三十一
私が彼のものらと言葉を交わすことはあるのだろうか。
私は交わしたい。
我が子と言葉を、想いを通わせたい。
しかし、彼のものらはそれを望んではいないのだろう。
もう数百年眠り続けた。
なのに、私は目覚められない。
それはきっと、彼のものらの仕業、なのだろう。
当然、なのかもしれない。
私が目覚めれば、彼のものらは否応なく眠りに就かされるのだから。
彼のものらが、私の都合で動かされる操り人形のようなものだと、考えるのは必須。
そんなつもりで生み出したわけではない。
ただ。
寂しかっただけだ。
絶望の色に染まりつつあった私の前に、どちらにもまだ定まっていない。
人と彼のものらの間に生まれた子が現れた。
彼のものら以外の生物は全て、月輪と日輪が私に贈ってくれた。
人もまた、彼らからの贈り物である。
彼らと私の遺伝子を受け継ぐ子。
あの子ならば、私の声が届くのかもしれない。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しい。
あの時はまだ届かなかった。
だが次は?その次は?
絶望に覆われた靄が徐々に晴れて行く気がする。
あの子は一筋の光。
どうか。
どうか。
私の前にもう一度、姿を現して。
心を込めてあなたの名を呼びましょう。
「初めまして。私はあなたのお母さんの梓音よ。お父さんは居なくなっちゃったけど「俺がお父さんの代わりになる。ま、梓音とは兄と妹、なんだけどな。寂しい思いをさせるつもりなんてないぞ「僕にも抱かせて。うわ~。可愛いな。あいつの子なんて信じられんわ」
「だよな」「正真正銘、私と彼の子です」「怒るなよ」「そうやで。ところで、名前は決めたん?」「ええ。この子の名前はね」
「希羅。これも食べるか?」
「はい」
「あのよ。ま、いいや」
(要はまだまだってわけだしな。絶対に認めさせてやる)
「ぷくく」
「何だよその笑い」
「思い出し笑いや。気にせんといて」
「俺を見て笑ってただろ!」
「いややな~。どんな被害妄想やねん」
「この野郎!」
「怒ると早死にするで」
「まじか」
そんなやり取りを繰り返す修磨と洸縁と共に、自身の家の前でひんやりと冷たい地面に座りながら焼き芋を食べていた希羅の前に突風が巻き起こったかと思えば、空から何かがひらひらと舞い落ちて来た。
希羅は片手を差し伸ばすと、その手に乗ったのは。
「地球」
それは真っ青な水の色の野球の球ほどの大きさで、その形と色から母なる星と同じ名のついた綿のようにふんわりとした感触を持つ植物だった。
地球の花言葉は、『希望』。
必ずまた、会いましょう。
希羅はふと、自身の名を呼ばれた気がした。
『美味しいねぇ。おまえの力は』
ひっひっと卑しい声で笑う『鬼喰い』はふと真顔になり娘の右手を見つめた。
『また裂けたのか』
これで幾度目か。
力に耐えかねた身体が傷つくのは。
幾ら喰らっても今も尚増していく力はだが、まだ眠っているに過ぎず。
だからこそこの娘はまだ鬼ではない。
何時かは目覚めるその力。
その時こそ真実、この娘は鬼になり、人を殺すだろう。
知っているのは憑りついている自分だけで。
あの狸も、未だにこの世にしがみつくあの鬼も男も知る由もない。
『こいつの役目は』
「何か言いました?」
「何でもない」
「そう、ですか」
修磨は片手に地球を乗せる希羅を幸福感に満ちた表情で見つめていると、さぁっと、柔らかな風が舞い込み、地球が希羅の手から離れまた空へと戻って行った。




