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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
二巻 ホスト部で父親修行!?
38/135







「あの娘を、ですか?」

「ああ。第一試験を突破したからね。他の女性と共に招待しようと思うよ」




 真っ暗な部屋の中でくすりと笑った男は胸元から、或る女性の似顔絵が描かれた一枚の紙を取り出した。




「待っていてくれ。姫叶ききょう








 おまえの為なら何でもするから。








 闇の中で光るは二本の刃と赤い眼。それに。眩いばかりの金色の髪。







「さぁ。今回こそは見つけよう」







 望むのはただ一人の女性。





















「なかなか手ごわいな」

「そう、ですね」


(…視線が痛い)


 希羅が帆須徒無に通い始めて五日が経とうとしていたが未だに収穫なしの状態で。

 仕事終わりに何時もの如く玄武に店の中で会っていた希羅は、これもまた何時もの如く殺気をビシバシと受けていた。


「玄武さん。人気者ですね」


 憔悴しきった希羅の褒め言葉にも、玄武はまぁなとしれっと言い放ちつつ、まぁと言葉を紡いだ。


「親に感謝と言ったところか。一割は、だが」

「どう言う意味ですか?」

「妖怪はどんな人間にも化けられるわけではない。と言うことだ」

「へぇ。遺伝ってことですね」



 まぁなと相槌を打った後、ほんの少し瞼を下ろした玄武の表情は、今までに見たことがないほど穏やかな表情で。


 全方位から。女性の奇、ごほん。歓声が耳に届く。


(騙されている、とは言い難いよね。だってこの姿だって玄武さんの一部なわけだし)


 だが河童姿を知る身としては複雑だ。


(河童姿なら千歳って言われても納得できるけど、この姿は三十代くらいにしか見えないし。あまりの違いに詐欺だって訴えられてもおかしくないかも)



「私の顔に何か文句があるのか?」

「その。綺麗だなぁと思いまして。何か秘策でもあるんですか?」



 遠慮がちにのつもりがガッツリ見ていたようだ。『皺がない』をそう表現した希羅に、玄武は何故か薄らと黒い影を落とすかの如き笑みを浮かべた。



「医師だからな。やり方は色々ある」


(…今流行りのアンチエイジングってやつ、かな?)


「おまえも漸く美容に興味が出たのか?」


 そう問われた希羅は頬を掻きながらのんびりと答えた。


「あ~。えっと。まぁ。皆さん綺麗ですよね」


(羨望よりも賞美か。まぁ、梓音も化粧っ気が全くなかったからな)


「おまえは色気より食い気だな」

「まぁ。そうですね。食べるの大好きですし。見ているだけでもすごい幸せです」


 にへらと浮かべる笑みは本当に至福に満ち足りており。


「小さな幸せだ。初めておまえが羨ましいと思った」

「どうとでも言ってください。幸せなんて千差万別ですからね」


 胸を張ってその単語を口にした希羅に、自然口元が上がる。


「結構結構。大いに味わうことだな。その小さな幸せをな。ほれ」


 そう言って手の平の上に置かれたのは高級感漂う包装紙に包まれた何かで。


 希羅は疑い深げな視線を玄武に送った。


 忘れるな 隣にいるのは 守銭奴だ(字余り)



「…お金持って来てませんよ」

「年長者の好意は素直に受け取れ」

「…何割引きですか?」

「一割だ」

「すいません。辞退します」

「冗談だ」


 希羅は思わずウェッと呻き声を上げてしまった。


「もっと辞退します。玄武さんが無料でくれるなんて。な、何か恐ろしいことが起こるに違いないです」

「おまえな。私をどう思っているんだ?」

「お金大好きな存在だと」

「否定はせん。が。おまえみたいな雀の涙ほどしか金を持たん小娘から誰が取るか」


(搾り取るなら余裕のあるやつらから徹底的に。クク)

(って言う副声音が今にも聞こえてきそうな顔ですよ。玄武さん)



 後ずさりたくなりそうな程に至福に満ちている表情を浮かべる玄武。

 頭の中で弾く算盤の音も同時に聞こえてきそうだ。

 幸福の感じ方は本当に千差万別だと実感せざるを得ない希羅であった。










(くっそ~。玄武のやつ。俺(父親)の前でよくも堂々と)


 娘が祖父といちゃついているところを見せつけられているこの状況。修磨は今にも歯軋りしそうである。


 補足事項として、娘は父親には懐かないが何故か祖父には懐く。



「焼売さんは何時もあの娘の方を見ていますけど。もしかしてお気に入りなのかしら?」

萌恵もえさん。どうも。また来てくれたのですか?」



 修磨に萌恵と呼ばれた女性は彼を夫にと企てる女性客の一人で。大人しめな印象とは裏腹にかなり積極的な人物であった。


 此方に身体を向き直した修磨に、萌恵はふふっと笑い隣にスッと座った。


「ぎこちない敬語は結構ですよ」

「萌恵さんがそれをお望みなら」

「嘘ばっかり。何時もそう言うだけで…私をお客と言う枠から外すつもりはないようですね。私はあなたを夫にと、考えているのに」

「申し訳ない。俺には今、娘のことだけで手一杯で」

「もしかして。あの娘があなたのお子さんかしら?」



 クスクスと冗談交じりに告げたつもりのようだが。修磨は希羅のいる方へと首だけを動かし口の端を上げた。



「ええ。俺の大事な存在です」


 その和らげで、慈愛に満ちた口調に。どれだけその言葉が本気かが窺える。


「妬けちゃうわ。こんなに想ってもらえるなんて。どれだけ女冥利に尽きることでしょうか」


「あなたの前から去って行った男は自分では幸せにできないと悟っただけの話。あなたがそれだけ魅力的だと言うことですよ。俺にもし娘が居なかったらあなたの申し出を受けていたのかもしれない」


「本当にあなたは口ばっかりですね。けれど。嘘でもそう言って頂いて、嬉しいですよ」


 ふふっと穏やかに微笑んだ萌恵がこくりと梅酒を一口飲むと、頬に薄らと紅が差す。


「あなたとこうやって接していると面白いわ。お互いに演技していると分かっているから余計に。何時までも興じていたいほどよ」

「嬉しい限りの褒め言葉です」


 腕を曲げ胸の前に置いて頭を下げた修磨に、萌恵は寂しげな双眸を見せた。


「あなたが此処に居る間に、ほんの一つだけでも本音を掬い取りたいわ」


 失礼しますと呟くや、萌恵はすっと立ち上がりおもむろに或る方向へと歩き出した。


 修磨は最初便所だと思って萌恵から一旦視線を外したのだが、ふと気になって見ると、それがある方向へは向かうことはなく。




(げ!?な、何やってんだ!!)




 思わず立ち上がりスタスタと修磨も向かうが思い止まり、姿が見られないようにそっと様子を窺がう。








「お邪魔してよろしいかしら?」

「あ。えと。すいません。私はもう帰りますから」


 玄武を独占していた為に怒ったのかと思った希羅は素早く立ち上がりその場を去ろうとしたのだが、萌恵はそれを遮った。


「玄武さんではなくあなたとお話ししたいと思って。だめかしら?」

「私、です、か?あ。はい。大丈夫です」


 全くの見知らぬ人からの突然の申し出に、最初目を丸くした希羅であったが、考える暇もなく受け入れてしまった。



「おい。何をしている」

「急に話しかけんな」


 何時の間に移動したのか。後ろから話しかけてきたのは希羅の隣に居たはずの玄武で。

 修磨は玄武を横に無理やり座らせ、こそこそと忍び声で話した。


「あの女。俺をよく指名してくれるんだが、急に希羅のところに行ってよ」

「物好きな女だ。どうせ嫉妬したのだろう。おまえが希羅の方ばかり見るからだな」


 面倒なことだと、玄武はため息交じりに呟いた。


「嫉妬の類は厄介なことになりかねん。早くどうにかしろ」


「どうにかしろってどうしろってんだよ。まさか俺に姿現せって言うんじゃないよな。冗談じゃねぇ。希羅にどう説明すんだ。おまえは兎も角俺は女好きと誤解受けんのは御免だ」


「おまえが招いたことだろうが。自分で考えて解決しろ」


 鼻息を荒くした自分に対しバッサリと切り捨てるような物言いに若干既視感を覚える。


(さすがは師弟ってか。けどあいつの方がまだ愛嬌があるだけましか)


 修磨は言葉を発そうとした矢先に萌恵の言葉が耳に届き、瞬時に口を閉じ息を殺した。






「実は私好きな人が居て」

「そうなんですか」


(…よりにもよって恋の相談。聞くのは好きだけど、助言なんてできないのに)


「その人ね。修磨さんって言うのだけれど」


(あいつどうして?って。此処の店のやつらか。ったく。個人情報保護を反故してんじゃねぇ)


(修磨さんって。あの修磨さんのこと、かな)


 見た目を訊くとどうやらあの修磨のことのようで。


(この人。修磨さんが妖怪だって…知らない、よね)


「えっと。その人の何処を好きになったんですか?」

「ビビッと来たの」

「…ビビ、ですか」

「そう。ビビって。雷が全身を打ちぬいた感じかしら?」


 クスクスと笑った萌恵の笑みは本当に可愛くて。


「所謂。一目惚れ。可愛いし」


(…可愛い、のかな)


 じっくりと顔を思い出してみるもその要素が全く見当たらない。ような。


(まぁ。捉え方も千差万別、だし)


「本当に好きなんですね」

「ええ」


 気恥ずかしげに微笑む姿も本当に可愛く。言葉の、表情の端々からどれだけ想っているかが窺える。


(好きな人が居るって本当にその人を幸せにするんだろうな)


 だがその表情に蔭りが生まれ。疑問に思った希羅が問いかける前に萌恵は口を開いた。




「でも。修磨さんは他に気になる方が居るみたいで」


 一瞬鋭い視線で射抜かれたような気がした希羅は何故か汗が滲み出て来た。


「そ、そうなんですか」


 動悸がして、知らず拳を作り、強く握りしめる。




(怖い)




 笑顔にも拘らず、どうしてかそんな感想を抱いてしまう。




「ええ。それが希羅さん。どうやらあなたみたいで」

「それは!すいません」


 声を荒げてしまった希羅はゆっくりと息を吐き心を落ち着かせた。


「修磨さんは私の両親に恩義があって。責任感の強い方で、私を自分の娘のように見守ろうと決めているみたいなんです」



「そう言うことなら」


 御猪口に視線を送ったかと思えば、真直ぐに希羅の瞳を見つめゆっくりと言葉を紡ぐ。


「私が彼の隣に居てもいいのかしら?」








 ドキリと。




 今までに感じたことがないほどに心臓が鳴る。








(情けない顔しおって)


 玄武がちらと見た修磨の表情はまるで親と離れ迷子になった子どものように所在無げで。


(あいつも悪趣味なことをする)



「どうかしら?」



 答えはもう分かっていたから。



「あなたが受け入れて、修磨さんがあなたを「それ以上言うな!!」



 これ以上黙って聞いてはいられなかった。



「修磨さん」



 何故此処にいるのかと問い掛けようとする口は開いたまま、けれど言葉は発せず。




 悪気があっての言葉では断じてないのに。




 自分なりに。彼のことを想ってのことだったのに。




 どうしてこんなに。






(後ろめたいんだろう)






 それはきっと彼の表情を目にしているから。








「来い」


 有無を言わさぬ声音で修磨はツカツカと向かい希羅の腕を掴んで歩き出した。








「全く。何をやっているんだか」

「本当よ。あんなことしたら余計に怖がられるだけなのに」



 ふうとため息をつく。

 同時に。



 隣に立った玄武はじろりと萌恵を睨みつけた。


 半ば本気で妬いていたくせに。



「大人げないぞ。―――」



 その名を聞いた萌恵は、されど全く動じず、素直に謝罪の言葉だけを口に発した。











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