二十三
(そう言えば、お手玉見せれば身体が縮まるんだっけ。そうしたら)
「希羅。大丈夫?」
「櫁。私、どうして?」
蝋燭の光に灯された部屋の中で希羅が身体を起こすや、櫁が抱きついて来た。
「ねぇ。もう一緒に暮らそう。心配なの」
身体が密着している為か。
微かに震える振動が伝わってきて。
心なしか、声音も涙声だった。
親しい人がいきなりずぶ濡れで気を失っていたら、心配するのは当たり前だった。
「ごめん。けど」
(やっぱり、家の跡継ぎが決まるまでは)
死ねない。だから。
「家を守らないと。色々ありがとう。私、帰るね」
死ななくてよかったと、心底安堵した。
後悔する気持ちを知らないまま逝くところだったと。
だが櫁はそう告げられても抱きしめる力を緩めることなく、逆に力を籠めてしまった。
「櫁。痛い」
「お願い。だから」
涙声は変わらず。それでも音量は、虫の羽音のように蚊細くて。
「こんばんは。希羅さん」
不意に鄒桧の声が耳に届いたかと思うや、希羅の意識は急速に遠のいて行った。
その崩れゆく身体を、まるで守るように櫁は抱きしめたままであった。
「希羅を、連れて行かないで!」
櫁は手を伸ばす鄒桧から希羅を守るように、抱きしめる力を弱めることなく、鄒桧を睨みつけた。
希羅の為にも。
何よりも。
あの人の為に。
あの人は誰よりもきっと国を想っていたのだろう。
希羅の住む土地『絆繋草』には、『不老長寿の薬』が眠っている。
あの土地と家を真実我が物にしなければ薬は姿を現さない。
その二つの話を信じ、人を殺してでもそれらを、如いては薬を手に入れ生き続けようとしている最中に告げられた。
命の宣告。
執着はますます高まり、またあの人は手に入れる為に、何でもした。
莫迦だとなじることはできなかった。
浅ましいと、軽蔑することなど、できるはずがなかったのだ。
亡くなった両親の代わりに、自分たちを育ててくれた人。
母親なのだから。
あの人の名は『梢』(こずえ)。日本を統べる二十一代、現天皇である。
「申し訳ありませんが、姫君。私の依頼主はあなた様の伯母上ですから」
「岸哲!」
「海燕と言う少年を預かっています。意味、分かりますね」
まるで無知な者を諭すように、優しい声音。瞬間、櫁の顔は凍りつき、抱きしめていた力は急速に奪われていく。
鄒桧は希羅を抱きかかえ、満足そうな笑みを櫁に向けた。
「物分かりのいい姫君で助かりました。大丈夫ですよ。この娘が伯母上に渡せば誰も死ぬことなどないのですから」
「本当に!」
とんでもないことをしているのに。
赦されるはずもないのに。
「不老長寿の薬はあるの?」
生きていて欲しいの。
懇願するようなその視線に、鄒桧はだが、笑みを向けたままだった。




