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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
一巻 はじめの一歩
14/135

十三




「希羅。……まだ怒ってんのか?悪かった、とは正直思っていないが、質素なご飯しか食べていないおまえに、豪華なもん食べてもらいたくてよ」


(素直に感謝の言葉が言えない行動と発言ね)


 希羅は恐らくは沈んだ表情を浮かべているであろう修磨の顔を思い描き、嘆息を一つ吐いた。


 あの後、何かあると思ったら即絶対に知らせるとの約束の元、希羅は二人を外に出て見送った後、未だに固まっている修磨を横切り、急いで寝室へと逃げ込み布団に顔を埋めた。


 どうにも、鬼として修磨は緊張感を持たなさせ過ぎで、希羅にとっては困ったことに感情豊かな自分に真っ正直に生きる男性にしか見えずに、しかも摩訶不思議なことにあんなに自身の心情を正直に言えるほどに、接せられる存在になってしまったのだ。


 出会ってから一日しか経っていないと言うのに。しかも、何時今の態度が豹変するか分からない鬼であるのに。


 だからこそ、冷静に、怒らせないように、接してきたのに。


(何で、受け入れちゃったんだろう)


 どれだけ考えても修磨を受け入れたこれと言った理由が見つからない希羅は、自身の言葉をなかったことにし、洸縁に追い出してもらえば良かったと、後悔し始めたが。

 それでも、自分を気遣ってくれている修磨のその態度は、ほんの少し、嬉しくも感じて。

 一時、顔に埋めたままの希羅であったが、意を決し部屋の扉を横に引いたら、何やら焦げ臭い匂いが鼻を通った。


「悪い。その、ご飯を作ろうと思ったら、焦げちまって」


 修磨は希羅の前に皿に盛った、全体の半分がお世辞にもおこげとは言えないほどに真っ黒に焦げた米飯を恐る恐る差し出した。


(何か、弟みたい)


 希羅は亡くなった赤子の弟が成長したらこんな風になっていたのかと思い、少しだけ口の端を上げ、その皿を手に持った。


「一緒に食べましょうか?」


 捨てると言う発想は微塵もなかった希羅は修磨にそう告げた。地面に撒いて土の肥やしにしても良かったのだが。


「いや、俺だけ」

「こんなに黒焦げのものを食べたら、鬼だろうと、お腹を壊しますよ。おかずは私が作りますから。……ありがとうございます」

「俺も、その、ありがとう」


 贈られる気持ちが嬉しくて。受け入れられる気持ちがむず痒くて。

 ほんの少しだけ、二人の距離が縮まった時を迎えられたのだった。


(これなら、一週間は大丈夫かな。けど、ご飯を作るのは絶対止めてもらおう)

(これなら、当分は大丈夫だな。けど、まだ、敬語なんだな)


 二人の互いへの想いに相違はあれど……ほんの少し、縮まったことは、事実である。


「「苦い/ですね」」


 黒焦げの米を口に入れた途端揃って発言し、互いに微笑み合った希羅と修磨は出会って二日目にして穏やかな気持ちで床に就けたのである。


「またかよ。今日くらいは、落ち着いて寝かせろっての」


 折角いい気持ちだったのに。











 家のすぐ間近の外では怒号や殴り合う音や刃が折れる音などが行き交っていたが、修磨が『黙音の術』を家に掛けていた為、それらのけたたましい物音が希羅の耳に届くことはなかった。


「帰って主人に伝えろ。命が惜しくば、この土地は諦めろと。いいな」


 修磨は自身に倒されたが何とか立ち上がり背を向けた黒尽くめの人物らに、そう告げた。


 希羅が家族を喪ってから数年、ずっと言ってきたように、また。


 それだけの時間が流れていたので調べる時間は悠にあり、犯人の目星はすでについていることだろう。が、修磨は彼らを追い払う以外何もしなかった。人の仕出かしたことは人が収拾すべきことで、自分はただこうやって希羅を守るだけだと。


 この希羅の家が建つ土地を欲しがっている一人の人物から。


 その人物を見つけ出して摘発するなり殺すことが結果、希羅を守ることになろうとも、それは自分の領域の内ではないと。




「莫迦なやつだな」




 ふっと笑みを浮かべた修磨の表情は背筋が凍るほどに冷たく暗いもので。

 他が為に向けられた言葉だったのか?











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