七日目、弐
目が覚めて真っ先にユキの様子を確認するのは、ヤオの中で最早日課と化しつつあった。あまり喜ばしくないことのように思えて、思わずしかめ面になる。そう思いつつ見てみると、ユキは掛け布団を下敷きに丸くなって眠っていた。
ヤオは一瞬躊躇ったが、結局前と同じように掛け布団を引っぱり出してユキの上に被せた。そしてヒロトがいないことに気づき、盛大に舌打ちをした。
ふと空腹を感じ時計を見る。丁度十三時を指したところだった。日が昇り沈むなどの明確な目印になるものがないこの地下で、人々の生活は思い思いの時間に起き、眠るといったものとなっている。ヤオもその例外ではなく、起きた時間から一日が始まるといった生活を送っていた。
冷蔵庫に向かい、覗き込む。昨日ヒサメに持たされた……もとい買わされた食糧がすし詰め状態。とりあえず食うに困ることは無さそうだ。
とりあえずと水を手に取った時、机の上に置いてあった通話端末が着信を告げた。
水を持ったまま端末を手に取る。嫌な感じを受けつつ【通話】を押して耳に当てると、ヤオの言葉を待たずに男が喋り始めた。
『ご無沙汰しております。成功されたようで、安心しましたよ』
笑っているような、軽率な声だ。そう感じたことを隠して、仕事用の声で答える。
「ああ。だが問題が起きた」
『そうですか? こちらの情報では万事順調に進んでいるはずですが』
「それが、実は……」
間違えましたと言い出しづらくて、思わず言葉が切れる。嫌な間を埋めたくて無意味に辺りを見回すと、ユキの背中が目に入った。
一度、深呼吸。
「確かに妖精を盗んだつもりだったんだが、どうも違ったようなんだ」
はあ? あんた何言ってんだ?
そんな返答を予想して思わず身を硬くする。だが、一瞬の間の後聞こえてきたのは、予想外の笑い声。
『いえいえ、貴方は確かに我々の望む妖精を盗み出してくださいましたよ。ご安心を』
「は? いや、だから」
『貴方は何も知らないのでしょう?』
ヤオの言葉を遮って吐かれた言葉が、ヤオの神経を大いに逆撫でした。
反射的に口を開く。
「ふざけんな。何を言っている。じゃあ逆に訊くが、お前が何を知ってるっていうんだ」
『私は貴方が知りたいと望む情報全てを持っています。どうです、お礼と言っては何ですが、貴方の質問には何でもお答えしますよ……そこの妖精を引渡して下さるならば』
絶句するヤオに、男は言葉を続ける。
『そうそう。貴方の象徴である狐の面は必ずお持ち下さいね。……では』
明日の十三時に“希望の丘”でお待ちしております。
その言葉を最後に一方的に通話を切られても尚、ヤオは口を開けなかった。
「依頼主から?」
ユキの言葉に我に返った。慌てて見ると、ヤオの苦手な表情をしたユキが座っている。
その表情に、覚悟を決めた。
ヤオはユキの前に立つと、ユキの目を真っ直ぐ見て。
「全部、話してくれるか」
そう言った。問うことは、しなかった。




