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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
一巻 はじめの一歩
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「ったく。やってらんねぇよな。『鬼は人を喰らう』だと。鬼は人を守る存在だったんだぞ。噂と真逆だっての。おかわり」


 がつがつとお節料理をおかずに箸で米を口の中に放り込む鬼と名乗る修磨(しゅうま)を、希羅は遠慮がちに見つめながらも、差し出された茶碗を無言で受け取り、米を山盛りにつぎ込んで手渡した。

 数分後、腹一杯だと言う修磨に竹茶を差し出すと、希羅は意を決し口を開いた。


「あのですね。食料にありつきたいなら、私のような貧乏な家などではなく、貴族の邸に倒れこんだらどうですか?今のあなたは眉目秀麗の只人ですから。快く向かい入れてくれると思いますよ」

「あ~。俺、肩っ苦しいの嫌だから」


 修磨は片手をひらひら上下に動かしながら茶をすすったのだが。


「…熱すぎだぞ」

「何故あなたは此処に、人里に下りて来たのですか?」


 希羅は頭の中が疑問に満ちて耳に入らなかっただけだったが、文句を無視されたと思った修磨は、嘆息をつきながらもその問いに簡潔に説明し始めた。



 その話によれば、突然消えた仲間である鬼を捜し歩いて数十年。山だけでなく人里にも顔を出し、時折、鬼であることを隠して人に厄介になった結果、貴族や商人を頼ってはいけないという教訓を得たらしい。




 表情をころころ変えながら話す噂とは全く違う気さくな感じの鬼に、希羅は安心もしたが、まだ油断は禁物と顔を引き締めた。


 人里に慣れているのなら、さっさと違う家に行ってもらった方が絶対にいいと思い、気分を害さないようにしながらも、他の手段、この家が如何に不便であるか、(途中で挫けそうになってしまったが)を講じたが、此処がいい、の一点張りで全く受け入れられず。


(な、何で、この貧乏ったらしい家を選んだのかしら?)


 希羅はがくりと肩を落とした。着物も見る限りでは、絹の一級品で深緋こきひ色を基調とした色鮮やかなもので、自分が着ている苧麻の雀茶一色の着物とは偉い違いである。見た目も召している物も貴族とそう変わりないのだから、嘘偽りを言いまくって貴族や商人の邸に行った方が絶対に食べ放題飲み放題、贅沢し放題である。


 何が悲しくてこんな見た目ぼろぼろで、十分な食料にも柔らかな寝床にもありつけなさそうな家を選んだのか、希羅は甚だ疑問であった。


(まぁ、見た目に反して中はしっかりしているけど)




「どうも~。希羅ちゃん。明けましておめでとう。ご飯食べに来たで~」

「洸縁さん!ちょっと、待ってください!」


 空が赤橙色に染まり始めた時分。突然の来訪者の出現に、希羅は勢いよく立ち上がり、何すんだと不満たらたらな修磨を押し入れに強引に隠した。


 洸縁は陰陽師。そう、鬼が人に害を成し危険だと噂を流したのも陰陽師。一目見たら修磨が鬼だとすぐに分かるのは必須。瞬間、両者は問答無用で臨戦態勢に入るだろう。


 そうなった場合……


(い、家が壊される!?)


 修磨と洸縁が破壊光線を繰り出しながら闘う場面を即座に頭の中に打ち出した希羅は、その衝突による二人の怪我よりも家の崩壊の心配をしていた。


「どないしたんや?希羅ちゃん。そないに慌てて」

「そ、そうですか?全然、普通ですけど」


 希羅は全然を強調し、アハハと笑って手に汗握る緊張を誤魔化しながら、本当は帰ってもらった方が確実にいいのだろうが、それでも久々に会う、今度何時また会えるか分からない、また姿が見えなければ大丈夫だろうとの考えの下、洸縁を家の中に招き入れた。


 希羅の了承を得て、家の中に我が物顔で入り込んできた洸縁は、細く上品な顔で目を細め、生まれたての赤子のような純真無垢な笑みを見せた。

 その笑顔に平常心を取り戻した希羅だったが、次の洸縁の行動に肝を冷やしてしまった。


「ああああの、洸縁さん。押入れには、その!大量の春本が入っているので」


 言い訳としてはどうなのか。駄目出しをしながらも、突然押入れを開けようとした洸縁の行動を身体を張って前に立ちはだかり阻止しようとした希羅だったが、その行動は起こす前に水泡に帰すこととなった。 

 何故なら。


「大丈夫だっての。誰がこんなへなちょこ陰陽師にやられるか」


 隙間から洸縁を見た鬼である修磨も本能的に敵である陰陽師と察知したのか。希羅が隠した理由を身を案じてのことだと勘違いしまくっている修磨は、勢いよく押入れから飛び出して、洸縁の前に衣を翻し、威風堂々と立ち上がった。

 その立ち振る舞いを格好良く決まったと自画自賛していた修磨だったが、頭後方に受けたいきなりの攻撃に目を丸くし、次いで、その個所を手で擦りながら薄ら涙目で後ろを振り返った。


「守護神に向かってなんつーことすんだよ!」

「こんの莫迦!押入れの襖、何壊してんのよ!」


 修磨が鬼であることなど頭の中からすっかり消え去り、手にはりせんを持って鼻息を荒くした希羅の指差す先には、確かに。押入れの襖が無残にも引き千切られた紙のように、ぐしゃぐしゃに壊されていた。









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