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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
八巻 零の奏音が竹と寄り添う大豆の花を揺らした。
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十五



 京都市内。



 洸縁に続いて修磨から式神を受け取った海燕は、きっとあいつが持っているだろうと推測した。ただの勘であり、願望でもある。



「どうした。カイ」

「…天架先輩。普通に海燕って呼んでくださいよ」

「無理だ。俺たちは今、あいつを尾行しているんだぞ。尾行に置いて、重要なのは渾名だ。俺はテン。おまえはカイ。葦弦はイだ。おい。イ。ホシは見失ってないだろうな」

「おう。テン。ばっちしだ」



(…天架先輩は海原国の小説を読みすぎ。葦弦先輩は人が好すぎだ)



 今現在、高級なものばかり盗みを働く一人の人物を追跡中の海燕、天架、葦弦。待ち構えている仲間の元まで案内させようとしたのだ。



「身なりのいい格好をしていることと言い、貴族の邸に向かおうとしていることと言い、間違いないな。貴族が大ボスだ」

「おう。テン。そうに違いないな」

「いえ。迷っているだけじゃないですか?えらく辺りを見回していますし。あ。ほら。貴族区域警備中の武士に止められて、ぺこぺこ頭下げているし」

「んん。本当だな。じゃあ、あれか。あいつは京都市に住んでいないやつか」

「おう。テン。そうに違いないな」

「多分そうだと思います。天架先輩。葦弦先輩はやる気を出してください」

「つまり、俺たちは末端も末端のやつを尾行しているわけか」

「いえ。それは分かりませんけど……あいつ、何か訊いていますね」

「盗人が武士に道を尋ねているのか?何とふてぶてしいやつだ」

「あ。動きましたね」

「テン。俺離脱したい」

「莫迦者。いくら苦手だろうとこれは仕事だ、イよ。さあゆこうではないか。宝の山へ」

「おう。テン。がってんだ」



 やる気の落差は、天と一番深い海溝の最下部ほどあるのではないだろうか。

 二人の実力を考えると不安など起こりようがないのに、不安しかない海燕。あちらこちらへと向かう盗人を二人の背を視界に入れながら追うのであった。



 整備されている貴族区域と違い、武士や農民商人区域はごちゃごちゃしていて、地元の者でも間違うことがある道をひたすらに歩くこと、一時間。盗人はその間にも三人に道を尋ねているようだった。



「ん。止まったな」

「ああ」

「ここは、」

「「「図書館」」」



 図書館。本の貸し出しをしている公共施設を前に、天架はほくそ笑んだ。



「ふっ。常套場所だな。あいつらは薄暗いところではなく、日の当たる処で待ち合わせるものだ」

「紙に書いて会話をするんですよね。他の人は本を読むのに集中していて気づかない」



 物語のような展開に、不謹慎ながらも少し心躍る海燕であった。



「おい。地下に行ったぞ。イ。カイはこのままあいつを追え」

「天架先輩。何処行くんですか?」

「天井裏だよ。他に仲間が居るかもしれないしな。上から様子を見る。おまえたちは後ろから頼むぞ」

「おう。テン。がってんだ」

「天架先輩。気を付けてください」

「武運を祈るぜ」



 常にある煌めく笑顔を向けて、天架は一人、司書に天井裏の在処を訊きに行ったのであった。



「よし。海燕。行くぞ行きたくないけど」

「葦弦先輩。尾行嫌いなんですか?」

「今回の仕事が嫌いなだけだ」

「そうですか」



 これ以降、会話は中断。今までより慎重に、忍び足で盗人を追うのであった。



 地下へと続く階段を下りて辿り着いたのは、三つある部屋に続く廊下であった。一つは書庫、一つは特別展示会に使う品物の保管室、一つは管理室である。



 盗人は保管室へと入ってしまった。書庫ならともかく、誰もが入れるわけもない此処では部屋の中に入れない。どうしようか考えていると、なんと、何の躊躇いもなく葦弦が入っていくではないか。止めるべきだと思いながらも、海燕は手招きされたので、ええいままよと、彼の後に続くと同時に、念の為にと、鯱の形をした式神を二体放っておいた。



 そう大きくもなければ区切れもなく全体が見渡せる部屋の中に入れば、布に包まれた琵琶を大事そうに抱きしめている盗人が視界に入ってきた。


 葦弦は盗人に近づいた。盗人は気づいていないのか、微動だにしなかった。



「盗みを働いたか否か。嘘偽りなく言え」



 葦弦が言えば、盗人はのろのろと頭を上げて、葦弦を見つめて、はいと答えた。



「仲間の警備員も一人捕縛したぜ」

「天架先輩」



 後ろに組ませられた腕を縄で縛られた警備員を引き連れて、天架は海燕の隣に立った。



「仲間はまだまだ居るらしいけど、この警備員が自白してくれるってよ」



 盗人は警備員を見て、小さく頷いた。驚いた反応を見せないあたり、二人ですでに決めていたのだろう。



 捕まるなり、組織から逃げるなり、手段は分からないが、盗人を辞めることを。










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