二十一
翌日。七月二十四日。小昼。
時々でいいので一緒に合唱してください。
琵琶牧々にそう申し出をされた柳は喜色満面で了承して、海燕、天架、葦弦、新美、池政、琵琶牧々、木魚達磨を見送った。
琵琶牧々と木魚達磨は、琵琶牧々が身体を休めていた処に、旅ができるまで身を置くそうだ。
(朱儒に頼んで時々様子を見てもらうか。にしても、まだ眠っているのか?)
希羅、修磨、零はよほど疲れていたのか、柳の美声に酔いしれすぎたのか。まだ眠っていた。
「柳さん。おはよう」
「おはよう、宗義。よく眠れたか?」
「はい」
昨日も昨日とて、夕飯を食べ終わったら、運動をしに行くと家を飛び出していった宗義。向かった先で無事に眠りに就けたのだろう。昨日の弱弱しい姿とはとはまるで違って元気溌剌としていた。
「昨日は本当に迷惑をかけて申し訳なかったです」
宗義は勢いよく頭を下げた。柳はいいやと返した。
「みんな無事だったんだから、いいんだ。だから頭を上げてくれ」
「はい」
宗義は頭を上げて、柳と視線を合わせた。
「君の陰陽の力は自力では使えないし、他者が使えるものでもない。木魚達磨が例外だったんだ。きっと、修行僧の君と同調してしまったんだろう。だが、もう大丈夫から、安心して欲しい」
「あの」
「何だ?」
「あの、俺の力がもし扱えて、何かの役に立つなら、使ってください」
宗義の気迫に、けれど、柳は動じなかった。微塵も。
「いや。君の陰陽の力は決して使わない。使わせない」
「っでも」
「今回は幸運だったけど、もしあれ以上時間がかかっていたら、君は死んでいたかもしれない。修行してどうこうなるものじゃない。君の力は、使えないものだ」
「っ分かりました。でも。だったら。俺が役に立つことがあれば、言ってください。飯も食わせてもらってるし、楽しいし。俺、みんなに何かしてあげたい」
宗義はぶつかるように足を一歩踏み出して柳に近づいた。柳は小さく頷いた。
「ありがとう。なら、動いた方がいいと判断した時、君ができることをしてくれ」
宗義は困惑した。もっと的確な指示をもらえると思ったからだ。
柳は厳粛な態度で以て今一度ゆっくりと告げた。
「うん。君の判断で頼む」
宗義は一度開いた口を微かに隙間を残して静かにやわらかく閉じ、柳を黙視してから、踏み出した足を戻しては、両足を揃えて、分かりましたと返した。
(頼んだ)
心中で呟いては、今日は爽やかな風が吹きそうだと、青い空を見ながら予測した柳。両腕を広げて、夏にしては珍しく湿気の少ない風をめいっぱい体内に取り込んでから、家の中に先に戻った宗義の後を追った。