七日目、伍
「それで、明日の対策だけど」
十五時。
二人はそれぞれヒサメの焼飯を食べながら作戦会議を行っていた。
「恐らく奴らの目的は僕とヤオと面の奪取」
「え」
思わず焼飯をかき込む手が止まった。
「面だけじゃないのか? 俺も?」
「そりゃそうだよ」
ユキは淡々と口の中に焼飯を入れながら答える。
「今面だけを手に入れたところで、使いこなせる人員がいるとは思えない。そもそも君があれだけ使いこなしているんから、何とかして君を不可解物質要員として手に入れた方が、安上がり」
「安上がり……」
一応褒められたはずなのに、最後の言葉で今一つ嬉しくなかった。
「どうすれば良い」
「僕の遠隔操作機は相手の手の内にあります」
「え」
先刻から手は止まりっぱなしだ。
「そこで、ヤオにお願いがあるの」
「何?」
「遠隔操作機が残念ながら未だ正常に作動することは、三日前証明されたんで」
「三日前……」
「第弐地区の火災だよ。あれ、僕」
ユキの言葉で、昨日見た火災の動画がヤオの頭の中を流れ始めた。大規模だった。
「うわあ……」
「そんな顔しないでこれでも良心の呵責がすごいんだから。とにかく、遠隔操作機がある限りこっちは圧倒的不利。そこで、ヤオの出番」
「俺が、何を?」
「面をつけたヤオを止めることはまず無理だと思う。だからヤオは何とか僕の攻撃をかわしながら相手の懐に飛び込んで、遠隔操作機を破壊してほしい」
「……俺が?」
「ヤオ以外にいるんだったら、その人で」
さらっとそう言うと、ユキは再び焼飯を食べ始めた。
ヤオは深い溜息を吐き、浮かんだ疑問を口にする。
「……そもそも何で軍部の残党がまた妖精やら不可解物質やらを手に入れようとしてんだよ?」
「ま、安っぽい支配欲だろうね」
それを、ユキが食べながら切り捨てた。
「こんな太陽のない地下でも、自分の手中に収めたいと思う人間はいるってことだよ。それがかつて一国を好きなように動かしていた軍の上層部なら、依存症と言っても良いと思うよ」
支配依存症。
浮かんだ言葉に寒気がした。
「そのためには力が必要、だけど新たに作る余裕などない、そこで過去に作った力が目に入った時、果たして要らないと言える人間がいるかな。ま、それが妖精であり面なんだよ」
「お前、元々そこまで読んで……?」
ユキは答える代わりに、にやりと笑った。
その表情にも、寒気が走る。
「そういえば、お前の戦闘力って」
「戦闘力……一応そこそこの武勲はあったと思うよ。興味なかったから覚えてないけど」
「ほほう、じゃあ戦闘素人の俺が、お前の攻撃をかわせると?」
「面があれば大丈夫でしょ。壊れたら一巻の終わりだから、死守しつつ相手の懐に飛び込んで遠隔操作機を破壊して下さいねー」
「お前っ……良い性格してるな」
「そーお? ……ああ、一つ言い忘れていたことがあった」
ユキは空になった皿の上に箸を置くと、両手を合わせた。そして、にっこり笑って。
「僕、君より年上だよ。お風呂入ってくるねー」
絶句するヤオを放置し、風呂場へと走っていった。




