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六日目、参


「……昨日の今日であいつに会うのかよ」

「昨日ってか、正確には夕べやけど」

「うるせえよ」

 笑みを浮かべるヒロトとは対照的に、ヤオは渋い顔をしていた。

 あの時の会話を考えるに、からかわれることは容易に想像がつく。だがそれを理由に行きたくないと言うのも癪だったため、黙っていると。

「僕も“baroque”行ってみたい!」

 ぎょっとして見下ろすと、きらきらした笑顔がこちらを見つめていた。思わず固まるヤオに、ヒロトはにやりと笑って。

「二対一。はい、決まり」

 そう言い放った。

「あーはいはいわかったよ行きゃ良いんだろ、ったく……」

 ヤオは無造作に外套を掴むと、羽織ながら外へ出た。二人はきゃっきゃと騒ぎながらついてきている。犬か、と再び内心つっこんだ。

 今にも息絶えそうな街頭の照らす道を三人で歩く。ヤオは周りの建物の中からたくさんの目が自分達を――特にユキを見ていることに気づき、溜息を吐きながらユキを引き寄せた。

「何?」

 見上げてくる無邪気な瞳に、もう一度溜息が出た。何なんですかーと頬を膨らますユキと、先程のユキの表情とを頭の中で比べてみる。

 ……大違いだな。まるで年齢が違うくらいに表情の作り方が違う。

 そう考えて、すぐに自分の考えに失笑した。

 流石にそれはないな。大方こいつも金持ちだからこそあるような苦労をしてきたんだろう。遺産相続とか、後継者問題とか……。

 遺産相続。その言葉にナツメの言葉を思い出す。

《“妖精”と呼ばれるものがもう一つ、あった可能性がある》

 一応訊いてみるかと、ヤオは口を開いた。

「そういえば、お前に訊きたいことがある」

「何?」

「お前、カラト会長が持ってる妖精について何か知ってるのか?」

 ぴくっとユキの表情が動いた、気がした。

「……知ってるよ。だけどヤオはそれを知って、どうするの?」

「どうもこうも、俺はその妖精を盗むよう依頼された。それをしくじったんだ。情報屋を信用してないわけじゃないが、情報不足だったってことだと反省したんでね」

「結構真面目だね」

「うるせ」

「あと情報屋(うち)のせいにもせんで欲しいんですけどー」

「うるせえな」

 笑顔で見上げてくるユキを見て、先程失笑した考えがヤオの頭にもう一度浮かぶ。

 ユキはヤオを見上げたまま、今度は少し困ったように微笑んだ。街頭が瞬く。

「……自分で望んだとはいえ、やっぱり引き込むのはちょっと気がひけるね」

 ユキはそう言いながらヒロトを見た。ヒロトは無表情で黙ったままユキを見ている。

「一体何の話だ?」

「何でもない。妖精のことだっけ? ヤオが知りたいのは彫刻の方?」

 冷や汗が一筋、ヤオの背中を伝った。

「できればどっちも、かな」

「良いよ。でもまず彫刻の方からだね」

 ユキはにっこり笑うと、ヤオの数歩先に行き、振り返った。

「その彫刻は二〇年以上前、数億円を投じてカラト会長が手に入れた水晶の彫刻だよ。とある有名な彫刻家が作ったらしいけど、これにはモデルがいるといわれてる。だけど、それが誰なのかは一切知られてない。僕は一度だけ見たことがあるよ。とても、美しかった。……それでね、ヤオ。一つ訂正があるんだ」

 街頭が瞬き、ぶつん、と小さな音を立てて切れた。暗闇があたりを覆いつくす。

「その彫刻の名前は“妖精(ようせい)”で、妖精(フェアリー)じゃない。ヤオが依頼された妖精(フェアリー)は、唐櫃会社(あそこ)にはいない」

 続きはまた今度。そう呟くように言ったユキの目は、遠くの光を受けて黒く輝いていた。


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