過去を振り返りましょう
時は遡る。
魔界では重大な問題が社会問題になっていた。
まず魔族とは人間と比較すると見た目ははさほど変わらない。ただ角やら翼やら牙など魔族それぞれどこかしらかは特徴はあるが姿形は殆ど変わらない。
だが魔族と人間がもっとも違うのは寿命である。
魔族は寿命が長いせいか人間と違い出生率が低い。だからか何千年前かに淫魔指導による少子化対策がとられた。
えげつない方法ではあったが効果覿面。
魔界はベビーブームとなった。
だが余りのえげつなさに音をあげた者達が続出し、中には精神に異常をきたす者も数多くいた。その対策は打ち切られたが、おかげで人口数がかなり増加した。
それから何千年、少子化問題もなくなり魔界は至って平和であった。が、忘れてならなかった。過去最高のベビーブームがあった事を、その年齢の者が人口の40%占めることを………
そして魔王を中心に魔界会議が開かれた。
題して『高齢魔族社会復帰対策』。
「ではこれより魔界会議を始めます」
司会の吸血鬼が青白い顔をしながら進行する。
「現在魔界では推定3000歳以上の者が4割り、そのうち2割りが5000歳以上の高齢であります。その中の大多数が魔力量を蓄積し発散しない無能者です」
魔族は魔力の塊、魔力を使用し現象を作り、それが魔素となる。そして魔素が魔界を潤わす。
ようするに人間でいえば財産があるのに生活保護を受ける状態の高齢魔族が大勢いる状態である。
「魔素がなければ魔界の植物は育ちませんぞ」
堕天使が黒い翼をバサバサと羽ばたかせながら意見する。4割りの魔族が魔素をだせば大地はさらに潤う、と真面目なことを意見しときながら内心は『大好物の林檎収穫量40%増量とは!アップルパイ、焼き林檎、林檎飴、林檎ジャムもうどれか1つではなく4ついっぺんに食べれるかもしれぬ』などと考えていた。
「俺等だけでも何とかなってるけどよ。それに胡座をかいてんのがな」
白虎が尻尾が左右に揺れている。かなりイライラしている模様だ。
それはそうだ。魔界に住むなら魔素(税金)を出す(払う)のは義務だ。こちらだけ出して、あちらは出さぬなど不公平すぎる。
「そうだわ!殺し合いでもするのはどうかしら?」
人魚が良いこと思い付いたとばかりに笑顔で提案する。魔力で攻撃すれば魔素は生まれる。弱肉強食の魔界において殺し合いはスポーツ競技扱いだ。無能の老いぼれなど魔素を出させるだけ出させてポックリ殺しちゃえ、な発想だ。
「「賛成!」」
堕天使と白虎の二人が人魚の提案に即答で答えた。
「その中に前魔王陛下も居ますが……殺せますか?」
司会の吸血鬼が携帯固形血液(o型-)補助食品を補給したからか、顔色を白くしながら分かりきった答えを尋ねた。
「「「絶対無理!」」」
「前魔王陛下は絶対防御を打ち破るには困難ですぞ」
堕天使は昔、空中散歩中に轢かれた。言葉のあやではなくマジで轢かれた。牛に乗った前魔王陛下に。防音込みの防御結界を牛ごと覆い、空を光速で駆けて行った。ちなみに前魔王陛下は牛に跨がり寝ていた。居眠り運転駄目絶対!
「あー、彼奴の攻撃は半端ねーぞ」
魔力で粉状マタタビを作成し噴霧、酔い潰されたあと白虎に残るのは多大な羞恥心と1割の歓喜。かつてあれほどの量、品質、効能を持つマタタビとは出会えた試しがない。だが攻撃を自ら受けに行くのは自殺行為だ。
「策士だから頭もいいわよね」
人魚は速く泳げる。水中での速さなら魔界一速い種族である。だが前魔王陛下に負けた。人魚は泳ぐのに夢中で背に前魔王陛下が座っているのに気づかずタッチの差で負けた。狡いと詰れば勝負方法は速く泳げる方ではなく、より速く岸にタッチした方が勝利者であると述べる。ルールを明確にしなかったのが一番の敗因だった。人魚は策に溺れたのであった。
だが、しかし魔王様は前魔王陛下に勝ったからこそ魔王になったはず。
「「「魔王様なら殺s」」」
「無理だぞ」
魔王様即答。
吸血鬼は思い出す。前魔王陛下と魔王様の三日三晩の死闘を………二人は睡眠さえとらずに荒い息を吐きながら目を充血させ、片手は既に使い物にもならずダランとし、残された片手の指も痙攣し震えたままの状態で互いに最後の技を繰り出した。
「「はぁああああ!!!!」」
雷鳴が轟く豪雨の中でさえ緊張が伝わり、最後の勝負に声を負けじと互いに張り上げた。
「「あいこで、しょっ!!!!」」
ゴロゴロ…ピッカーン………………ドォーン!!!!!
稲妻が大地を刺すと徐々に雲がは晴れ光が二人を照らす。
前魔王陛下は『チョキ』を魔王様は『グー』を…………………勝負は決まった。
強き者が魔王へ。
それが魔界の掟である。