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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
八巻 零の奏音が竹と寄り添う大豆の花を揺らした。
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「くっそ~。何時も何時も福のやつばっかいい思いしやがって~」

「不満さ口にしろ。そんで、発散させんだ」



 福の仮面を睨みつける鬼の仮面に、仕丁の内の台笠を持っている男性は飲め飲めと酒を進めた。



「おまえもよ。不満があるんだな。顔に出てるぜ」

「んだよ。三年間も無報酬で働かされて、しかも生活費も自分たち持ちだべ。やってられねぇっての」

「おう。おまえも飲め。おい。五人囃子。そんな上品な曲演奏してないで荒々しいのにしろや」



 台笠男性と意気投合した鬼の仮面は目の前で「うれしいひなまつり」を演奏している五人囃子に野次を飛ばした。五人囃子は困り果てた。



「ぼくたちは静かで落ち着いた曲しか知らないし」

「そうそう。宮中で荒々しい曲なんか。ねぇ?」

「でも新境地に立つのもいいんじゃない」

「そうだよね。これからも重宝されるって保障はないわけだし」

「幅を広めた方がいいかもねぇ」



 先の見えない将来への不安を抱く元服前の少年たちはできることはやろうと、新たな道へと挑戦し始めた。








「おほほほ。我をもっと崇めよ~」

「な~にが崇めよ、よ」



 すっかり酒で出来上がっている福の仮面に、同じく出来上がっているなずなは酒の口臭を吹きかけてハッと嗤い、胡乱な瞳を近づけた。



「福なら差別しないで皆幸福にしてみろっての。それができないで崇めよ。とかふざけたこと言ってんじゃないわよ」

「なずなさん。お酒飲み過ぎ」



 なずなは後ろを振り返り、落ち着いて読書をする勉を見た。



「そんなに飲んでないわよ」

「飲んでるよ」

「まだまだ序の口だっての」



 なずなは一升瓶を勉に差し出した。



「飲む?」

「お酒は思考を低下させるから要らない」

「つまんない男になっちゃ駄目よ」

「はいはい。なずな。其処までにしとこうね」



 遊里はなずなから一升瓶を取り上げた。なずなは不満げな表情を向けた。



「まだ飲む」



 遊里はにっこりと笑った。



「駄目」



 確実に自分の要求が呑まれないと分かったなずなはますます不満げな表情を浮かべた。



「……遊里のけち」

「はいはい。そーですね」

「だから体重が増えたのよ」

「ん?何か言った?」



 ぼそっと呟いたなずなの言葉に瞬時に反応を示した遊里。素面かと思いきや、かなり飲んでいるようだ。



「あ~あ。明日苦労するな」

「頑張れ」

「他人事みたいに言うなよな」



 通りかかった巡回中の海燕は遊里となずなを仕方ないなと目を細めて見つめた。勉は海燕が手に持った紙袋を見て、僅かに口の端を上げながら告げた。



「海燕~」



 遊里は背中越しに海燕に飛びついた。海燕は激しく動揺する心中を悟られんと平常を装った。



「姉上。離せ」



 海燕は背中から遊里を引き離そうとしたが、遊里が抱きしめる力を強めたのでなかなか叶わなかった。



「今日は楽しかった~?」

「…楽しかったよ」

「希羅ちゃんは~?」

「隼哉さんのとこ」



 遊里は駄目じゃないと海燕の頭を小突いた。



「ぐずぐずしてると、取られちゃうわよ」

「だから、そんなんじゃないって言ってんだろ」

「またまた~。照れなくていいのに~」

「だから俺が好きなのは希羅じゃなくて」



(くそ。酒の所為だ)



 勢い余って告げそうになった名称を瞬時に止め、ばつの悪い表情を浮かべた。



「姉ちゃん。兄ちゃん仕事あるみたいだし、もう離してやれよ」

「あ~、ごめんごめん」



 勉の一言で素直に離れた遊里は再度謝り、海燕の背中に行って来なさいと告げて手を振って見送った。



(ありがとな、勉)



 海燕は心の中だけで礼を述べて、巡回を再開した。








「僕には故郷に待っている妻と娘が居るんですよ。でも、あと一年半も会えない」

「そりゃあ、気の毒だ。何処に居るんだ?」

「北海道です」

「それは遠いですね」



 しくしくと泣く仕丁の内の沓台を持っている男性に、同じ父親として草馬と仁夛は同情して酒を進めた。



「何を貰い泣きしてんのかしら?」

「仁夛さんは優しいのね」



 ちょびちょびと酒をたしなみながら元夫の情けない姿に呆れる涼夏に、頬を淡く朱色に染めた和花はのんびりと告げた。



「別に、優しくはないわよ」



 和花はくすくすと笑い嘘ばっかりと告げた。



「ねぇ、意地を張ってないで再婚したら」

「意地なんか張ってないわよ。私は」



『僕には君の夫と名乗る資格なんか無い。だから、せめて、絶対千歳に恥をかかせないような父親になる』



(な~にが、名乗る資格なんか無い。よ)



 涼夏は御猪口の中に入ったお酒を飲み干して、仁夛を凝視した。



(そりゃあ、夫婦に戻らなくてもいいけど。少しは元妻にも目を向けろっての)



「涼夏。飲み過ぎだよ」



 仁夛は沓台男性と玄武の席から外れ涼夏の隣に座った。涼夏はキッと彼を睨んだ。



「うるさい。赤の他人が口出しするな」

「赤の他人じゃないし」



(…何よ)



 何故か目を逸らしたら負けのように感じた二人は一時、睨み合いを続けた。








「幸せだよ」

「わたくしの方がもっと幸せです」



 手に手を取り合って見つめ合うお内裏様とお雛様。二人の幸せ満載の雰囲気を邪魔してはいけないと、その付近は間が空けられていた。



「あれだよ、あれ。俺の理想の夫婦像」



 遠巻きに見つめていた天架は隣で欠伸をしている韋弦の胸の辺りをバシバシと叩いた。



「俺さ。俺さ。ぜってー、かみさんを一生幸せにすんの。家事とかもさ、二人で一緒にしてよ。く~。早く結婚してー」



 韋弦は叩かれながら興味がないながらも呑気にだが、激励はした。



「あ~。まぁ、頑張れ」

「おう」



 ただ今求婚全敗中の天架は未来の花嫁を見つけんと走り出した。韋弦はやれやれと億劫だと思いながらも彼の後をついて行った。






 こうして付喪神が眠りに就くまで各々がそれぞれの時間を過ごした結果、一四日も残り僅かになってしまった。









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