食事介助しましょう
「あーん」
「んっ」
モグモグ、ゴックン。
「どうですか、お味は?」
「美味い」
砂吐きそうなラブラブカップルのような事をしていますが、けして恋人同士ではありません。
カイル様に私が箸で煮豆を食べさせているのには理由があります。
カイル様はベジタリアンです。
お肉を食べません。
何故なら牛の魔族だったからです。
モォ=牛ってまんまやん!
白黒斑髪は白黒牛柄、鬼の角は牛の角、思わず尻尾を探してカイル様の尻をガン見した私はけして痴女ではない。
ちなみに魔王様のメェ=羊でした。それでもってやっぱりベジタリアン。
そんなカイル様の食事は麦、トウモロコシ、大豆、野菜など。
麦はスプーンで、トウモロコシはそのまま、野菜はフォークで優雅に食事をしていました。
しかし問題は大豆。
あっちへコロコロ、こっちへコロコロと転がる大豆。
カイル様は大豆が一番の大好物です。
必死でフォークで刺そうとしては、その度にお皿が割れます。スプーンに持ち変えても皿から大豆が面白い程転がり落ちます。
私は思いました。
馬鹿だ、こいつ。
もう手で食べたら良いのに、魔族の根源に拘わるからとけして手掴みで食べません。
トウモロコシは手掴みで食べてたではありませんかと言ったら、トウモロコシは手掴みで食べるのが伝統だと真顔で言われました。
もう一度言います。
バカです。
いつまでたっても大豆を食せず悪戦苦闘するカイル様にイライラしましす。美形が大豆に真剣になる姿も絵になりますが、もはや破り捨てたい心境です。
私の黄金の右手、略してストレートパンチが出る前に介助することにしました。
介護者はどんなに苛ついても手を出してはいけません。
そして冒頭に戻ります。
「ユーリは器用だな」
「悠莉です。カイル様は奇妙な方ですね」
箸で大豆を挟みカイル様の口へとせっせと運ぶ。
親鳥は偉大だ。人間に生まれて30年。人間なのに鳥の気持ちが理解出来るようになるとは。
仕事でも食事介助はしていたが、こんなに元気な老人はいなかった。
「はい、ラスト一個です。最後くらい自分で食べましょう。自分で食べれたら嬉しいですし、より美味しく感じますよ」
「………ああ」
フォークを手に持ち狙いを定め振り下ろす。
ガンッ!バリンッ!コロコロコロ………
通算20枚目の皿が見事に割れ、ラスト一個の大豆は虚しく床へと転がり落ちた。
その時のカイル様の顔は写メに撮って記念に残したいほど悲哀に満ちていた。
超ーウケル~と内心嘲笑ったのは良い思い出だ。