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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
七巻 泡沫の咆哮
110/135

二十




――『海原国』中国地帯。




「私たちの先祖はこれに乗って地球に来た、か」



 月光が照らされる海面とは違い、その恩恵が授けられない深海にて、調達した電気海月の淡い光を頼りに、『乃亜の方舟』を見ながら酒を呷った青竜は呟いた。



「これだけではない。これら、だ」



 青竜は鼻を鳴らした。



「細かいことに煩い。おまえ、変。河童は本来おおらかで悪戯好きな妖怪だ」

「陰気な人魚に言われたくはないな」



 玄武もまた自分が持っている徳利を口に運び、一口だけ飲み込んだ。



「なあ。本当に」



 青竜の問い掛けに、玄武はただ肯定の意を返し、酒を口に含んだ。



「おまえ。よく人間なんかとつるんでいられるな」



 侮蔑を含む物言いに、されどその意味を理解する玄武はまあなと曖昧に答えた。






 不老不死の身体を持つ人魚。



 とは言っても、彼女自身は不老不死の存在ではなく、彼女の血肉を例えば毛先程でも体内に取り込んだ人間だけが長寿を叶えられる。



 生来寿命の長い妖怪は不老不死には興味がなかったが、妖怪よりも遥かにそれが短い人間にとっては魅惑的な存在だったのだろう。



 かなりの数の人魚が囚われ、その身を喰われたと聴いた。



 それ故、最早人魚の数は数体しか居ないとも。







 むかしむかしのはなし。










「そう言えば、前に一人、私のところに来た人間が居たな」

「あんな偏屈な場所をよく見つけられたものだ」



 誰にも見つからぬようにと、幾重もの擬態を施し、其処には只の砂地しか存在していないようなその場所に、青竜は身を潜めるように暮らしていた。



 実態はかなり大きな船に、だが。



「興醒めだ。とか言って何もせずに行った。訳の分からん男だった」

「そうか」

「なくなった」



 周りに浮かぶ徳利を掴んでは口に運び空だと確認した青竜が、その行為を繰り返してどれくらいが経ったか。二十数本の徳利全てが空だと確認し終えた青竜は、ちびちび呑む玄武の徳利に視線を寄こした。



「おい」

「やらんぞ」



 舌打ちした青竜は盗みに掛かったのだが、ひらりと躱される始末。



「おい」



 呪われそうなその瞳を無視して一時。


 飽きもせずに未だに自身を凝視する青竜に根負けしてぞんざいに徳利を差し出したが、礼も言わずに一気に飲み干されたので、怒号を浴びせたのは仕方がないことだと、腹を立てないようにしていた玄武は思ったのでした。














――同時刻同地帯『乃亜の方舟』にて。




 中国地帯を治める夕映を初めとして、西国地帯、東国地帯、北国地帯、南国地帯の王が集まる中、その頂点に立つ夕嵐は厳しい面立ちで皆を見つめた後、静かに口を開いた。



「『海原国』が、日本と他の外国が分け隔てられ、幾千年が過ぎたか」












 数千年前の出来事だった。






 他国が海の中に沈む中、地が隆起した日本だけがその災害から免れた。






 八十億に突破されようとしていた全人類の数は、その災害により三億までに激減した。






 日本が一億。他が二億。






 当時の日本が生き残った人々の救助に励んだがそのほとんどが海に沈み、探索は困難を極める中、何故二億の人間が生き残ったのか。






 その理由は二つ。






 一つは、少ないながらも日本に助けられた外国人が居たから。






 大きな要因であるもう一つは。






 能力を開花したから。






 昔。人間が太陽に居た頃、彼らは地上ではなく海の中で生活をしていた。その頃の名残が危機的状況下で目覚め、水中でも呼吸が可能になり、月日を経て鱗と鰭を腕と足に身に付けるようになった。






 それが『忍禦』の正体。






 そして今現在の数は日本が一億二千に対し、海原が三十億に到達するまでに再起したのだが。












「今地球にあるのは『日本』と『海原』の二国のみ。関係は良好」



 つらつらと今までの歴史を簡略的に語っていた夕嵐は言葉を区切り、鼻で一息つけると再度口を開いた。



「声が届いたと、譲り葉から聞いた」



 その瞬間、どよめきがその部屋を埋める。



「数千、いや。数億年音沙汰なしだと歴代王から聴いていたのに」

「何故今になって?」

「気温が下がったことが関係しているのか?」

「もしや、俺たちは」

「勿体ぶってないで用件だけ伝えろ」



 最年少にも拘らず傲岸不遜な態度の夕映に辟易するよりも、そうだと、他の地帯の王も夕嵐に詰め寄った。夕嵐は落ち着くように告げた。皆は息を詰んで待った。



「克明な言葉はまだ届いていないとのことだ。しかし」



 息を吐き、厳然とした態度で告げる。



「各々城の整備を怠らぬように、肝を銘じておいてくれ」



 それの意味する言葉に、各々の王は顔を引き締め、是と告げた。
















「あ~あ。めんどくさ」




――北海道網走市にて。




 広大な草原を創る草花が清風によって奏でるように葉を擦らせ、滑らかな動きを見せる中、輪の中に居た妖怪は各王に用件を告げ終えた後、腕を伸ばし、肩を鳴らして、そう告げた。



「照影様。では地球はもう」



 照影と呼ばれた、地面にまで垂れ流す漆黒の髪に、絶世の美女と謳われる美貌を持つ妖怪は、そうなのよ~とやる気のない声音を出した。



「おんぼろ船ってこと。死にたくなかったら、皆は頑張ってね~」



 人間よりも遥かに結束力のない妖怪だが、危機的状況ではやはり別なようで。



 それぞれが目配せを利かせながら、是と答えた。



(…ま。長続きすればいいけど)



 照影は欠伸を出して再度頑張ってと告げた。











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