七
「そんなに俺が嫌いか?」
店の外へと半ば強引に連れ出された希羅は今、人気の少ない路地で修磨と向かい合っており。
「嫌いじゃないです。ただ気遣いは要らないって言うだけで」
ブチっと何かが切れる音がする。
が。
それ以上に。
(まるで海底に居るみたいだ)
光も音も全く届かない。この中に居れば、この感情しか己を占めない。
「俺の言葉はおまえに届かないのか?俺は、おまえだからだよ。梓音と柳のこどもだからじゃない。希羅だから。傍に居たいと。そう思っているのに。嫌いじゃないと言うのなら、どうして其処まで拒む」
いっそ、嫌いだと言ってくれた方がどれだけましか。
(お腹が痛い)
希羅はその痛みを和らげんと、腹を強く抑えた。
「ごめんなさい。私を想ってくれているって言うのは、分かります」
「だったら「だから、です。だから傍に居て欲しくはないんです」
戦慄く唇を強く結びつけて後、口を開く。
両親の恩義だけで傍に居てくれたら、どれだけ楽だったか。
「私を見て、そう言わないでください。私は」
思い起こすのは、差し伸ばされたあの手を、拒んだ自分。
一番手放してはいけないことだったのに。
「お願いします。私の「嫌だ!!」
「修磨さん」
「嫌だ嫌だ嫌だいやだ!!」
「今の俺が嫌だってんなら幾らでも変わる」
「おまえが望む俺になる」
「だから」
希羅は素早く首を振った。
「あなたはそのままでいいんです」
「なら傍に…居させてくれよ。頼むから」
「分かってください」
「分からねぇよ。分からねぇ」
「苦しいんです」
思わぬ言葉に、息が止まる。
「苦し、い?」
「苦しいです」
ツーッと力なく涙が頬を伝う。
「私なんかに、構うことなんかないんです」
最後に謝罪の言葉を残し立ち去る希羅を止めるはずの腕はピクリとも動かない。
あんなにも言われてそれでも留めようとするなど。
そんな非道なこと。
「希羅」
ただ傍に居たいだけなのに。
それがこんなにも難しいなんて。
「希羅ちゃん」
「ごめんなさい。洸縁さん。今日は。今日だけは一人で。海燕も」
通った道を戻り屋台にいた洸縁と海燕に、明るく言葉を発する。
「じゃあ。また明日」
そう言うや、希羅は素早く洸縁と海燕の元を離れた。
「師匠。俺も希羅を苦しませていただけなんでしょうか?」
「なら僕も、やね」
以前告げた希羅の言葉が重く圧し掛かる。
だがそれでも。疑問に思わざるを得ない。
どうして其処まで拒むのかと。
(…まさか)
瞬間、或る考えに思い至ると、全身が凍りつく。
(大丈夫や。それはない。確実にや。けど)
傍に居ては苦しませるだけだと言うのならば。
想いを馳せるだけしか、彼女を護ることはできないのだろうか。




