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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
二巻 ホスト部で父親修行!?
54/135

二十二

「おい」

「何?」



 希羅と洸縁が彼らを見送り家に入る中、修磨は大分距離が離れてはいるが、まだ姿が見える譲り葉の元へと駆け寄り、振り返った譲り葉の瞳を真っ直ぐに見つめた。



 彼女の瞳を通して此方を見ているであろう母親を思い描きながら。



「近い内に希羅を連れて顔を見せに行ってやるから」

「気が付いてたの?」

「そんなに意外か」



 目を丸くし、あからさまに驚きを表す譲り葉に、修磨はなめんなよと言い放ち不満げな表情を浮かべた。



「正体がばれたくせに、主の息子に対して敬語なしか」



 譲り葉はあらっと、心外そうな表情を浮かべた。



「あなたが主の息子でも、私が仕えるべき相手は譲り葉様だけだもの。御名前も頂いたわけだし」

「同じ名前で満足なのか?」

「この上なく、ね」



 喜色満面の笑みではない、幸せを噛み締めているようなほんの少しだけ口角を上げたその笑みに、修磨はただそうかと返した。




「あなたは主を責めませんでしたね」



 不意に真顔になった譲り葉の問いかけに、何のことを言っているか悟った修磨は当たり前だろうと告げ、ずいっと譲り葉の顔に自身の顔を近づけた。



「例えばあの時。希羅が死んでいたとしても、俺はあんたを責めるつもりは毛頭ない。俺が弱かっただけの話だからな。けどもう、あんな思いすんのは御免だから。俺は」





 強い眼差しを向ける。誰もが引き込まれそうな強い意思を。






「強くなる。この世で一番強くなってみせる。あんたの力がなくても、俺だけでも希羅を護れるように」



 一瞬、修磨と無言で瞳をぶつけ合う譲り葉は次の瞬間、嬉しそうに微笑んだ。


 捉え方によっては、関係ないと突き放しているように聞こえるが。



「ありがとうございます」

「止めろっての。おふくろの姿でそんなこと言われたら調子狂う」



 最大限に眉根を寄せしかめ面を作る修磨に、思わず吹き出しそうになるのを堪える。



(本当にあなたは不器用なのですね)



「じゃあ。邸に来る日を楽しみしているわ」

「ああ」




 ぼんと、青い煙が視界を奪ったかと思うと、一枚の長方形の紙が空へと舞いあがり、姿を消した。










『ごめんなさい。私も最大限、力を尽くすつもり。だけど、腹立たしいことにあいつの方が力はあるって事実はひっくり返らない。だから』


(譲り葉さん。大丈夫や。僕……僕らが強くなればいいだけの話や)


 玄関口に立っていた洸縁は目の前に立った修磨の瞳を真っ直ぐに捉え、口を開いた。



 自分だけでは足りない。


 その事実を苛立たしくも思うが、ほんの少しだけ違う感情も抱く。



「修磨。護るで」

「ああ」






 想いは強くなるばかりだ。








「あっ!?てめー、よくも俺の給料を横取りしやがったな!」

「この前の薬代を貰っただけだろうが」

「あんなにするわけないだろうが!」

「利子だ利子。早く渡さんおまえが悪い」

「あ。希羅ちゃん。今日は山菜尽くしやね」

「家の前と竹林にたくさんあって。春は食料の宝庫ですから」

「てめーのせいで希羅があんな…あんな、雑草を。早く返せ!」

「希羅ちゃん。莫迦はほっといて。僕、手伝うな」

「お、お願いします」

「俺も手伝う!」


「君は師匠とじゃれとけばいいわ」

「洸縁」

「いややわ~。師匠。構ってもらえてほんとは嬉しいくせに。ほんま、本音を口にせんお方や」

「この前の酒の代金を払え」

「うわ。覚えてたんですか?小っちゃいお方やな。たかだか酒くらいで。希羅ちゃん。こないなせせこましい大人になったらあかんよ。守銭奴一直線やで」

「おまえな」

「分かりました。けど、今手持ちが少ないんで。僕の手料理で赦して下さい」

「莫迦!てめーが作ったら苦い物体が誕生するだけだろうが!」

「それは君やろうが。記憶をごっちゃ混ぜにせんといてくれる?」

「俺のは黒くて苦いだけだ。まだ食べられないと視覚に分かるだけましだ。けどおまえのは無臭に無色透明で性質悪いんだよ。まさに性格が表れてるな。希羅。そいつに近づくな。性格が悪くなる」

「君はほんとに莫迦やね。胸張って宣言するなんて。黒くて苦いって。うわもう最悪や」


「玄武さん。これどうぞ」

「まぁまぁだ」

「希羅」

「は、はい?」

「若い父親よりじじーの方がいいか?なら俺も玉手箱でじじーになってやる!ちょっと待ってろ。海行って亀助けて調達して来るからな」

「莫迦はほっといて早く飯を作ってしまえ」

「莫迦っつー方が莫迦なんだよ。ばーか」

「…良かったな。これでおまえも莫迦の仲間入りだ」

「この!」




 騒々、ごほん。賑やかな食事作りになったのは言うまでもない。




























「岸哲。櫁は今日も伯母上の元へ行ったのか?」




―――『穏芽城』の一角に設けられた柊の自室にて。




 呼び出した岸哲と小さな机を境に向い合せに座る、櫁の兄で現天皇である柊は肯定の言葉を受け、ふうと、嘆息をついた。


「あれほど行くなと言ってあるのに」

「申し訳ありません」

「で?」

「あまり食欲がないようで。櫁様が様々な食材を取り寄せてはいるのですが」

「櫁も食が細くなったようだな」

「色々と思うところがあるようです」

「希羅、と言ったか。櫁の友人だったな」




 懐から扇子を取り出した柊は眉根を寄せそれを顎に添えた。




 状況は把握しているが。




「まだ心の準備が整っていないようなのです」

「だろうな。早々に導き出せる問題ではない」



 その後、岸哲を下がらせた柊は立ち上がり、小窓からこぢんまりとした庭の中にある池を見つめた。




 水の重さで竹の筒が岩に当たり、かこん、と、静寂なその場に音が響き渡る。






「遊山。居るか」




「御意」




 声は聴こえるが、姿は見えず。

 隠密行動が主な彼は滅多に姿を現さず、また現したとしても同じ姿で立つことはほぼなかった。




「少し出かけたいところができた。全ての予定を早めるように伝えろ」

「どちらへ?」




 柊は視線を透明な色に澄み切った池から、未だに白みがかる空へと移した。






「兄として、息子として、行かねばならないところだ」
















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