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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
八巻 零の奏音が竹と寄り添う大豆の花を揺らした。
122/135

「…何で片方だけなんだ?」



 ゆずから母親である譲り葉からの贈り物を受け取った修磨が包みから出したのは片方だけの手袋であった。



「もう片方は譲り葉様が持っています」

「取りに来いってことか?」

「いえ。半分ずつを共有したい、とのことらしいです」

「相も変わらず訳の分からない人だな。希羅は何を貰ったんだ?」

「折り紙で作られた鶴、です」



 白い布で何重にも厳重に包まれた鶴は真っ青な色をしていた。



「何時も肌身離さずに持ち歩いてください」

「持っておけ。何か役に立つかもしれん」

「はい」



 玄武に返事をした希羅は白い布に包み直した鶴を胸元に納め、ゆずに話しかけた。



「譲り葉さんには何をお返ししたらいいでしょうか?」

「『修磨に美味しいご飯を食べさせないと赦さないわよ』だそうです」

「おふくろ」



 修磨は額に手を当てた。



「果報者やね~。修磨」

「子離れを」



 続く言葉を口を閉じることで寸止めした。



(あぶね~。自分に返って来るからな)



「子離れって、親には一生無理だからな。うん。俺は果報者だぜ」



 親であると同時に子でもある修磨は半分心にもないことを口にした。



「今のお言葉を譲り葉様にお伝えしたらさぞやお喜びになることでしょう」



(こいつ。楽しんでないか?)



 ゆずの笑みに悪意を感じ取った修磨であった。









 懐かしい昔の夢を見た。










『しけた面だな』



 鬼の仮面を付けた人は木の上から自分の前に放物線を描いて飛び降り、膝を屈して額を小突いた。



『炒った大豆を寄こせ』



 素直に肯き、家の中に戻って用意をしてまた戻って行った。



『おまえさ。生きてんのか?死んでんのか?』



 受け取ったその人にそう尋ねられた自分は何て答えたのだろう。



『まるでーーだな』



 自分の返答を受けてその人が告げた言葉に、ただそうなのだと、素直に頷いた。



 自分はーーだ。




『……人間は炒った大豆を年の数だけ食って健康を願うんだったか』



 大豆を持って去るかと思ったその人は眼前で腰を下ろすと、何歳だと問うてきたので、十一歳と答えた。



『十一か。通りでちんこいはずだ。俺は成熟しきっているけどな』



 十一個数えて、両の手を合わせて、目を閉じたその人は喝と静かに告げると、これをやると片手に乗せている十一個の大豆を差し出した。



 知らない人。しかも得体の知れない物になってしまった大豆。これは貰っちゃいけない。

 思ったが、のろのろと受け取った。



『有難く持っていろ。俺の気合が入った貴重なものだからな』



 小さく頷きながら、食べろと言われないでよかった。あとで、玄武おじいちゃんにどうすればいいか訊こうと思った。



『ああ。美味いな』



 升を傾けて豪快に一口で食べるかと思いきや、丁寧に一つ一つ掴んでは、口に運んで、味わって食べていた。



『美味い』



 優しい声だったからか。何処か、懐かしい声だったからか。

 知らず、涙が出ていた。でも、不思議と止めようとは思わなかった。



 その人は見えているはずなのに、言及しないで、ただ、じっくりと、一粒食べ終えては、美味いと言い続けた。




『大豆。大切にしろよ』



 食べ終えて立ち上がるやそう言うその人に小さく頷くと、じゃあなと言って、颯爽と去っていった。



 涙は自然と止まっていた。




 後日。玄武おじいちゃんに十一個の大豆を見せて、大丈夫とのお墨付きをもらってから庭に埋めた。炒っているから成長するはずがないのに、すくすくと育って、たくさん実ってくれている。



 成長する過程での緑鮮やかな葉や蔓、蝶々みたいな可愛らしい紫と白の花には癒されたり、和ませられたり、活力を与えられ、実は枝豆として食べたり、大豆をお豆腐屋や味噌屋に持っていって豆腐、味噌、納豆を格安で作ってもらったり、豆ご飯にしたり、五目煮豆にしたり、佃煮にしたり、炒って食べたり、我が家の食事を助けてくれてもいる。









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