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魔鎧転生~異世界の変身ヒーロー~【未完】  作者: 片里鴎(カタザト)
第一話 魔人フォイル、登場!
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一の十三

 魔人、ジョージ・アームストロング・カスターは夜を急いでいる。

 生身だ。金色の髪と髭を風になびかせ、夜の道を走っている。


「運を返してもらう」


 呟いて歩くその速度は、馬の全力疾走と同程度であり、その速度で延々と休むことなく走り続けているカスターの姿は第三者から見れば異常の一言だろう。


 だが、そんなことを考える余裕はカスターにはない。カスターの中にあるのは、ただただ、魔鎧フォイルのみ。奴が自分の砲撃をものともせず近づき、殴り飛ばしたということだけだ。

 そのことだけが脳髄と精神を支配している。


 カスターは魔人として生まれ変わって数十年が経つ。魔鎧の装着にも慣れきっている。だが、そのカスターでも、長時間の魔鎧の装着は負担が大きい。

 それを補うかのように、魔人は生身の姿でも人間を超越した能力を持つ。元々が強靭な魂であるがゆえに、その肉体が生まれ変わる際に、その魂に相応しい怪物じみたものになるのだ。


 その能力を持って、夜の野を疾走する。赤いマフラーをなびかせながら。


 おそらく、今頃同じようにエルジェーベトも夜を縫ってあの少女に近づいているのだろうとカスターは予想する。エルジェーベトは猟犬のように、一度目を付けた対象を追うのは得意だ。大体の居場所も特定しているのだろう。

 一方のカスターには、そんな猟犬じみた追跡能力はない。だが、それでも問題はない。信じているからだ。己の強運を。

 出会ったあの遺跡、その周辺をうろついていれば、必ず出会える。確信している。


 夜のうちに近づき、日が昇ると共に仕留める。それがカスターのプランであり、おそらくはエルジェーベトも同様のプランだと予想している。

 あの時に邪魔を入れた魔人、彼女と敵対するのは面倒だから退いたが、彼女についてある程度の情報は仕入れている。

 契約を重視し、義理堅いことで有名な魔人だ。今日で契約が切れると言ったということは、間違いなくそうなのだ。次の日が昇った瞬間に彼女の契約は終了し、カスターとエルジェーベトが付近で暴れようと、戦おうと、虐殺をしようと気にも介さないだろう。


 それでいい。

 明日、魔人フォイルを殺す。そのためにカスターは走る。


「何だ、あれは」


 外界からの刺激に、カスターの思考が魔人フォイル以外に向けられる。

 カスターの夜でも彼方を見通せる眼が、いくつもの松明の炎を捉える。ちょうど進行方向だ。このままの速度で進めばすぐに接触する。


 横転した馬車、それを取り囲む数匹の馬、それに乗っている荒くれ共が松明を持っている。

 馬車に隠れるようにして、女性が一人、幼子を抱いて震えている。

 盗賊と、それに襲われた馬車か。こんな夜中に、道ともいえない道を走るとは、おそらく事情があったのだろうが、不運にも盗賊に見つかったわけだ。


 俺は違う。

 カスターは自分に言い聞かせるように口の中で呟く。

 そんな不運は、俺には関係ない。何の関係もない。俺は幸運なのだから。


 不運なまだ若い女性は、泣きながら幼子をきつく抱きしめている。

 薄く笑った盗賊達は、馬から降りて、女性と幼子を取り囲んでいる。うら若き女性と幼子の不運を嘲笑っているのかもしれない。


「馬鹿共が」


 不運なのはお前らだ。

 カスターは魔鎧を装着することなく、生身のまま加速する。

 地面の小石が、衝撃で浮き上がる。

 それを、両手で全てキャッチしながら、横転した馬車へと近づいていく。別に、真っ直ぐ進んだらそこを通らざるを得ないだけのことだ。


「はっ、なっ」


 ナイフを片手に女性に近づこうとしていた盗賊の一人が、猛烈な速度で近づいてくるカスターについに気付く。


「なんだあ、ありゃあ」


 盗賊達が全員カスターに気付いてそちらを向く。さっきまでの嘲り笑いは消え、顔が強張っている。


「運が、悪かったな。誰も彼も、幸運不運からは逃げられない」


 一人ごちて、カスターは駆ける。


「まっ、魔人だっ」


 夜、異常な速度で駆ける人の形をしたものが一体何なのか、その正体にようやく気付いた盗賊が叫んだ時には、既にカスターは横転した馬車を飛び越すようにして走り抜けている。


 そして、盗賊は全員が、打ち倒されている。

 頭に、胸に、あるいは首に、カスターによって指で撃ち出された小石をめり込ませて、絶命している。

 後に残ったのは、呆然とした女性と幼子だけ。


 だが、カスターは決して彼女達を助けようとしたわけではない。


「ああ」


 走る足を止めず、カスターは自らの手の内を眺める。


「砕けたか」


 元々ひびが入っていたのか、力を入れすぎたのか、手の内にあるのは砕けて散っている石の残骸だ。


「二人、残したな。別にいいか。大した訓練にもならん」


 そう、彼女達が助かったのは、単に砕けてしまったために石が足りなかったからだった。


 カスターは石の残骸を投げ捨てると、また思考をフォイルに戻す。

 この俺を殴ったあいつを、殺さなければならない。

 頭を占めるのはそのことだけ。

 この俺に攻撃を当てることなどあってはならない。そんな存在は消してしまわなければならない。幸運が、幸運が逃げていく。

 徐々に早くなっていくカスターの走る速度は、もはや肉食獣の全力疾走と比べても遜色のないものへとなっている。

 早く、早くあいつを殺したい。

 はちきれんばかりの殺意に身もだえしながら、カスターは疾走し、やがて。


「見えた」


 遥か向こうに、ついに町を、カミサを見る。

 もうすぐ出会える。

 カスターは牙をむき出しにするようにして笑う。

 町ごと潰してやってもいい。どんな手を使おうとも、奴は殺さなければならない。

 東の山々を縁取るようにして、日が昇りつつある。


 跳ねるようしてカミサに近づこうとしていたカスターの勢いが、弱まる。


「あれは」


 カミサの町から大分離れて、野原の真ん中に一人立っている人影を見つける。

 自分の存在を主張するように、何もない野原の中心で立ち尽くしている。モンスターか盗賊にどうぞ襲ってくださいと身を晒しているようなものだ。

 だが。


「ぬう」


 唸り声がカスターの口から漏れる。

 カスターがその人影を見つけたように、向こうの人影もカスターに気付き、見ているのを感じる。視線を感じる。

 彼方から、凄まじい速度で迫り来るカスターを見ても、その人影は動こうとしない。ただ、じっと見てきている。

 魔人だ。

 理屈よりも先に、感覚でカスターはそう判断する。


 そして、走って二十歩程度の距離まで近づいたところで、カスターは足を止める。

 同時に、ついに日が昇る。


 そこにいた魔人の顔は、カスターが追い求めていたものだった。


「フォイル。どうやら、やはりまだ運があるらしい。あっさりと会えた」


 そう言って笑うカスターに、


「こういうのは、待ち構えられてたって表現するもんだ」


 徒手空拳で、ゆっくりと魔人フォイルは構える。





 予想通りにカスターと一対一になれた。ここまでは、計画のうちだ。

 冷静な顔で、見よう見まねでファイティングポーズを取りながら、自分に言い聞かせる。だが、俺の心臓はさっきからばくばくと凄まじい音をたてて鼓動している。


『落ち着け。むしろ順調だ』


 分かってる。


『気で負ければ負ける。心配するな。お前は、我ですら不可能だと思った計画をここまで順調に進めてきた。お前の方が精神的に有利だ』


 ありがとう、少し落ち着いた。


「そうか。あの少女を見捨て、俺と一対一で戦うか。賢いが、そんな方法じゃあ運はついてこない」


 カスターが髭を撫でる。


 そうか。そう思うか。そうだろうな、それが普通だ。


「あんた、ずっと運に拘ってるみたいだけど、自分の運に自信でもあるのかよ」


 余裕を見せる相手に対して、俺は必死で警戒しながら、しかし表面上は冷静なまま言葉を返す。


「俺を誰だと思っている。銃弾の飛び交う戦場を潜り抜けたジョージ・アームストロング・カスターだ。俺に弾は当たらない。俺に不運はやってこない」 


 ハンサムなカスターの顔が、目が丸くなるくらいに見開かれて狂気じみたものになる。


「そうとも、俺は世の中の仕組みを分かっている。他の誰もが馬鹿みたいに必死で足掻いて生きていくしかないが、俺はどうすればいいのか分かっている。運だ。この世は幸運が支配している。だから運を引き寄せることだけが必要なんだ」


 延々と語るカスター。


 これが、こいつの妄念か。その一部か。

 そう思った、その時。自分の意思とは無関係に、首が勝手に傾く。耳のすぐ横を、何かが高速で通り過ぎていく。


『勝手に避けさせてもらった。小石か。指で弾いたな。話をしながら不意打ちとは、典型的な小細工ではあるが効果的だ』


「さすがに避けるか」


 狂気を貼り付けた顔はそのままに、カスターは石を弾いたらしい親指と人差し指を摺り合わせる。


「だが、いいか、フォイル、お前のしたことは戦場に背を向けて逃げるのと同じだ。それでは運は手に入らない。銃弾の下を潜ってこそ、運はついてくる。つまりは」


 カスターは両手を真っ直ぐ伸ばして気をつけの姿勢になって、


「お前はここで負けるということだ。お前の奪った俺の運も、返してもらうぞ。魔鎧エンジェル・アイ、装着」


 その言葉と共に、カスターは寸胴に足と太い両腕が生えた形の鎧を身に纏う。


『以前、一撃入れたとはいえ、あれは向こうの油断もあった。決して易しい敵ではない。心してかかれ』


 分かっている。


「魔鎧フォイル、装着」


 瞬時に俺もフォイルを身に纏い、ついに朝日降り注ぐ草原で、魔鎧を纏った姿の魔人が二人相まみえることになる。


『時間をかければこちらが不利。一気に行くぞ』


 ああ、フォイル。けど、その前に、相手のリズムを崩すのも大切だろう?


「カスター、一つ言っておくがな」


 俺は軽い口調で話しかける。


「む?」


「俺はリルカを見捨てていない。エルジェーベトの奴も、食い止める手は既に打ってある」


「何?」


 カスターが虚を突かれたその瞬間、俺は両手で頭と胸を守るようにしながら、一歩でカスターとの距離を詰める。

 いや、詰めたつもりだった。


「ぐ、あ、あ」


 衝撃。衝撃。衝撃。

 覚悟していたとはいえ、俺が前に踏み込むと同時に発射された砲撃が命中する。それはいい。覚悟していた。だが、これは。


『八連射。そこまでできるのか』


 腕、腕、足、腹、腹、腕、肩、腕。

 瞬時のうちに襲ってきた衝撃は連続していて、耐え切れなくなり俺はよろめく。

 フォイルの説明によると、一瞬で八連射らしい。八、か。そこまでは、予想外だ。左右で二連射程度だと思っていたが。


 そして、カスターは腕に備え付けられた砲の発射と同時にバックステップをしていた。バックステップといっても、魔鎧を身に着けた状態の魔人のバックステップは並みではない。

 結果、砲撃を受けながらも前に進んだ俺と、カスターの距離は、むしろさっきよりも広がってしまっている。


「はったりか? いや、そんな気配もない。本当に、何か手を打ったのか。ならば、運はまだお前にあるのか」


 ぶつぶつと独り言にしては大きな声で呟いているカスター、その両腕からがこりがこりと音がする。

 ひょっとして、リロード中か?


「ぐっ」


 だが、チャンスに思えるその状況でも俺は飛び込まず、ゆっくりとにじり寄る。

 理由は二つ。一つは、万が一、あのリロードがブラフだった場合、また飛び込むところを狙い撃ちされるから。

 もう一つは。


 フォイル、結構まずいぞ。八発ももらうと、体が満足に動かない。回復するまで、少し時間がかかる。


『その前に相手のリロードが終わるか。とりあえず、時間を稼げ。奴はどうやら本当にエルジェーベトに対して手を打ったかどうかが気になるらしい』


 話で興味を引くとするか。


「カスター、知りたいか、俺がどんな手を打ったか?」


 返事はない。両腕の音が終わったカスターは、無言で俺の次の言葉を待つ。

 全速力で近づくことができるまで回復するのに、おそらくあと数秒。


「教えてやろう。それは」


『いかん、避けろ』


「くっ」


 横に思い切り跳んだ瞬間、さっきまで立っていた地面が轟音と共にえぐれる。

 一発だけか。こっちが相手を引き込もうと話に熱を入れようとした瞬間を狙われた。


『心理戦も向こうが上か』


 やる気を削ぐようなことを言うな。

 体制を立て直しながら、俺はぼやく。


 カスターの腕からはまた音がしている。そしてその両腕は俺に砲口が向けられたままだ。

 片手で撃ったら、もう片方の腕で牽制しながらリロード。そういう使い方もできるのか。

 そのやり方をされたら、隙が見つからない。

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