小さな一歩
拙い文章ですが、読んで頂ければ幸いです。
どんなに寒くてもあなたがいるから幸せ
あなたがいるから頑張れる
こんな歌を聞いたことは誰にでもある経験だろう。
今の俺もそんな気持ちだ。じめじめした梅雨の時期も毎日たのしい。
健全な高校二年生、青春真っ盛り?の俺には当然、好きな人がいる。去年から続いて同じクラスの里中さん──里中友紀さんだ。際立ってかわいいわけではないけど、彼女のもつ明るく柔らかい雰囲気や優しい性格はとても魅力的で、同じクラスだけでなく学年の男子みんなの人気を集めている。
俺が里中さんのことを好きになったのは、今年の4月の終わり。二年生になってからの新しいクラスにも慣れてきたころ。
俺は帰るときにたまたま里中さんと玄関で出くわした。このときすでに里中さんのことが気になりつつあった俺は里中さんに声をかけてみた。「さよなら」とたった一言。すると里中さんも笑顔で「さよなら」って返してくれた。こんな簡単なことで、人を好きになってしまうんだな、と思った。俺の「気になっている」という感情は間違いなく、このとき「好き」に変わった。
それから2ヶ月。俺は初めて、俺の親友──俺が最も信頼を置いている竹岡──イケメンで友達も多く、かわいい彼女がいるリア充野郎──にこのことを話すことにした。もちろんまだ他の誰にも話していない。
昼休み。
「なぁ竹岡ぁ」
スマホゲームの話をしている竹岡の声を遮る。
「なんだよ」
「俺さぁ。好きな人できたわ」
竹岡は口に含んでいた千切りキャベツを吹き出した。
「いきなりどうした(笑)まぁいいや。で、誰よ?」
「里中さん」
「はぁ~~??お前さぁ(笑)」
「なんだよ」
「お前なんかに友紀ちゃんはムリだろ」
友紀ちゃんとか言ってるが決してこいつと里中さんは仲がいいという訳ではない。
「まぁ、この朝山進だもんな。」自嘲してみる。
「おう!あの、ネクラで友達も少ない朝山進だよ(笑)顔は悪くねーんだけどなぁ」
「・・・」
「まぁ友紀ちゃん彼氏いねーらしいし、可能性はゼロじゃねーよ。まぁ俺は応援してやるよ」
こんな奴だから友達も多くて彼女もいるのだろう。まだ1年と少しの付き合いだけど、本当にこれだけは言える。こいつはイイ奴だ。
「どうやって?」
「考えておくよ。」
「おーい朝山ーはやく数学の課題だしてよー」
数学係の高橋に呼ばれた。高橋はこのクラスで俺の唯一と言っていい女友達だ。女子として意識したことはないが。
「はーい、今だすよ。
とりあえずお前が協力してくれるのは心強いわ」
「おう、任せとけって」
俺は数学の課題を出さないといけなかったのでこの日の作戦会議はこれで終わった。
翌日。
「よぉ、進」
遅刻ギリギリ竹岡が教室に入ってきた。
「おはよう。どうした?いつもなら俺に挨拶なんかしないだろ」
「いや、秘策を思いついちゃってさー。お前と友紀ちゃんが仲良くなるための」
いきなりアイデアを持ってくるとは思っていなかった。
「進。お前ってさ、勉強だけは得意じゃん?で、テスト近いじゃん?」
だけは、ってなんだよ。
「まぁそうだな。だからって俺が里中さんに教えるなんてのはムリだぞ?里中さんも結構勉強できるじゃん?」
「最後まで話聞けって。加奈によると友紀ちゃん、地理だけはどうしても苦手らしいんだよ」
加奈というのは竹岡の彼女の名前だ。
「そうなんだ」
「お前、地理教えろよ。決定事項な。俺に逆らうなよ(笑)」
「・・・」
逆らえない。
「まぁ任せろって。完璧な状況つくってやるから。」
一週間後──
梅雨があけ、少し暑いと感じるようにもなった6月の下旬。ちょうど一学期の期末テストの時期だ。今日から部活動も活動停止となり、本格的にテストモードになる。
「進。今日の放課後だぞ。わかってるな?」
いつものように昼食をとりながらの作戦会議。
「わかってるよ。それよりお前がどうやって俺、お前、吉井、里中さんの4人で勉強会っていう約束をとりつけたか知りたいんだが」
吉井というのは竹岡の彼女、加奈ちゃんの名字だ。
「約束?そんなもん加奈と俺が一緒に勉強する流れで『朝山君に教えてもらおう』って加奈が友紀ちゃんに言っただけだよ」
「本当にそうなら結構気楽だな」
「嘘つく必要なんてねーよ」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが放課を告げる。いよいよだ。緊張・・・はしてないな。
「ガラガラッ」
4人の中で一人だけ違うクラスの吉井が教室に入ってきた。
「じゃあ始めるか。まず数学~」
よしよし、竹岡、上手く仕切ってくれてるな。
4人の中で数学が一番得意なのは里中さんだ。みんなワークやプリントを進めながら、わからないところは里中さんに聞く、という形式で勉強することになった。
「ねぇー友紀ぃー。ここわかんないんだけど」
吉井が里中さんに尋ねる。因みに吉井はかなりバカだ。
「ここはχの範囲がこういう風になるから──」
里中さんが丁寧に説明している間、俺は自分のワークを進めながらも、彼女のほうをチラ見しては幸福感に浸っていた。なかなか理解しない吉井に対して、一生懸命に説明する里中さんを見て、本当にいい子だな、とか思ったりした。
「みんなキリのいいとこまでいったな、よし、次は地理だ」
きたか。まぁそんなに教えることもないだろう。
数学のときとは違い、地理は黒板も使いながら、俺がただひたすら教科書の内容を解説するという形式をとった。
「朝山君?この地域で漁業が盛んな理由はわかるけど、どうしてこの地域も同じように漁業が盛んなの?」
里中さんの言葉遣いはとても丁寧だ。「恋は盲目」とは言うけれど、そんなものは関係なしに、俺には彼女の欠点が見つけられない。
「あー、そこは、海流がぶつかりあってるし、昭和初期に、ぞうしぇ、造船業が盛んだったから、ずっと漁業が中心なんだよ」
噛んでしまった。それでも俺は里中さんからの数回の質問に的確に、わかりやすく答えたつもりだ。吉井に説明するのは苦労した。
「じゃ、俺ら帰るわ!」
突然竹岡が言った。は?聞いてねーぞ?作戦会議じゃそんなこと一言も言ってなかっただろ。
「え!あ、うん、じゃあな」
動揺を隠しきれない。
「え、竹岡君と加奈帰っちゃうの?」
「ごめんな、俺ら用事あるし」
「そうなんだ」
そして竹岡と吉井は帰って言った。
教室に残された俺と里中さん。
「・・・ど、どーする?俺たちも帰る?」
「うん」
「わかった」
二人で玄関へ向かう。わざわざ俺が彼女を家まで送っていくのは不自然だし、このまま玄関先で別れることになる。
「じゃあ私行くね」
「ちょっと待って!!…………あの、LINE!LINEやってるよね?LINE交換しない?俺も地理以外は里中さんに教えてもらいたいし。」
この機会を無駄にしたくない。里中さんと二人きりなんてもうないだろうから。そして、竹岡がせっかく気遣ってくれたんだからなにか成果が欲しかった。
「うん、いいよ」
「あ、ありがとう」
LINEを交換。
「それじゃあね、朝山君」
「うん。さようなら」
家に帰る。真っ先に竹岡に報告したい。
プルルルルル─プルルルルル
「おー進、どうだったよ?」
「おいテメー(笑)なに帰ってんだよ(笑)おかげでLINE交換できちゃったじゃねーか」
「おー!!やったじゃん!頑張れよ」
(プチッ)
電話を切られた。
俺がLINE交換を希望したことは里中さんにどう思われているだろうか。下心が見え見えなのだろうか。俺を異性として少しは意識してくれただろうか。後者だといいと切実に思う。
とりあえず一言送っておくか
『今日はありがとう。次からもわからないところがあったら教えてねー』
俺にしては上出来だ。送信。
里中さんからの返信はすぐに返ってきた。
『いえいえ(*^^*)
こちらこそありがとう。今回は地理でいい点とれそうです笑』
このメッセージのおかげで、俺はこの日の勉強により一層精をだした。
あのとき、勇気を出してLINE交換をしようと申し出て本当に良かったと思った。
第一部:完
読んでくださり、ありがとうございます。
第二部がどんな展開になるかわかりませんが、必ず書くので、待っていてください。