一日目
分厚い鋼鉄が覆う灰色の天蓋。
太陽に代わり一日中街を照らし続ける無数の巨大な明広告。
宙を這うように設置された筒路。
そんな明るく五月蝿い中心街から離れた丘の上、木々に囲まれた神社の境内。
ヤオはただ、狐の面を見つめていた。
事は一本の通話からはじまった。
『“狐”さんですか』
通話端末を耳に当てると同時に聞こえたその言葉に、ヤオは眉を顰めた。世間を騒がせ、知らない者はいないこの通称を、当の本人は毛嫌いしていた。
「……何の用だ」
ぶっきら棒な声音に通話相手の男はヤオの心境を察したらしい。おや、と笑うと、軽い調子で言葉を続けた。
『何か気に触ったのでしたら申し訳ない。貴方に依頼したいことがありまして』
「内容と日時、報酬を」
『唐櫃財閥会長の所有する“妖精”を盗み出して頂きたい。日時の指定はしませんが、出来るだけ早い方が助かりますね。報酬は貴方のご都合に合わせましょう』
「唐櫃財閥……」
相手の言葉を受け、ヤオは無意識の内に呟きながら窓の外へ視線を向けた。遠くに見える明広告の中でも一際大きなもの、それは真っ赤な色で【唐櫃会社】と明滅し続けている。
「大きく出たな」
『貴方の実力でしたら可能かと。貴方の存在を知らぬ者はこの街にはおりません』
嘲笑にも近い笑みを浮かべたヤオに合わせるように男もまた笑う。
「わかった。五日以内に決行する。報酬は成功した後、改めて」
『では五日後に。期待しております』
通話を終え、もう一度明広告に目を向けた。【唐櫃会社】の赤い文字は何も変わらず明滅している。ヤオは何故か自分が炎に飛び込む蛾になったような気がして、笑いながら目を閉じた。
始まりました【空想科学祭FINAL】。
初参加な上に見切り発車もいい所ですが、何とか完結まで上げられたらと思います。
宜しくお願い致します。