二十
(また、此処?)
以前にも来た深淵の闇の中。
どんなに目を凝らしても自分の身体の輪郭さえも瞳には映らない。
闇以外に唯一映るのは、か細い線で形作る卵のような物体。
(何を言っているの?)
その物体は線が動くなど、何か変化を現しているわけではないのに。
どうしてか。
何かを伝えようとしているのだと言うことだけは分かって。
(何を言っているの?)
何度そう問いかけても、言葉、音は何も耳に届かない。
否。音だけではない。光も。匂いも。感触も。
何も届かない。届けられない。
深淵の闇。
自分の存在さえも。
消え去るような。
突然、一筋の涙が頬を伝ったかと思うと、続けて幾筋もの涙が頬を伝り滴り落ちる。
そして。
意識が急速に遠のいて行く。
まだ。
あなたの声は聴こえない。
『ねぇ。希羅。知ってる?線香花火は四つの姿を見せるの。そしてそれぞれに名前が付けられている。
最初は火の玉。『蕾』。…どっちかって言うと卵の黄身……しょーがないでしょ。そう見えるんだもの。ね。小さな震えが手に伝わるでしょう。生命の息吹みたい。
あ。火花が散り始めた。これが『牡丹』って言うの。……ん~。どうして『牡丹』なのかしら。まぁ、名付け親が好きだったんじゃない?細かいことは気にしない。
ほら。此処からが最高の魅せ場。どりゃーって火花が暴れ回っているでしょう?私を見ろーって感じが満載。『松葉』って言うらしいけど、どうしてこれだけ花の名前じゃないのかしら。私なら『紅花』って付けるわね。見た目も、『熱狂』っていう花言葉もぴったりじゃない
……ああ。もう、終わりね。色が赤から黄色、朝日から夕日。逆かしら。だめね。何でも自然に例えるべきじゃないわ。でも。孤を描いて地面に落ちる様は、『散り菊』。ぴったり。
さあ。此処からが線香花火の醍醐味。誰がこの火の球を落とさないか競争よ。希羅。柳。洸縁』
『希羅。私ね、夜空を輝かす大輪よりもこっちの方が好き。…何でって…変化があっても騒がしくない、落ち着いた静けさっていう感じがね、似てるのよね~』
誰に?




