖蒲の葉を手渡された。希羅は先程の修磨と同様に右手にそれらを持ち、念を唱えると―――。



「…小さい。けど、重い」



 修磨の文武の六分の一ほどの大きさだが、重さは変わらなかった。



「ま、そんなもんかな」



 希羅は差し伸べられた手に自分の文武を置いた。すると、修磨の文武と同様の大きさに変わったのだ。



「この剣は守と攻兼用だから、守の性質の希羅には合わないんだろう」



 修磨が解と呟くと、文武は元の葉の姿に戻った。



「疲れたか?」



 希羅が物憂げな表情を浮かべているように感じた修磨は問いかけたが、希羅はいいえと首を振った。



「ただ、囲むだけじゃ、だめな時もあるんじゃないかって。思って」




 自分が今手にしているのは、柔軟な力を持つ竹で相手を囲う檻を創る術のみ。他の術はてんでだめな状態が続いている。



 妖怪との距離が分からないから、術も巧く身に付かないのだろうか?



(修磨さんとも未だにどうなりたいか分からないもんな~)



 今のところは師匠が一番適切だと思うが、まさか彼が望む父親になって欲しいと思う日も来たりするのだろうか?



(う~ん。お父さん、ねぇ)



 いざ彼にその名称で呼びかけるところを想像してみると違和感満載だ。



「希羅。そんなに悩まなくても向き不向きってのがあるからよ。自分の術を広げることを考えたらどうだ?」

「はい」



(まぁ、師匠でいっか)



 とりあえずの結論を導き出した希羅は一旦考えるのを止めた。修磨は希羅の顔を見て大丈夫だと思い話題を変えた。



「んじゃ、次は。そうだな。希羅。白詰草で花冠作れるか?」

「?はい」



 花冠でどうするのだろうかと疑問に思いつつも、作ってみてくれと言われたので、地面に生えてある白詰草の花を摘んで黙々と作り始めると、懐かしい気持ちが込み上げてきた。



(よく櫁と作ったな~)



「できました」



 白詰草の花冠を二つ作り終えた希羅は一つを修磨に手渡した。



「んじゃ、これを頭の上に乗っけて。復唱してくれ」

「はい」



 頭に花冠を乗せた修磨は唱え始めた。同じ様に頭に花冠を乗せた希羅は彼の後に続いて復唱した。



「白乃ち無。白乃ち広。地の縛りより解き放つおまえの名は白初びゃくそ。始まりの翼となり我を飛ばせ」



 唱え終えると、白詰草の茎が伸び始めて着物越しに背中を覆ったかと思えば、それぞれの身長ほどの大きさの四つ葉が生え、羽ばたき始めた。



 希羅は足元に強い風圧を感じたかと思えば、自分の身体が徐々に地面から離れて行くのに気付いた。が、それは足元と地面との距離三尺ほどに留まった。



「ま。まぁ、これも修行すれば、な」



 一瞬だが戸惑いの表情を見せる修磨に、希羅は余程簡単な術なのだと思った。



 地面に足が付いた希羅は修磨から顔を背けた。修磨もまた地面に足を付けて希羅の顔を見ようと背けた方へと身体を動かすも、また背けられてしまった。だが修磨もまた、身体を動かした。希羅もまた顔を背けた。



「希羅。俺が悪かったって。な?」

「別に、修磨さんが謝る必要は全くないです」



(…うわ。むくれてる希羅なんて、初めて見たかもな)



 幼児の姿だからか。だが嬉しいと、修磨は思ってしまった。



「希羅。腹減らないか?」



 無言の希羅が口を開くのを待って数分後。希羅は修磨に顔を向けた。



「……お腹、空きました」

「じゃあ、めし食うか」



 白詰草の上に座った二人はいただきますと合掌して、竹の葉で包まれた希羅特製のおむすびを口いっぱいに頬張りながら飲み込んで竹茶を飲んだ。



「今日は子どもの日ですね。帰りに粽と柏餅を買って行きましょう」

「俺、砂糖と塩、両方食べたい」

「ですね」



 微笑み合った二人は長閑な天気と同じ気持ちになった。



「修磨さんは実家では鯉のぼりとか兜とか飾ってたんですか?」

「ああ。飾ってたな。おふくろが一人で張り切ってよ。賑やかなのが好きな人なんだよ。だからこう言う行事に便乗してはしゃぎまくる。いい年なのに何時まで経っても子どもだ」

「…あの、帰った方がいいんじゃないでしょうか?譲り葉さん。広いお屋敷に一人なんでしょう」



 希羅にそう告げられ、修磨はその光景を思い浮かべたが。



「ま。あの人にも子」



 修磨は瞬時に口を閉じた。



(あぶね~。自分に返って来るからな)



「大丈夫だって。ゆずも居るし。大体一人で住んではいるけど、訪れるやつは毎日絶えないしよ」

「そう、ですか」

「ああ」



 希羅は眉根を寄せた。



「譲り葉さんって、陰陽師なんですか?」

「さあ?そうじゃないか」



 淡白な物言いに、希羅は呆気に取られた。



「さあって。自分のお母さんなのに」

「今まで興味なかったからな。他のやつに。だけど」



 修磨は無邪気に笑った。



「今は違う」

「…そう、ですか」

「ああ」

「………」



 笑みを崩さずに見つめて来る修磨に、希羅は落ち着かない気分になり、彼から顔を背けて空を見上げた。


 そうして希羅は空を、修磨は希羅を無言で見つめたまま、数分が経った頃だった。二人は複数の話し声が耳に届き、咄嗟に後ろを振り向くと十数人程の集団が和気藹々と此方に向かって来ていたのだ。そして、その集団の中には―――。



「修磨に……希羅姉ちゃん、だよね」

「「勉」」



 何時もと変わらずに本を手に持つ勉の姿があった。
















「思い出作りと、学問に進むか仕事に就くかを悩んで困憊している皆に羽を伸ばして欲しいって。担任のアンダーソン先生が此処に連れて来たんだ」

「そっか。勉ももう十五歳だっけ」



 希羅の隣に座った勉は彼らと共に草原の中ではしゃぐ同学年の生徒を見つめた。



「希羅姉ちゃんはまた妖怪に悪さでもされたの?」

「う、うん。でも一週間で戻るから、皆には黙っていてくれない?」



 希羅は両手を合わせて願い出た。勉は別に言わないよと告げた。



「で。修磨は、また悪さでもしてお手玉を見せられたの?」



 勉たちが現れて仏頂面になっていた修磨は、ちげーしと顔にも負けない不機嫌な声音を出した。



「大体悪さして、って何だよ。俺はそんな理由で希羅に手玉を見せられたことはないっての」

「ふ~ん。じゃあ何時も俺は最強だとか言っているくせに、妖怪に手玉に取られてそんな格好になっちゃったんだ」



 自分を見ずに、さもどうでも良いけどね別に、の態度で告げた勉に、修磨の低い怒りの臨界線を越えたのは言うまでもない。修磨は立ち上がって勉に近寄ろうとしたが。



「勉。この???????(可愛い子ども)は君の友達かな?」



 海のように真っ青な瞳に、収穫時の稲穂のような黄金色の髪の毛、毛深い二の腕に長身の今までに見たこともない男性の登場に、希羅と修磨は固まってしまった。



「まぁ、知り合い程度です」



 勉は立ち上がって男性の隣に立った。



「担任のアンダーソン先生。外来語を教えているんだ」

「よろしく」



 アンダーソンが手を差し伸ばして来たので、希羅はほぼ無意識的にその手に手を重ね合わせた。太陽を背にしているからか。とても彼の姿が眩しく感じた。そして修磨とも握手を交わし終えたアンダーソンは、いい考えがあると手を重ね合わせた。



「二人を交えて皆で遊ぼうか」



 アンダーソンの提案に、その場に居た皆はそれぞれ呼応し、希羅と修磨の周りに集まり始めた。




「二人とも可愛い~」

「何歳?」

「二人は友達なのかな?」

「二人だけで来たの?」

「お父さんとお母さんは?」

「て言うか。寺子屋はどうしたんだ?」

「その年でさぼりなんて。いけないぞ~」

「勉」



 皆が盛り上がる中、困り果てた希羅はじっと勉を見上げた。勉は仕方がないなと思い、皆にちょっといいかなと呼びかけた。



「二人は少し恥ずかしがり屋だから、そこら辺を考慮しながら接してくれないかな?」



(勉!?違うよ!そうじゃないから!)

(盛り上がった皆を止めるのは無理。辛抱して)

(そんなぁ)



 目と目で会話を交わした希羅は、ふと地面から身体が遠のいていくのに気付いた。どうやら後ろから持ち上げられたようだ。ますます困惑する希羅の目の前に眉毛の太い少年が現れた。



「うわ。超可愛いじゃん。もしかして、勉の隠し子か~?」

「莫迦ばっか言うなよ。おまえも下ろせって。怯えてるだろ」



 勉は後ろの少年にそう告げて希羅を抱きかかえた。



「お。様になってんぞ、その恰好」

「煩いな」

「よ。お父さん」



 その呼び掛けに他の男子も呼応して、お父さん合唱が始まってしまった。



 一方、女子にもみくちゃにされていた修磨はその単語に反応して、女子の手を振り払って希羅を抱きかかえる勉の前に駆け走って、そして―――。




「俺が希羅の父親だ!」




 その大喝に、皆の目が点となって喧騒がピタリと止んだが、それは一瞬間の出来事で、さらなる盛り上がりを招くこととなってしまった。




(ままごとね)

(ままごとか)

(懐かし~)

(ったく、しゃーねーな)

(そのお遊びに付き合ってやろうじゃない/か)))))))))))))))

(お~。麗しき父娘愛ですネ)

(あ~あ、余計盛り上がっちゃった)



 見守る体勢に入った一人を除き、他の少年少女はどうしようかと喧々諤々と話し合っていた。




「んじゃあ。希羅ちゃんが娘で、修磨君が父親。だけど実は影ながら皆を助ける英雄なの。私たちは希羅ちゃんを狙う悪の組織の人間。あ。この眉毛の濃い佐助ってお兄ちゃんは助っ人だから。勉君も本を開かないで付き合う」

「僕は監督だから。ほら、開始の合図と終了の合図って必要だし」


(て言うか、ままごとじゃないじゃん)


 勉はその回答に納得する皆に呆れながらも開始の合図をせがまれたので、始め、とやる気のない言葉を発した。








「ひっひっひ。お嬢ちゃん。美味し~い木苺は要らんかね?甘~いよ」



 突然演劇は始まり、皆が一斉に木や草陰に隠れたかと思えば、一人残っていた少女が腰を曲げながら、希羅に布の上に置かれた本物の木苺を差し出した。



(え?え?どうすればいいの?)

(頑張って皆に合わせて)



 再度目で会話を交わした希羅はこの和やかな空気を壊さない為に意を決した。



「し、知らない人から、食べ物はもらっちゃいけないので、もらえません」

「賢~い、お嬢ちゃんだね~。だけど~。これならどうかな~?」



 目の前の少女の左右に同じ姿勢の少女が現れ、苺を差し出した。



「苺だよ~。あま~いよ。美味し~よ」



 艶のある赤色の大好物の出現に、希羅はごくりと喉を鳴らした。三人の少女は一列になって身体を円を描くように上下左右に動かし始めた。



「さぁ~。これをあげるから~、勉強しようね~」

「お掃除しようね~」

「洗濯しようね~」

「待て!」



 希羅の危機的状況に、覆面をした修磨が希羅の目の前に現れた。



「苺を使って子どものやる気を出すとは言語道断!そんな悪者は俺が倒す!」




(…修磨さん)

(何でそんなにやる気なの?)

(娘と一緒に舞台に立てるなんて、そうそうないからな。感謝するぜ。おまえら)



「くらえ!波動光!」



 修磨はその場で勢いよく回り始めた。三人の少女はやられた~とその場に倒れた。次に現れたのは五人の少女。修磨は回った。少女たちは倒れた。五人の少年たちが現れた。



「娘は年頃になると~。父親を~毛嫌いする~」

「一緒に洗濯しないで~」

「休みの日くらいどっか行ってよ~」

「臭い~から~近寄らないで~」

「どうして~そんなに格好悪いの~」

「「「「「隣のお父さんが~私のお父さん~なら~よかった~のに~」」」」」



 修磨に精神的な攻撃を浴びせた少年たちの目論見は効果抜群だった。膝を地面に落とした修磨の戦意は徐々に失われていった。



「希羅ちゃん。今こそ君の出番だ」



 何時の間にか隣に居た佐助は、希羅の両肩に手を添えた。



「出番って?」

「英雄には声援が必要だ。ましてや娘の声援があれば、力以上のものを発揮できる。さぁ。僕と一緒に言うんだ。「お父さん。大好きって」」「え?」「さぁ、行くぞ」「え?え?」



(そんな爆弾発言を、しかも二つなんて、言えるわけないよ)



 しかし、向けられて来る期待の眼差しを裏切ることもできそうになかった。



「希羅は~。修磨のこと~好きですか~?」



 突如目の前に現れたアンダーソンは胸の前で腕を組み合わせた。



「どう~ですか~?」



(…嫌いではない、よね。一緒に居るのが嫌じゃないし。だったら好き、なのかな)



 希羅は小さく頷いた。アンダーソンは満足げに頷き、希羅に背を向けて両腕を天高くに上げた。



「愛(??(子ども))の力は無限だ~い。ビーッム」



 アンダーソンは十字に腕を組み合わせ、修磨に力を注ぎ込んだ。地面に伏していた修磨は白詰草を強く握って、徐々に身体を起こし、立ち上がった。



「アンダーソン。ありがとな」



 修磨はアンダーソンに背を向けたまま親指をあげた手を見せた。



「なかなか強敵だったが、相手が悪かったな」



 修磨は少年たちに一歩足を踏み出した。少年たちは修磨の気迫に押されて一歩引き下がってしまった。



「父親ってのは」


 修磨は右手にありったけの力を籠めて。


「娘にどう思われようが。愛してるんだー衝撃波!」


 天に向かって思いっ切り振り上げた。


 と同時に少年たちは足が地面から離れて尻餅をついてしまった。



(((((こ、こいつ)))))



 少年たちは修磨に戸惑ったが。



(((((すげー)))))



 少年たちはすごいものに憧れる。例えば有り得ないことなら特に。

 案の定、少年たちは大した疑念を抱くことなく羨望の眼差しを修磨に向けたとさ。











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