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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
二巻 ホスト部で父親修行!?
50/135

十八

「だから…あいつらにそう言われてたらどうするつもりだったんだ?」


 修磨は半歩前に踏み出し距離を縮めた。


「あいつらも一応は男だ。異性に興味があって当然で。まして可愛いおまえに欲しいものは何かと訊かれてみろ。いかがわしい欲求が込み上げて来るのが普通だぞ」

「いやいやいや。ないです。断定できます」


 断固たる確信。天地がひっくり返ってもあり得ない。と言わんばかりの態度に、修磨はされど引き下がることはしなかった。




 心の中では何故自分がと嘆こうと、指摘しなければいけないのだ。




「あのな。その有り得ないことが起きるのが、男女間の不思議な現象で。いいか?恋愛その他感情は一切関係ない。ちょっとした言動で、引き起こされる。今回のおまえの報酬云々がそれだ。どうしても相手に還元したいってんなら、金で明確にしろ。金だけで物品も禁止。つーか何も渡すな」


「修磨さんは言いませんでした。つまり、二人も言いません」




 その澄んだ瞳に、声音に。口を最大限に開くも、後に続く言葉が出ない。




 何を言えばいいのか分からないのだ。




(俺もあり得るぞって言えば男に対して危機感を覚えて自重してくれるだろうが。んな気持ち悪いこと口が裂けても言えねぇ。父親が娘に欲求って。有り得ねぇだろう)




 思わず口を押えた修磨の頭の中では、だがと葛藤が続く。




(このまま。そうだな。ってことになって。んで。後の祭りになっちまったら)




 瞬時に顔が真っ青になった修磨は頬を引きつらせそうになるのを必死に抑えて口を開く。




「この前。隼哉に口づけされそうになったらしいな」

「どうも切羽詰まってたみたいで。一生に一度ですよ」




 全く危機感を覚えずに朗らかな表情を浮かべる希羅に、修磨は一時強く瞼を閉じゆっくりと開いた。






 親の沽券よりも、娘が何より大事だ。






「俺が欲しいって言ったら、どうする?」

「分かりました。男性は危険。頭に刻みました」



 瞬時にそう告げた希羅に修磨が念を押すと、素直に頷かれ。

 安堵のため息が出る。




(伝わったか。よかった)


(あんな顔されて言われちゃ、素直に頷くしかないし)




 あんなにも顔をしかめつからせて今にも泣きそうな、だがそれを必死で堪える表情は、余程口にしたくなかったことが一目瞭然で。




(でも絶対有り得ないんだよね)



 本人の了承無しにこれを言うべきか否か。悩んだ希羅だったが。



(止めとこう。言ってないってことは知られたくないんだろうし。修磨さんも男だしな)



 ススッと、不意に希羅に距離を空けられた修磨はいや、と慌てだした。




「俺は別だ。全くの対象外で」

「でも、一応男性ですし」

「おまえを女と見るくらいなら死んだ方がましだ!」



 やや警戒心を持った、ように見える希羅に、危機感を覚えた修磨はとっさにそう叫んでしまっており。ハッと目を丸くし怒涛の速さで弁解に向かった。



「違うからな。おまえが嫌いとか苦手とか、そんなんじゃ全然ないぞ。ただ、俺は父親で。だから、絶対に有り得ないってことを伝えたかっただけだ。だから。その」



(俺はどうしてこうなんだ)


 場に適した言葉が見つからずに、想いを発するも何時も傷つけるようなことばかりで。






(死んだ方がまし、か)



 様々な想いが頭の中を駆け巡り、どれが今の自分に相応しい感情か分からないが。




 希羅は手を差し伸ばした。




 あの刻と同じ様に。




「これからお願いします。修磨さん」




 ただ穏やかに微笑もう。






 希羅の表情に、行為に真顔になった修磨は手を差し伸ばし、希羅の手を恐る恐るそっと握った。




 思ったよりも柔らかくなくて、自分より小さくて、されど、熱が籠もっていた。




 どうしてか。




 込み上げて来る。






「希羅」

「はい」




 神妙な顔つきになった修磨は、パッと口を開くも発したい言葉が出て来ず。何の言葉も発せないまま口の開閉を繰り返すだけになってしまった。






(出て来ねぇ)




 伝えたい言葉は頭の中で埋め尽くされていると言うのに。




 どうしてか。外に出て来ないのは。




「「あ」」




 やっと出たと思った一文字は何故か希羅と重なり。




 修磨は突然後頭部に軽い痛みが走ったかと思えば、意識が急速に遠のいた。




 本来なら、このままでは前のめりに固く冷たい地面に倒れるはずだったのだが。




「修磨さん!大丈夫ですか!」




 そうはならず。柔らかく温かい感触に包まれ、意識を手放した。








(やっぱり、具合が悪かったんだ)


 希羅は重たい身体を身体全体に力を入れ、即座に折れそうになる足をふんばらせてゆっくりと曲げ、地面に膝を付けて修磨を地面に寝かせてから、玄武の元へと行こうと立ち上がろうとしたのだが、がくんと、その動きは止められた。


 腰の辺りの着物が、がっしりと掴まれていたのだ。


 何とか離そうと、指に手を当て上に上げようとしても微動だにしなかった。








 瞬時に過ったことは。




 早く知らせなければとの焦燥と。




 離すまいとするその拳に。




 このまま離れていいのか、との疑念。


 




 だから。






 希羅は周りの喧騒を打ち破るくらい、声を張り上げた。




 今までも、これからも。




 人生でこれほど声を荒げることはないと断言できるほどの叫び声を。






















 伝えたい言葉があった。






(誰だよ)






 以前にも聞いたことのある、名も知らぬ者の声音が頭に響く。






 後悔と悲哀が入り混じるそれを耳にすれば、思わず胸が締め付けられ泣きたくなる。






(おまえは何なんだ)






 闇に向かって心の中で問いかけると、突如、淡い光が眼前に無数に現れ、瞬く。






 まるで言葉を発するように。

















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