一
「とうとうこの日が来たか」
壁に掛けられた暦一覧表の或る一点に視線を集中させている修磨は、ほくそ笑んだ。
「ふっふっふ。ハッハッハ!」
高々と笑い声を発する修磨の後ろ姿を、希羅は洸縁と共に見つめていた。
「修磨さん、どうかしたんですかね?」
「食べ過ぎで頭が変になったやろう。希羅ちゃんが気に留めることはないからね」
(何て言うか、性格が崩壊して来とるな、あいつ)
親莫迦への道を着実に進めている修磨に、洸縁は呆れながらも、まぁ頑張れとも心秘かに呟いた。
「き、き、き」
(きで始める食べ物)
朝食を三人で囲んでいた時に修磨が自分の方を向いたので、修磨=食べ物を連想した希羅は彼が伝えんとしていることを知ろうと、頭の中で該当する料理名を捜した。
「胡瓜のぬか漬けですか?」
視線を右往左往させていた修磨は目を丸くした。その反応にこれは違ったかと思った希羅は次々と後補を口にした。
「あ、と。きのこご飯ですか?それとも切り干し大根と魚の煮つけですか?菊のお浸し。きんぴらごぼうに」
「あ、えっとな。食べたい料理をせがんでいるんじゃなくてな」
自分の印象って食べ物だけなのかと、食べるの大好きな修磨だが少し物悲しくなった。
「いや、その。今日は、希羅は何すんのかなって。仕事休みだろ?」
「あ、はい。その、今日は、海燕と約束してて」
「へ、へぇ。海燕とねぇ。ふ~ん」
(うわ、動揺半端ないわ)
茶碗を持つ手を微細に動かす修磨。笑みが実に怖い。
「あ、あの。何か私に用事がありましたか?」
「いや。別に。海燕と。へぇ~」
(…海燕って言わない方がよかったかな。けど、あの人の名前を出したらもっと機嫌を悪くしそうだし。それに海燕に会うのは本当だしね)
「そっか。あの日が近いからやね」
「はい」
「あの日って何だ?」
洸縁が知って自分だけが知らないことがあるのがいやに癇に障った。修磨はどうせ嫌味な顔を浮かべているに違いないと、洸縁の方には顔を向けずに希羅に向けた。
「あ、実は」
希羅から詳しい事情を聞けた修磨は快く出掛ける彼女を見送った。