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枯れ木が花を咲かせます  作者: 藤泉都理
七巻 泡沫の咆哮
104/135

十四

「零!」



 飛び跳ねるように身体を起こした希羅は、傍らで座っていた零を強く抱きしめ、幾度も、幾度も謝り続けた。



 意識を手放すまで何時までも。



「~~~姉上」



 意識を失った希羅を抱きしめていた零の頭に、誰かが優しく手を添えた。




















「…えーと。私は舞李さんを追って……舞李さんは?」

「今夕映と出掛けている」

「そう、ですか」




―――『海原国』中国地帯『乃亜の方舟』にて。




 何時の間に眠ってしまったのか。目が覚めた希羅は布団を掴んで上半身を起こし、傍らに居た修磨にそう話しかけた。



「昨日は上手く行ったんでしょうか?」

「昨日じゃなくて、一昨日な」



 希羅は目を丸くした。



「一昨日、ですか」

「人魚に会って眠らされたんだよ。あいつら寝かすのが好きだからな」

「そうですか……その人魚は?」

「今おふくろたちと一緒に宴会中。何でか玄武も居る」

「玄武さんも?」



 修磨は肩を揺らした。



「人魚、青竜せいりゅうと知り合いだとよ」

「玄武さんも顔が広いですね」

「千年も生きてりゃな。ちなみに青竜の方が三歳年上だとよ」

「さすが人魚ですね…じゃあ、他の人達も?」



 希羅は辺りを見渡しても修磨以外の人物は見当たらなかったので、其処に居るのだと思いそう問いかけた。修磨はああと肯定した。



「夕映の誕生日会。王だけあってか、三日連続でやるんだと。今日がその最終日ってわけだ。気分が大丈夫なら行くか?馳走がいっぱいあったぞ」



 希羅は小さく頷き、背を向けた修磨の後を追おうと立ち上がろうとしたが、軽い眩暈に襲われ、へたりこむように布団の上に座り込んでしまった。



(身体が怠いし眠たい)



「希羅。大丈夫か?」



 焦燥のないその静かな声音に、何時もの彼らしくないと違和感を覚えると同時に、胸が締め付けられるような息苦しさを感じた。



「俺、何か持って来ような。何が食べたいとかあるか?大抵のもんは揃ってたから何でも言えよ」



 そう告げては襖へと振り返ろうとした修磨の裾を希羅は咄嗟に掴んだ。



「希羅?」



 抑揚のないその声音に。


 感情のないその表情に。


 逸らしそうになる衝動を堪える。



「希羅。どうした?」

「あと二十一日…二十日」



 ですよねと、顔を俯かせた希羅の掠れ声に、修磨は二十日だなと答えた。






(二十日後。死ぬのは、零だ)






 自分は元よりあの神でさえも希羅の死は善としていない。



 本人が幾ら零を生き返らせてくれと望んでも、それを叶える神が否と答える。



 それは確信ではなく、確定事項だった。



 では何故零がこの世に再び肉体まで与えられて降りて来たかと言えばひとえに。






 地球の声を聴くのに妨げとなる、後悔の念を晴らす為。






(神は希羅に伝えたと言っていた)



 あの刻、血塗れの希羅を救ったのは、玄武と洸縁。



 あの刻、還ることを拒む意識を救い上げたのは、神と。






(二十日の間に。たったそんだけで。後悔の念を晴らし、別離の覚悟を持てってか)






『俺。姉上と一緒に』






 届かなければよかったのに。






『でも姉上は俺と』






 余計な想いなど知りたくもなかったのに。








「我が儘」

「ん?」

「言ってもいいですか?」

「ああ」



 触れたい。けれど触れる資格などないからせめて。今だけでも。



「二十日間。『絆繁草』で。家で過ごしたいです。皆で。一緒にご飯食べたり。洗い物したり。買い物行ったり。お花とか薬草とか採りに行ったり。行ったことがないとこを冒険したり。花火したり。お祭りも。八月六日にあって。全部、皆で。皆と」


「ああ。そうだな。帰ろう」



 希羅は小さく頷いた。


 修磨はもう寝るように希羅に告げた。


 希羅は修磨の裾から手を離し、布団の中で横になり、瞼を閉じた。



「食べ物持って来るからちょっとだけ待ってろ」

「ありがとうございます」



 修磨は再度待っていろと告げると、迷いなく襖へと歩を進めて、襖を開けて、廊下に出るや、背を向けたまま静かに閉じた襖に、ほんの少しだけ背を預け、片手で顔を覆った。











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