花占い
わたしはじっと、風に揺れるピンク色の花を見つめていた。深呼吸をひとつして、細くて可憐なその花弁に指を伸ばす。
「好き、嫌い、好き、嫌い」
オーソドックスかつ簡単な花占い。二つに一つというごくごく単純明快なその結果など、信憑性という点ではおおいに疑問だと思う。けれど恋する乙女は藁をも掴む思いとともに一時の気休めを得るために、花に頼ってしまうものなのだ。
「何をしているんだ」
いきなりかけられた声に、驚いて手から花を離してしまった。
「あーっ! もう、急に声をかけたりするから、分からなくなっちゃったじゃない!」
怒りの声を上げながら振り向くと、そこには待ち合わせていた彼が呆れ顔で立っていた。
「花を睨みつけてなにやらぶつぶつ言っている怪しい高校生。注目されているぞ」
言われて周囲を見回すと、通り過ぎていく人達が、無遠慮にじろじろとわたしを見ている。もしかしてずっと見られていたのだろうか。
だとしたら、かなり恥ずかしい。
「俺も、声をかけるのをやめようかと思ったんだがな」
「それで、この距離なわけ?」
彼はわたしから一メートルほど離れた場所に立っている。お近づきになりたくないという態度が見え見えで、むっとせずにはいられない。
「何をしていたんだ」
「見て分からない? 花占いよ」
わたしの言葉に、彼が怪訝そうに眉を顰めた。
「花占いってのは普通、花弁をちぎって数えるものじゃないのか」
「う」
そう。わたしは花を手折ることなく、手に取っていただけ。さらには目で一枚ずつ必死に花弁を辿っていたのだ。
もっと花弁が少ない花にすればよかった、と途中で思った事を知られるとまたバカにされるから、言わないでおこう。
「だって花をちぎっちゃうのってかわいそうじゃない。せっかくこんなにきれいに咲いてるのに」
風に揺れる可憐なその花の姿に目を向けた彼は、しゃがみこんでいるわたしに手を差し出しながらふ、と笑った。けれどわたしから手を伸ばしても届かない距離だ。
「で? 誰と誰を占っていたんだって?」
しかたなく手を伸ばすと、彼が一歩踏み出してわたしの手を掴む。そのままぐいっと引き上げられると、曲げたままだった膝が少しだけ軋んだ。
「そりゃ、決まってるじゃない。わたしと」
「俺か」
彼は空いている方の手で口元を覆っている。その肩が小刻みに震えている事に気付き、むっとしたわたしは掴まれている手を振り解こうとした。
「なによ。これでもけっこう切実なんだから」
掴まれている手に力が込められ、とてもではないけれど解けそうになくなってしまう。
「そんな占いよりも俺を信じる方が、簡単で間違いがないと思うがな」
「え。それって、どういう」
意味なのと尋ねかけ、すぐに気付いた。
「ということで、とりあえず移動しないか」
周囲からの視線はかなり減ったとはいえまだまだこちらに向いている。それが嫌なら手を離せばいいのに、彼はそうしようとはしない。
「あ、うん。そうしよう、うん」
わたしはこくこくとうなずきながら、にやけた顔を隠すために、彼の腕にしがみついた。