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一時間企画

一度きりの彼とのデート

作者: アオニシキ

一時間企画。テーマは「一度きりの」です。




 いつもより準備に気合を入れて、しっかりと服も選んで鏡を見る。そこにはいつもよりもおしゃれをしたアタシが映っていた。さっと髪をポニーテイルにまとめると家を出た。目的地はすぐそこ、隣にある涼太の家だ。


 アタシ、秋香と涼太はいわゆる幼馴染というやつだ。少し古風な言い方だと竹馬の友、といった表現になる。それで今日はその涼太と一緒に買い物をすることになっている。


 きっと鈍感な涼太はデートのつもりなんてないだろうがアタシの中ではデートになっている。涼太の中ではアタシは一番信用している幼馴染であり、そういう対象でないと分かっているがアタシは涼太の事が好きなのだ。絶対にそのことは言わないけれど。


 涼太の家のインターホンを押してからそんなことを考えていると、インターホンから反応が返ってきた。


『おう、秋香か。相変わらず早いな。少し待っててくれ。今出るから』


 そんな優しげな声とともにドタドタと響いて来る音を聞いていると、玄関が開き中から涼太が顔を出した。アタシは内心を悟られないように努めて明るい声を出す。


「遅いわよ! アンタからのお願いなんだからちゃんとしなさいよ!」


「いや、待ち合わせ時間までは十分はあるんだけど。相変わらず秋香は早めに準備するんだね」


「当然でしょ。ギリギリまで準備しない幼馴染がいるんだから」


 アタシの表情筋は自然と仕事をしてくれたようで、涼太に悟られることは無かったようだ。よかった。馬鹿みたいなやり取りをしていると自然体になれる気がする。この男のそばは心地よいから、これで最後にしなければ。



 そんなこんなで、馬鹿なやり取りをしながらやってきたのはいわゆるモールといった場所。飾りの話ではない、いろいろなお店が並んだりフードコートがあったりするあれだ。ここのフードコートのクレープが絶品らしいと、アタシの親友である春宮が言ってた。いつか食べに来たいものだ。


「それで、プレゼントだっけ?」


「ああ、女の子の視点からどんなプレゼントが良いか意見が聞きたい。最終的に僕が決めるけど一人じゃ変なものを買ってしまうかもしれないし」


 そういえば涼太はアタシの誕生日に付箋を買ってくれたっけ。なぜか付箋一枚一枚に世界中の名言が書いてあった付箋として使えない代物だったけれど。あんなのを選ばせるわけにはいかないわね。


「アンタのセンスは壊滅的だからね。良い判断だわ。最後にはアンタが決めるというのも評価してあげる。最後にヘタレないでよ?」


「分かってるよ! あんまり秋香に協力してもらいのもアレかなと思ったんだけど……

あの付箋を渡したときの秋香の反応を思い出してね」


 アレって、もしかして気付いてるの? アタシは恐る恐る追求した。


「アレって何よ。アタシは別にそんなに負担に思ってないわよ」


 大嘘だ。分かってるけれど、アタシの内心を涼太に悟らせるわけにはいかない。


「そっか! ならよかった。秋香は休日に誘ってもいつも断るから迷惑かなと思ったんだ」


「馬鹿、鈍感!」


「何で唐突に毒舌!?」


 本当に馬鹿だ。こんなことでムカついてしまうアタシも含めて。


「いいから! さっさと雑貨店にでも行くわよ」


「ええぇ……まあ、いいけど……」



 そんなこんなで雑貨店。無事に薄いピンクのシュシュを購入させた。地味にかわいらしいものを選ぶのが大変だった。自分の姿でなく親友の春宮の姿で似合うか考えた理由はアタシが普通の女子とは身長が合わないからである。アタシは少し背が高いのだ。地味に自慢だがお姉様と呼ぶのはやめてもらいたい。アタシに妹は居ない。


 あと、涼太の目的を考えるとこの方が良いというのもある。


「いやー、たすかったよ」


「アタシが居なかったらアンタ今頃小学生でも使わないような手鏡を選ぶところだったものね」


「面目ない」


「シュシュにしても何で真っ先にミリタリー柄を選ぼうとするのよ」


「本当っに! 迷惑をおかけしましたぁ!」


 というかなぜそんなものを置いているんだこの店は。そして、なんなんだそのテンションは。


「いやでも本当に助かったよ、秋香。お礼になんかおごろうか?」


 こいつがこういうことを言うってことは、本当に手詰まりだったのね。こういう時は素直におごられないと納得しないのよね、昔から。


 ふと、クレープの事を思い出して、アタシは自然とクレープをおごってほしいと言ってしまった。本当はさっさと帰るつもりだったのに。


 それで、フードコートに来た。クレープをおごってもらってもうすぐ帰ろう。これ以上いたら望むことが増えてしまう。そんなアタシの内心とは裏腹に自然と二人掛けの席についてしまった。


 開き直ってハグハグとクレープを食べた。あ、うわさ通りめちゃ美味しいクリームもしつこくないしアタシ好みの味だ。そんなことを考えていると涼太が声をかけてきた。


「本当に助かったよ。秋香。秋香なら春宮さんの好みとかもわかるし、僕からも頼みやすいし本当に助かった」


 涼太のその言葉にアタシは冷や水をかけられたような気分になった。分かっていたことだったのにクレープのおいしさに逃げていた。そんなアタシの変化にも気付かず、涼太は続ける。


「これで、準備はできた。僕は明日、春宮さんに……」


「涼太」


 アタシはそれ以上続けてほしくなくて思わず遮った。鈍感な涼太はきょとんとしている。


 涼太のバカ。そう言ってしまわないようにアタシは不自然にならないように言葉をつなげる。もう帰ってしまおう。せっかくのクレープももうおいしく感じられないだろうし……


「アタシだったからいいけど女子の前でほかの女子の話題を出すのはNGよ。クレープ食べ終わったから帰るわねごちそうさまじゃあね」


 一息で言いきってアタシはその場を後にした。



  ~~~~



 こんなつもりじゃなかったのに。ちゃんとこれっきりであきらめて区切りをつけるつもりだったのに。アタシもバカだ。結局あきらめられないままだ。


 今日の目的は最初から涼太が春宮に送るためのプレゼント選びだ。涼太から相談されたんだ。それを利用して気持ちに区切りをつけるはずだったのに。



  ~~~~



 分かってたよ! 涼太が今日の事をデートだった思ってないことは。

 分かってたよ! 涼太が春宮のことを好きなのは。涼太がアタシに相談する前から気付いてた。

 分かってたんだ……アタシはしょせんただの幼馴染にしかなれないって。

 なのにあきらめられないから、せめて最後にデートと言う思い出にしたかったのに……


 家に帰って部屋にこもって、隣に聞こえないようにぽつりとつぶやく。


「デート、楽しかったよ。涼太。大好きだったよ。りょうたぁ……」


 明日から春宮に心配かけないようにしないと。涼太を祝福できるようにしないと。


 一度きりのアタシと涼太の最期のデートはこうして終わりを告げた。





以下設定とか


起 関係の説明、待ち合わせ

承 プレゼント探し

転 デート終了、報酬のクレープ

結 心の中、帰宅後


涼太りょうた

主人公的ないい人で鈍感。秋香の幼馴染で、秋香の友達に惚れている


秋香あきか

主人公、いわゆる幼馴染ポジション。幼馴染に対しては少し乱暴な言葉遣い


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