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魔鎧転生~異世界の変身ヒーロー~【未完】  作者: 片里鴎(カタザト)
第一話 魔人フォイル、登場!
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エピローグ

 結局、朝食を食べ終えて、荷造りが終わる頃になっても、ゴドーは姿を現さなかった。


「お、お金借りておいて返さないなんて、ひどいですよね。も、もうちょっと待ちましょうよ、ふひひ、きっとすぐに来ますから。あたしが魔術で焼きかけたから、怯えていて顔を出せないんですよ、きっと」


 最初のうちはそう言って何とか和まそうとしてくれたココアも、今では黙って黙々と荷造りの仕上げにかかっている。


「はあ……」


 リルカは、今日朝起きてから何度目かになるため息をいつの間にか吐いていて、自分で自分を窘める、こんなことではいけない。


 昨日、ほとんど宿屋に戻らず、出歩いては町の人達に手当たり次第に隣国のジーグについての情報を聞いていたというのはリルカにも伝わってきていた。

 ジーグに行くつもり、いやもう向かっているとも考えられる。昨日お金が必要だったのは、ジーグへの旅費とも。


 それならそれでいい。危険な旅に付き合わずにいてよかった。

 そんな風に割り切れない自分に、リルカは歯噛みする。


「さて、行きましょうか」


 もろもろを振り切るようにリルカは言って、荷物を背負う。カミサに来た時にはゴドーに背負ってもらっていた、革のリュックだ。


「あう、は、はい」


 ココアは何か言いたそうにしながらも、結局何も言わず、自分の荷物を背負う。


「ありがとうございました」


 宿屋の受付でリルカが女将に挨拶をすると、


「あら、もう行くのかい? あれ? 勇者様、あの、ちょっと頼りない感じのお兄ちゃんはどうしたんだい?」


 そんな風に聞かれ、


「いえ、ちょっと所用で」


 と、リルカは固まる顔を無理矢理に平静なものに変えてそうとだけ答える。


「あら、そう。でも勇者様、やっぱり出発するのは明日にしたらどうだい?」


「どうしてです?」


「それがさ」


 秘密話のように女将が声を潜めるが、元々の声が大きいので大して意味はない。


「ついさっきこの町に来た冒険者の一団がさ、見たんだって」


「な、何を?」


 リルカの後ろにいたココアが興味津々で割って入ってくる。


「魔人よ、魔人。魔人同士が戦っていたんだってさ。髑髏の魔人と柱に手足が生えたような魔人が戦っていたらしいわよ。肝を冷やして、見つからないように怯えながらここまできたんだって」


「ま、魔人」


 ぷるぷると震えてさっきまで興味津々だったココアは怯えだす。


「魔人が……」


 リルカは考え込む。

 魔人同士が戦うことは、そこまで珍しいことではない。けれど、ついさっき戦っていたということは。

 ひょっとして、ゴドーがそれに巻き込まれたんじゃあないか。

 そう考え出すと、リルカはだんだんとそれがありうる話に思えてくる。

 どうしよう、もしそうだとしたら。

 どうしようもない。もちろん。今の自分にそれをどうにかする力なんて無い。あの時とあの父が死んだ時と同じように。


「あーごめんよ、勇者様」


 と、あまりにも深刻な顔をしていたのを見かねたのか、女将は慌てたように、


「本当はそんなに気にすることはないんだよ。勇者様が行くのとは逆方向で戦っていたみたいだしねえ。それに、魔人なんて嵐みたいなもんだよ。いくら避けようとしても、運悪くぶつかればおしまい。大体、このカミサの中にいたら安全ってものでもないしねえ。その戦ってた魔人の片方が気紛れでもおこせば、この町だっておしまいさ」


「すいません。力が足りず。私は、まだ、魔人の一人を倒す力すら持っていない」


 歯を食いしばりながら頭を下げるリルカをみて、女将は更に慌てる。


「ちょ、ちょっと、勇者様。そんなに真剣に考えることじゃないよ。魔人なんて、人間がどうにかできる存在じゃないんだからさ」


「いえ」


 だが、リルカは虚空を睨みつける。いつか会う魔人達を睨みつけるように。


「いつか、倒します。モンスターも魔族も、そして魔人も。私が、倒します」


 その言葉に、女将も、そしてココアまでも呆然とする。


 しばらく目を丸くして絶句していた女将は、しかしやがて笑顔を広げると、


「そうかい。うん、勇者様なら、いつかできるよ。その時まで、魔術師様も頼むよ」


 突然ふられたココアは驚きながらも、


「はっ、はいっ、もももちろん。勇者様は、あたしが守りますっ」


 と握りこぶしを見せる。


「……ありがとう、ございます」


 今度は、感謝を込めて、リルカは頭を下げる。

 女将にも、ココアにも。





 結局、予定通りに行商人が出発するというので、リルカ達も予定通りにその行商人の馬車に乗せてもらうことになった。


「頑張ってくれよ、勇者様」


 髭面の男が叫ぶ。


「また来てくださいね、絶対」


 まだ若い母親が子どもと一緒に手を振る。


 行商人の馬車に乗り込む場には、カミサの人々のほとんどが集まっている。誰もが、最後にリルカを見送るためにやって来ている。

 食料やちょっとした道具、ポーションなど、餞別として人々が渡してくる品々を、最初はリルカも遠慮して断っていたが、誰もが半分押し付けるようにしてまで渡してきた。結局、誰も彼もから受け取っているうちに、リルカの荷物は膨大なものになって、馬車に詰め込むのも一苦労になった。


「皆さん、ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げるリルカに、一際大きな歓声があがり、そうしてついに馬車が動き出す。


「ふひひ……いい人達でしたね」


 ココアが話しかけてきて、リルカは万感の思いを込めて頷く。


 いつもそうだ。誰もが自分のことを讃え歓迎し、そして送り出してくれる。

 それはきっと、自分が希望だからだ。魔族を、モンスターを、魔人をどうにかしてくれるのではないかという希望。

 裏切るわけにはいかない。魔王を探して、倒さなければいけない。

 今は魔人と戦う力さえ持たない自分でも、いつかは。


 そうして、魔人のことを考えたところで、また不安になる。

 ゴドーは大丈夫だろうか。

 もう、自分と一緒にいるのが嫌になってジーグに行ったのなら、それで構わない。生きていてくれさえいれば。


「こんなことなら、あの時、断っていれば」


 ぽつりとリルカが呟いたのは、ゴドーのカミサへの同行を認めたことへの後悔だ。


「え?」


 当然ながら意味が分からず、ココアが目を丸くする。


「あ、いえ、何でもありません」


 そしてまたリルカは物思いに沈む。

 結局、自分はゴドーを傷つけ、危険に晒し、見捨てただけじゃあないのか。無事でいてほしいが、無事であったとしても、二度と自分と会いたいとは思わないだろう。

 自分についてくるのならば危険だからと、色々と無理を言って鍛えようとした。怒った。叱った。そして怪我をさせた。

 思い返せば、一緒に旅を続けようとしてくれるわけがないことばかり自分はしている。


「馬鹿ですね、私は」


 俯いて、またもや呟いているリルカに、


「だ、大丈夫ですか?」


 心配そうにココアが顔を覗き込んでくる。


「ああ、すいません。ご心配をおかけして」


「本当に、大丈夫?」


「ええ」


「ゆ、勇者様」


「ええ、大丈夫です」


「そうじゃなくて、勇者様!」


「えっ」


 必死なココアの呼びかけに、リルカは顔を上げる。


 同時に馬車が止まる。


 馬車の前には、必死で手を振っているゴドーの姿がある。


「いやあ、間に合った、よかった。いや、でもさ、遅れたのは悪かったけど、待ってくれててもよかったんじゃないかなーとは思うけど」


 話しながら、ゴドーは馬車に近寄ってくる。


「何だ、君は?」


 行商人が怪訝な顔をするが、


「あ、あれ、仲間、仲間です、ふひひ」


 ココアが説明すると、


「ああ、そうなのかい。君も乗るかい?」


「もちろんですよ。乗れます? スペースあります?」


 そうして、騒々しい音をたてながらゴドーは馬車に乗り込んでくる。


「お、遅いっ」


 と、ココアがゴドーに叫び、パンチを打ち込む。だが、その叫びは嬉しさを隠しきれていない。


「うっ」


 腹に拳を打ち込まれたゴドーは身を屈めながら、


「す、すまん。すまんついでに、実は、リルカ」


「え、あ、え、ええ」


 あまりのことに凍り付いていたリルカは、声をかけられてようやく硬直が解ける。


「金返すの、もうちょっと待ってもらっていいか? その、無一文になっちゃって」


「ふひっ、ひょっとして、それで気まずくてあたしと勇者様の前に出て来れなかったんじゃないの?」


「げ、ばれたか。ははは」


 ゴドーとココアは笑い合う。


 その光景を見ていても、リルカはまだ現実のものとは思えず、呆然としてしまう。


「そ、そういえば、知ってる?」


 ココアははしゃいでいるようだ。声を華やがせながら、しきりにゴドーに話しかける。


「ん?」


「今朝早く、カミサの外の方で魔人が戦ってたんだって。ねえ、勇者様?」


「え、ええ。そうです。髑髏の魔人と太い柱のような魔人が戦っていたとか」


 少し慌ててリルカが反応すると、


「へ、へえ」


 ゴドーは強張った顔をして、目をあらぬ方向へと逸らす。

 リルカにはその反応の意味がよく分からない。

 けれど、とりあえず。ゴドーがそこにいるのだと、ようやく現実感を持って受け入れることができた。


「その、ゴドー」


「ん?」


 ちょっとびくびくと怯えるような妙な反応をしながらゴドーが顔を向ける。


 遅れてしまったことを怒られると怯えているのかと思い、思わずリルカは笑う。笑いながら、目に涙が滲む。


「おい、泣くほど笑うことないだろ」


 ゴドーが口を尖らせるが、それに応える余裕がない。


 リルカは泣きながら笑い続けて、それでも、何とか言葉を口にする。


「おかえりなさい」


「ん、ああ」


 照れたようにゴドーは目を逸らして頬をかき、


「その、ただいま」


 そうして、馬車が再び動き出す。

 南へ向けて。

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