二の八
決起集会が終わった次の日、子ども達は集められて、遊んだりせず、大人の目の届く場所にいるように言われる。
エミリーは暇なので宿屋の入り口付近で、遊びに来たエリクと話す。当然、二人の周りには何人もの大人がいる。
「息が詰まっちゃう」
正直に、エミリーは感想をエルクに吐き出す。
「しょうがないよ。さらわれたんでしょ?」
「らしいけど、あたしには記憶ないし。ずっと気絶してたらしいから」
「ふうん、ねえねえ、魔族のこと覚えてないの?」
「全然。それにしても、皆殺気立ってるわね」
「そりゃあね。昨日の山鳴り、覚えてるでしょ」
「うん、凄かった」
決起集会の会場となった酒場の隅にいたエミリーも、あれを聞いた。
「何か起こってるみたいだから、ぴりぴりもするよ」
「村、捨てるんじゃなかったのかな」
「どうなんだろう、昨日の決起集会では盛り上がっていたみたいだけど、一晩立ったら、冷静になったんじゃない?」
エリクは大人びた口調で言う。
「実際、普通の人間が束になったって、魔族を倒せるとは思えないもんね」
詰まらなそうにエミリーは足元の小石を蹴る。
「勇者様なら、どうなんだろうね」
エルクがそう言ったところで、
「勇者になど頼るな」
涼しげな声。
驚いて子ども二人が振り返ると、そこにはマントを風になびかせてリンが立っている。
「あ、剣士さん」
「リンだ。勇者なんて不確かなものに頼るな。自分の力で何とかできないのであれば、逃げればいい。最初に、村を捨てて逃げようとしていたのが正しい。俺はそう思う」
「ううん、でもさ、やっぱり故郷じゃん」
無邪気にエリクが反論する。
「故郷を捨てるのは、抵抗があるよ」
「お前達みたいな子どもでもそうか?」
意外そうにリンは目を丸くする。そんな表情をすると、急にリンは幼く見える。
「そりゃ、やっぱ嫌だよ、離れるのは。だって故郷だよ」
「なるほど、そうか、そうだな」
自分を納得させるように、リンは何度も頷く。
「それはそうだ、そうだな」
そこで、リンは山に目をやる。
「水はどうしているんだ?」
「え?」
エミリーには質問の意味が分からない。
「水だ。一角獣の山の水脈から水をとっていたんだろう?」
「ああ、そのこと? えっと、今まで貯めといた分と、後は近く、って言っても結構歩くけど、近くの川まで歩いて水汲みしてるの。あたしも手伝ったりしてるのよ」
「そうか、大変だな」
リンは山から目を離さず、目を細める。
「気が変わった」
「え?」
「ふぇ?」
唐突な発言に疑問の声をあげるエルクとエミリーを無視して、リンはいずこかへ去っていく。




